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『This Is Your Bloody Valentine』完全ガイド|盤選びから魅力まで

ジャケットデザイン

忙しない日常の中で、ふと耳にするノイジーなギターの渦。 それが、My Bloody Valentineの魔法です。

「名前は知っているけれど、どこから聴けばいいのか分からない」 そんなあなたにこそ知ってほしいのが、1985年発表のミニアルバム『This Is Your Bloody Valentine』。

後に『Loveless』で到達する陶酔的サウンドとはまったく異なる、ダークで退廃的なポストパンク期の姿を刻んだ初期作品です。

シューゲイザーの王者へと進化する以前、彼らがどんな音を鳴らしていたのか。その「原型」を知ることは、マイブラの深淵に触れる最短ルートでもあります。

今あらためて聴くと、この粗削りな音像は驚くほど新鮮です。


なぜ今、『This Is Your Bloody Valentine』を紹介するのか?

2026年2月、My Bloody Valentineは7年ぶりの世界ツアー中です。

2025年11月にダブリンで復活公演を果たし、12月には香港、そして2月には日本ツアーを開催。大阪と東京の公演はすべてソールドアウト。

この動きに呼応するように、ファンの間では初期作品への再評価が急速に進んでいます。

デジタル環境が当たり前になった現在、音楽はかつてないほどアクセスしやすくなりました。一方で、録音の粗さや衝動そのものが刻まれた作品への欲求も確実に高まっています。

MBVといえば、1988年の『Isn't Anything』、そして1991年の『Loveless』という完成形のイメージが強いでしょう。しかし、その前段階にあたるポストパンク期は、意外と語られていません。

『This Is Your Bloody Valentine』は1985年1月にリリースされた7曲入りミニアルバムです。

録音は1984年12月、West Berlin(西ベルリン)のSCS 8TK Studiosで行われました。当時のバンドはまだアイルランドのダブリンに拠点を置いており、このドイツでの録音が初の海外セッションでした。

レーベルはTycoon Records。インディーズシーンで注目を集めていた小規模レーベルからのリリースです。

ここで聴けるのは、まだ「音の壁」へ到達していないMBV。ゴシック色の強いボーカル、鋭利なギター、ストレートなリズム。

この作品を起点に『Isn't Anything』や『Loveless』へ遡ることで、バンドの進化はより立体的に見えてきます。

2026年の今、ツアー再開とともにMBVの原点に触れるには最高のタイミングです。


音楽スタイル

音楽ジャンル: ポストパンク/ゴシックロック/初期オルタナティブ・ロック

音楽的特徴: 後年の浮遊感とは異なる、乾いたギターと重心の低いボーカル。リヴァーブは控えめで、構造は比較的ストレート。Kevin Shieldsのギターはまだグライド奏法に到達していない時期の鋭いストローク。

類似アーティスト:

  • The Birthday Party

  • The Cramps

  • The Jesus and Mary Chain(初期)


おすすめポイント3選

1. 伝説のプロローグ

後のシューゲイザー完成形とは別物。ここにはゴシック的衝動を抱えた若きMBVがいる。進化の出発点を体感できる貴重な記録。

2. Kevinの原石

Kevin Shieldsがまだ実験途上にある時代のギター。グライド奏法以前の鋭いストロークが生々しく、後年の音響実験への萌芽が随所に見える。

3. 初期メンバーの化学反応

初期ボーカリスト、David Conwayのダークな声質が強烈な個性を放つ。後のBilinda Butcher期とは対照的な魅力。Tina Durkinのキーボードも印象的。


作品基本情報

作品名: This Is Your Bloody Valentine
アーティスト名: My Bloody Valentine
発売年: 1985年1月
レーベル: Tycoon Records
録音地: SCS 8TK Studios, West Berlin, Germany
録音時期: 1984年12月
総再生時間: 25:33
収録曲数: 7曲
フォーマット: ミニアルバム(12インチLP)

※オリジナル盤は流通数が多くなく、中古市場ではコレクターズアイテム扱い。1990年にDossier Recordsから再発。


作品紹介

制作背景と時代性

1983年にダブリンで結成されたMy Bloody Valentineは、当初ポストパンク色の強いサウンドを展開していました。本作はその時期を代表するミニアルバムです。

当時の編成は、Kevin Shields (Gt, Ba, Backing Vo)、Colm Ó Cíosóig (Dr)、David Conway (Vo)、Tina Durkin (Key)

