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小説【拝啓あなたが好きでした】

『拝啓
あなたが好きでした
あなたは真暗な深海に差し込んだ、ただ一筋の光でした』

彼が手紙を書いたのは3日前。
彼が自殺したのは昨日。
彼の手紙に私が気づいたのが今日。

私は彼の事を殆ど知らない。
職場で何回か顔を見たことがある程度で、知り合いと言えるのかも怪しい。
なので、彼が自殺したことよりも好意を持たれていたことの方が正直驚いた。

私は彼の手紙をデスクの奥にしまった。


「今日、飲みに行かない?」

同僚の問いかけに私は笑顔で頷いた。
どういう状況であっても会社も社会も回っていく。
それが世の中だ。


「自殺しちゃった人、パワハラ受けていたらしいよ。」

同僚は今来たばかりの生ビールを勢いよく流し込むとそう言った。
私は、そっか、とだけ強弱のない声で返答しウーロン茶を一口飲んだ。


「誰か救ってあげられなかったのかな。」

同僚の言葉に一瞬、動作が停止したのを隠す様に私は持っていた焼き鳥を一気に口に詰め込んだ。

もし彼が自殺する前に私が手紙に気づいていたら。
もし彼に声を掛けていたら。
もし彼ともっと親しくなっていたなら...


『今、会社ですごく辛くて...
だけど君がいるから頑張れる。
俺頑張るよ。』


そう言いながら彼は私を抱きしめる。
私は彼の腕の中で力強く頷くんだ。


「てか最近、課長あたり強くない?」

同僚の話半分に私は彼のことをひたすら考えていた。

「次のお店行く?」

私は同僚にごめん、とだけ言うと急いで会社に戻った。
そして屋上に上がった。

彼が飛び降りた場所。

「星綺麗だね。」

私は夜空を見ながら1人で呟いた。
彼に届くだろうか...

次の日もその次の日も私は仕事が終わると会社の屋上に上がった。
ここにいると少しだけ彼に近づいた気がする...


彼と2人でここに来れたら彼は私に何を話してくれるのだろう。
こんな時、何を考えてどんな風に笑いかけてくれるのだろう。

死んでしまったら何も分からないじゃん...



「ここにいたんだ。」

私は背後から聞こえた声に驚き、振り返った。
同僚が微笑みながら近づいてくる。


「私さ、自殺しちゃった人から手紙もらったんだよね。」

同僚は私の隣に来るとフェンスの上で腕を組み、そう言った。

「あなたが好きでした、って。」

あぁ...きっと今日ここで同僚に会わなければ私は永遠に彼を想い続けることが出来たのかも知れない。

私は明日からは彼を思い出すことはないだろう。
そればかりか今日は彼に憎しみのような感情すら抱くかも知れない。


死んでしまったら何も分からない...?
いや、生きていても同じなのかも。
彼が生きていても死んでいても何も分からない。



結局、人の心なんて分からない。




高いビルの屋上のフェンスに腕を組んだ女性が1人で立っている。
頬に一筋の光を輝かせた女性は空に向かって静かに語りかけた。



「あの子のデスクにあった手紙見ちゃったんだよね。
私、君のこと好きだったから悔しかった。
君、あの子に嫌われたかもね、ごめんね。



でも全てを投げ出すってそういうこと。」


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