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もう二度とあの場所へは行かない

映画を観た帰りに何だか景気の良い気分になり、手巻き寿司を買うべく近所のスーパーへ寄った。その店は時々手巻き寿司の5本盛り合わせを売っており、主に季節行事の時期を中心に店頭に並んでいた記憶がある。納豆、いくら、サーモンなど私の好きな具材が豊富で、あればラッキーくらいの気持ちで足を踏み入れると

元恋人がいた。

太い縁のメガネにマスクをつけていたので確実ではないものの、でもあの髪型と背丈は見覚えがある。いやあんな体型だったかなと一抹の不安を抱えながら近付き(なぜ近付く)声をかける(なぜかける)。人違いならすぐに謝ろうと、向き合ったその人はやはり彼だった。

「久しぶり」と発したその声は懐かしく、しかし明らかに困惑していた。それもそのはず、偽名(彼)を使っていた相手(私)に会いたいと思う人間などいない。怒りと悲しみで複雑な感情になり、おもわず意地悪なことを言ってしまう。途端に険悪なムードが漂う中、苛立った動作で品物を袋に詰めながら彼が放った。

「僕に会うためにここに通ってるの?」

私と彼は偶然同じ区内に住んでおり、それは交際当時、甘やかな喜びであったものの、知り合う前から慣れ親しんだこの街のスーパーを利用することがまさかそんな風に捉えられると思わず、かといって手巻き寿司のためだとも反論できぬまま、終始ちくちく言葉の応酬が続いてしまった。「別れて良かった」と言われたときは目の前が真っ暗になった。

心の底から大好きだった相手を嫌な気持ちにさせてしまったことを悔やんで帰る道のりは最悪で、自分に失望しながら、しかしこれも自分だと認めて生きていく他なく、手巻き寿司は買えず、もう二度とあの場所へは行かない。

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