現在のイメージとは大きく異なり、ゴシック/ガレージ的色彩が前面に出ています。まだBilinda ButcherもDebbie Goodgeも加入していません。

バンドはダブリンのインディーシーンで活動していましたが、地元での反応は限定的でした。そこで彼らは大胆にも、自宅録音したデモテープをドイツのTycoon Recordsに送付。

デモには「Girl on the 13th Floor」「Halfwalk」「Last Tango in Paradise」「The Garden of Delight」「Don't Cramp My Style」の5曲が収録されており、最後の1曲は本作でも再録音されています。

このデモが認められ、バンドは1984年12月に西ベルリンへ飛び、わずか数日間で本作を録音しました。エンジニアはMarkus Bosak。プロデュースはバンド自身が担当しています。


音楽的特徴

ここには「ドリーム」ではなく「退廃」があります。

David Conwayの重心の低いボーカルは、後年のBilinda Butcherの天使的な歌声とは真逆。ゴシック・ロックの影響が色濃く、ダークで内省的です。

Kevin Shieldsのギターはまだ「音の壁」を構築していません。しかし、フィードバックへの志向やノイズを楽器として扱う感覚は、この段階ですでに萌芽が見えます。

Tina Durkinのキーボードは、バンドの音像に独特の冷たさを加えています。シンセサイザーの使い方は控えめですが、要所で効果的に配置され、曲に深みを与えています。

リズムセクションはストレート。Colm Ó Cíosóigのドラムは後年のような複雑なテクスチャーではなく、パンク的な直進性を持っています。

だが、この質感こそが後の音響実験の土壌になりました。


発売当時の反応

リリース直後の反応は限定的でした。

AllMusicのStephen Thomas Erlewineは後に「焦点の定まらない、派生的なポストパンク・ゴスロックのコレクション」と評しています。

しかし、Kevin Shields自身は1988年のMelody Makerのインタビューで興味深い発言を残しています。

「僕らには1984年にベルリンで作ったミニLPがある。Mary Chain以前だよ。僕らの特徴は全部そこにある。フィードバック・スラッシュがね」

The Jesus and Mary Chainとの比較は当時から指摘されていましたが、Kevinは自分たちの方が先だったと主張しています。

実際、本作の録音は1984年12月。Mary Chainのデビューシングル「Upside Down」が1984年9月、デビューアルバム『Psychocandy』が1985年11月のリリースです。

時系列的には確かに近いタイミングですが、Kevinの発言には初期作品への誇りが感じられます。


世間的評判は二極化しつつ再評価中

長らくファンの間でも評価は分かれてきました。完成度という意味では後年作品に及ばない、という意見もあります。

Discogsのユーザーレビューを見ると「単なるガレージロックだが、それが良い」「オリジナルシンガーは酷かった。解雇されて良かった」といった辛辣な意見もあります。

しかし近年では、バンドの進化を語る上で欠かせない作品として位置づけられています。

音楽評論家の間では、Kevin Shieldsのギター感覚やノイズへの志向は、この段階ですでに萌芽が見えるという評価が定着しつつあります。


2026年2月の価値

1988年の『Isn't Anything』、1991年の『Loveless』、そして2013年の『m b v』。

この3作で到達した音響世界を深く理解するには、初期ポストパンク期を避けて通れません。

制御されたノイズの完成形ではなく、制御前の衝動。その差異を知ることが、MBVというバンドの本質を浮かび上がらせます。

2025年11月から始まった世界ツアーでは、初期曲も演奏されています。ファンの間では、この初期作品への関心が再燃しています。

ストリーミング時代において、過去のカタログ全体を簡単に聴けるようになったことも、再評価を後押ししています。

2026年2月、MBVが再び世界を巡るこのタイミングで、原点に立ち返る価値は絶大です。


エディション比較:どれを選ぶべきか?

