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彼の秘密を知った日

2年交際した恋人が偽名だった。

私の好きピ、太郎(仮名)と聞いていたのに実は次朗だった。名前を偽るという事実に上乗せで不可解なのは「郎」が「朗」だったこと。何で同音の漢字も嘘なんだよ。二重トリックやめろ。

事の経緯は割愛するが(飲みの席で聞いてね)彼の携帯や財布の中身を盗み見たということではなく、本人のいない場所で、第三者から予期せず聞いてしまったという感じ。

まず最初に間の抜けた声が出た。「え」だか「へ」だか記憶が定かではないが、とにかく我ながらとぼけた声だった。次に大小さまざまなクエスチョンマークが頭上に無限増殖するイメージ。偽名?何で?どういうこと?本当に私の恋人か?

そんな混乱の最中、彼からLINEが届き、開くと
「距離を置きたい」と一言。ふつふつと沸き上がる謎の感情(怒りと悲しみのないまぜ)を抑えつつ、今問い詰めるのは賢明ではないと判断し「分かりました」と返す。

少しずつ冷静さを取り戻した頭で、なぜ彼が名前を偽っていたのか考えてみた。私が導き出したのは

①既婚もしくは彼女がいる
②知られたくない事情(犯罪歴等)がある
③同姓同名の著名人がいて恥ずかしい
④本名が好きではない

である。まぁ①なのかな。既婚者というのはあまり現実的ではないかもしれないけど、私が浮気相手だった可能性は濃厚。後ろめたさから出た嘘か。知らぬ間に自分が彼女を傷つけていたのだとしたらしんどいな、とさらにヘコんだ。あくまで推測だけど。

私達の出会いはマッチングアプリだ。今でこそ市民権を得たツールではあるものの、懐疑的な人もいるだろう。ひた隠した下心や、何らかの勧誘目的で近付いてくるならず者もいるだろうし、合わないと思えば簡単に連絡を断てるといった、良くも悪くもドライな側面は否めない。

そんな中でも、数週間あるいは数ヶ月かけて関係性を構築し、晴れて交際に至ることもある。それが私達と胸を張れていた頃が懐かしい。吸っていた空気も今より美味しかったし、見えていた景色も、もっと色や熱を帯びていた気がする。

アプリに最初から本名で登録している人はそう多くないはず。危ないし。各々が「この人は信用できそうだ」と判断して明かしていくものだと思う。私もそうだった。

知り合って3ヶ月が経った飲みの帰り、いつもバイバイする分かれ道で「少し歩こう」と彼が言い、途中にあったベンチに促されるまま腰掛け、ぽつぽつと想いを打ち明けてくれた光景を昨日のことのように思い出す。穏やかで幸せな夜だった。でもあの頃聞いていた名前は嘘で、2年経ってもそれは明かされず今日まで来てしまった。

痛みがじわじわと広がっていく。視界も滲む。私は信用に値しない人間だったのだろうか。どんなに傷ついても等しく夜は明ける。分かっていても今はまだ辛い。これが生きるということか。
トホホ〜

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