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恋も酔わずば

その人は待ち合わせ場所に、Yシャツとスラックス、素足にサンダルという出で立ちで現れた。BOOKOFFのビニール袋を掲げながら「少し早く着いたんで」と言う(失念してしまったが何かの文庫本を見せてきた)。出会って4秒で「何かすごい人が来た」と悟る。

大衆居酒屋の賑わいに負けじと、お互い声を張り合う。彼は左手に生ビール、右手に煙草を挟みながら淀みなく話し続ける。サワーしか飲めない私もどうにか食らいつく。お酒と煙草の人という印象を受けた。

初対面の相手と、居酒屋からのカラオケオールをかましてしまった。アルコール臭い息を吐きながら、見上げた朝日が眩しい。

休日には街を歩いた。入場無料の動物園に行ったり、古着を見たり。昼飲みができる居酒屋に行き、夜もまた居酒屋へ。とにかくいつもお酒がそばにあった気がする。そしてカラオケでオールして解散。さながら大学生のデートそのものだった。

彼と一緒にいると、喫煙席のない店には入れないことに気付く。店先で彼が断るからだ。共に過ごす時間は楽しくても、帰り道に自分の服から漂う煙草の臭いは苦手だった。酒量も明らかに増えた。

年末に体調を崩すも、約束していた初詣の日までにどうにか治した。鼻声だが熱はないのでうつす心配はないと伝え、年始の挨拶も早々に神社へ向かう。参拝を終え「何か温かいものを買ってくるから座っていて」と彼に言われ、親切心に感謝しながら待っていると、彼が熱燗を2本抱えて戻ってきた。

パンッと割れるのではなく、しおしおと空気が抜けていく風船のような気持ちになった。病み上がりに熱燗。普段なら絶対に飲まない熱燗。甘酒ではなく熱燗。彼にとっての「温かいもの」は熱燗なのか。

三が日で飲食店はほぼ閉まっており、唯一開いていた雑居ビルの居酒屋に入る。「2杯飲めば元が取れるから」と彼が飲み放題を頼み、温かい烏龍茶を注文した私に「ノリ悪いな〜」と笑うのを見て、きっとこの笑顔を見るのも今日が最後だろうと、焼き付けるように見つめた。今では彼が吸っていた煙草の銘柄すら思い出せない。

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