オリジナル盤(1985年、Tycoon Records)

状態: 極めて入手困難
相場: 中古市場で$200-500程度
音質: 45回転の12インチLP。オリジナルマスターからのプレス。

オリジナル盤はコレクターズアイテムです。流通数が限定的だったため、状態の良いものはほとんど市場に出ません。

レコード番号はST7501またはCULT7501。ジャケットは黒背景にバンド写真という非常にシンプルなデザイン。


再発盤(1990年、Dossier Records)

LP盤
https://af.moshimo.com/af/c/click?a_id=4017095&p_id=170&pc_id=185&pl_id=4062&url=https%3A%2F%2Fwww.amazon.co.jp%2Fdp%2FB000LXJO94

CD盤
https://af.moshimo.com/af/c/click?a_id=4017095&p_id=170&pc_id=185&pl_id=4062&url=https%3A%2F%2Fwww.amazon.co.jp%2Fdp%2FB00005RCAL

状態: 比較的入手しやすい
相場: LP盤で$40-80、CD盤で$20-40程度
音質: リマスターではなく、オリジナルマスターからの再プレス。

1990年にアメリカのDossier Recordsから再発されました。こちらがCD化された唯一の公式盤です。

LPとCDの両方がリリースされており、現在でも中古市場で比較的見つけやすい盤です。

音質はオリジナルに準じていますが、プレスの質にはバラツキがあるようです。Discogsのレビューでは「表面ノイズがあるが、良好」という評価が多数。


ブートレグ盤(非公式)

状態: 避けるべき
相場: $20-50程度
音質: 不明瞭、品質保証なし

市場には青盤などのブートレグも流通していますが、音質は保証されません。Discogsでも「どちらがブートか判別できない」という混乱があります。

ブートレグの多くはDLP 7501というカタログナンバーを使用しています。


ストリーミング

Apple Music、Spotify等で配信中

2026年2月現在、主要ストリーミングサービスで聴くことができます。音質は十分ですが、アナログ盤特有の温かみは失われます。

まず聴いてみたい方には、ストリーミングが最適です。

推奨盤:初心者向け

1位:ストリーミングで試聴 → Dossier再発CD盤

まずはストリーミングで全体を把握し、気に入ったらDossier再発CD盤を購入するのが現実的です。

CD盤は$20-40で入手可能で、音質も十分。アナログにこだわりがなければ、これがベストチョイスです。

2位:Dossier再発LP盤

アナログの温かみを味わいたい方には、Dossier再発LP盤をおすすめします。$40-80程度で入手可能。

ただし、プレスの質にバラツキがあるため、可能であれば試聴してから購入するのが理想です。


2026年2月時点での入手方法

  • Amazon:Dossier再発CD盤が$30前後で入手可能(在庫状況により変動)

  • Discogs:オリジナル盤からブートレグまで幅広く流通。価格と状態を確認して購入

  • Saint Marie Records:LP盤を$49.99で販売(2026年2月時点)

  • ストリーミング:Apple Music、Spotify、YouTube Music等で配信中


おすすめトラック3選

1. "Forever and Again"

退廃的な空気が支配するオープニング。David Conwayの暗いトーンが印象的で、ゴシック・ロックの影響を強く感じさせます。

ギターのフィードバックが後年のMBVへの予兆を感じさせる、重要な1曲。3分32秒。

2. "Inferno"

本作で最も長い4分40秒の楽曲。タイトル通り、地獄のような重圧感とダークな雰囲気が支配します。

Tina Durkinのキーボードが効果的に使われており、曲全体に冷たい質感を与えています。Kevin Shieldsのギターは実験的で、後年の音響へのアプローチが垣間見えます。

3. "Don't Cramp My Style"

比較的テンポのある楽曲。ダブリンで録音されたデモから再録音された1曲です。

後年に通じるメロディ志向の萌芽が感じられ、ポストパンクとポップの間を行き来する不思議な魅力があります。2分25秒と短いながら、強烈な印象を残します。


全収録曲リスト

  1. Forever and Again

  2. Homelovin' Guy

  3. Don't Cramp My Style

  4. Tiger in My Tank

  5. The Love Gang

  6. Inferno

  7. The Last Supper

※トラック表記は英字で統一しています。


アーティスト概要

My Bloody Valentineの成り立ち

1983年、アイルランドの首都ダブリンで誕生したMy Bloody Valentine。

バンド名は1981年のカナダ製スラッシャー映画『My Bloody Valentine』から取られています。当初はパンク/ポストパンクの影響を強く受けたサウンドでした。

結成メンバーは、Kevin Shields (Gt)、Colm Ó Cíosóig (Dr)、Dave Conway (Vo)。後にTina Durkin (Key) が加入し、4人編成となります。

ダブリンのインディーシーンは当時、U2の成功に沸いていました。しかしMBVが目指したのは、より暗く実験的な方向性でした。

1984年、自宅録音したデモテープをドイツのTycoon Recordsに送付。これが認められ、同年12月に西ベルリンでの録音が実現します。

1985年1月、デビューミニアルバム『This Is Your Bloody Valentine』をリリース。しかし反応は限定的で、バンドはロンドンへ拠点を移すことを決断します。


1987年、大きな転機が訪れます。

Dave Conwayが脱退し、代わりにBilinda Butcher (Vo/Gt) が加入。さらにDebbie Googe (Ba) も加入し、Tina Durkinは脱退。

この新編成が、後に「シューゲイザーの完成形」と呼ばれる黄金期ラインナップとなります。

1988年、Creation Recordsから『Isn't Anything』をリリース。音響的革新を示し、シューゲイザーの先駆者として注目を集めます。

そして1991年、歴史的名盤『Loveless』を発表。制作費は約25万ポンド(当時のレートで約4,000万円)に達し、レーベルを財政難に陥れましたが、音楽史に残る傑作となりました。

その後、バンドは沈黙。22年間、新作を発表しませんでした。

2013年、突如『m b v』をリリース。22年ぶりの新作は、世界中のファンを熱狂させました。

そして2025年11月、7年ぶりにライブ活動を再開。現在(2026年2月)は世界ツアー中です。


アーティストの音楽的特徴

Kevin Shieldsによるトレモロアームを駆使したグライド奏法。

これがMBVの最大の特徴です。ギターのチューニングを微妙にずらし、トレモロアームを巧みに操作することで、独特の「揺れる」音色を作り出します。

多重録音による音の層構築も重要な要素。ギター、ボーカル、ベース、ドラムのすべてが何層にも重ねられ、巨大な音の壁を形成します。

ボーカルを音響テクスチャの一部として扱う発想も革新的でした。Bilinda Butcherの声は、楽器と同じレベルで扱われ、歌詞の意味よりも音色が重視されます。

甘美と暴力性が同居するサウンドデザイン。美しいメロディとノイズの暴力が共存し、聴き手を陶酔と不安の間に置きます。


音楽シーンへの影響力

シューゲイザーの完成者として後世に巨大な影響を与えました。

1990年代のオルタナティブ・ロック、ドリーム・ポップ、ポストロックへと連なる音響美学の原点です。

影響を受けたアーティストは無数に存在します。Smashing Pumpkins、Nine Inch Nails、Radiohead、Sigur Rós、M83、Beach Houseなど、ジャンルを超えて広がっています。

2010年代以降のシューゲイザー・リバイバルにも決定的な影響を与えており、現在でもその音響は研究され続けています。

Kevin Shieldsは映画音楽の分野でも活躍。Sofia Coppolaの『Lost in Translation』(2003)や『Marie Antoinette』(2006)に楽曲を提供しています。


主要バンドメンバー

黄金期ラインナップ(1987年〜現在):

  • Kevin Shields (Gt/Vo)

  • Colm Ó Cíosóig (Dr)

  • Bilinda Butcher (Vo/Gt)

  • Debbie Googe (Ba)

初期メンバー(1983年〜1987年):

  • Dave Conway (Vo) ※1987年脱退、後に作家に転身

  • Tina Durkin (Key) ※1987年脱退

スタジオアルバム一覧

  1. Isn't Anything (1988) - Creation Records

  2. Loveless (1991) - Creation Records

  3. m b v (2013) - Self-released

※『This Is Your Bloody Valentine』はミニアルバム(EP)扱いのため、正式なスタジオアルバムには含まれません。


筆者の個人的感想

『Loveless』を先に聴いてしまった人ほど、この作品に戸惑うでしょう。

完成されたシューゲイザーの世界を知っている耳には、この粗削りなポストパンクは別のバンドに聞こえるかもしれません。

しかし、私はここに決定的な価値を見出します。

芸術家の進化を目撃できる瞬間。完成形の裏側にある試行錯誤。そして何より、若さゆえの衝動が生々しく刻まれていること。

Dave Conwayの暗いボーカルは、確かにBilinda Butcherの天使的な歌声には及びません。しかし、このゴシック的な退廃は、後年の作品にはない独自の魅力です。

Kevin Shieldsのギターはまだグライド奏法に到達していません。しかし、フィードバックへの執着、ノイズを楽器として扱う感覚は、すでにここにあります。

2026年2月、7年ぶりのツアーを行うMBVを観る前に、この原点に触れてください。

完成形だけを知るのではなく、その前段階を知ることで、彼らの音楽はより立体的に、より深く理解できます。

40年以上前の粗削りな録音。しかし、そこには今でも色褪せない衝動があります。


気になる方はコチラ

CD版

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