#16_埼玉県下水道管路重点調査結果とウォーターPPP検討の行方

埼玉県が先日公表した「下水道管路の重点調査結果(優先的に調査を実施する箇所)」では、緊急度Ⅰに分類されるリスク箇所も確認され、住民にとっては身近な不安要因となりうることが可視化された。一方で、緊急度Ⅱに分類される管路も相当数確認されており、既存のストックマネジメント計画の見直しは避けられない状況にあるのではないかと推察する。こうした中で、国が推進するウォーターPPPを埼玉県としてどう実装するかが問われている。今回は、重点調査結果が示す現場の課題と、県が抱える政策的ジレンマを整理し、ウォーターPPP検討の行方を考察してみたい。


調査結果が示す現場の課題

重点調査の地図(以下は陥没事故が起きた中川流域下水道事業が保有する管路の地図)を見ると、緊急度Ⅰに分類された箇所は県民にとって身近な生活圏に存在し、交通量の多い道路直下のケースも散見される。すぐに八潮市のような大規模事故につながるわけではないにせよ、(もしこれをじっくり住民が見るとすれば、、、)住民感覚からすれば「かなり危険」と映るのは自然だろう。緊急度Ⅱの箇所も少なくなく、既存のストックマネジメント計画に反映することで改築の優先度や工程の見直しが迫られるはずだ。さらに、知事が国に提出した要望書や、国交省が検討している第3次提言に盛り込まれる「メンテナビリティ向上」「冗長性強化」といった新要件を考慮すれば、埼玉県としては従来計画をそのまま維持することは難しいと見られる。

出典:優先実施箇所緊急度別参考地図 埼玉県
https://www.pref.saitama.lg.jp/documents/270995/4ryuikisankozu.pdf

国策に整合させることの難しさ

国交省は、更新需要のピークを迎える前に「官民の創造力を引き出す仕組み」としてウォーターPPP導入を強力に推進している。管路改築の補助要件にも組み込まれ、導入可能性調査は全国的に広がりつつある。

しかし埼玉県から見れば、目の前には緊急度Ⅰ・Ⅱへの即応という現実があり、同時に中長期の青写真を描いて制度に乗せることを求められている。マーケットサウンディングを進めながらも、どの範囲を対象にし、どの条件で委託できるのかを今すぐ結論づけるのは極めて難しいだろう。現実的なシナリオとしては、まずは限定的な範囲でウォーターPPPを導入し、形式的にでも補助要件を満たす「ミニマム導入」が検討されるはずだ。だが、それは制度の本来の狙いからは距離がある。国の意図は理解できても、地方の立場からすれば「火中の栗を拾う」ような苦しい局面にある。

実際、知事が国に再考を求めつつも、マーケットサウンディング等を実施してウォーターPPP検討を積極的に進めざるを得ない現状が浮かび上がっている。

出典:埼玉県八潮市道路陥没事故に対する財政支援等に係る要望
https://www.pref.saitama.lg.jp/documents/269728/r7yobosho_mlit.pdf
出典:埼玉県HP
https://www.pref.saitama.lg.jp/c1502/kannminnrenkei.html

実際に検討する埼玉県の体制

埼玉県の下水道経営は、県庁の下水道局と公益財団法人埼玉県下水道公社の「二輪駆動」で成り立っている。公社の存在は大きく、経営マネジメント目標でも両者一体の運営方針が明記されている。職員約230名に加え、民間委託先の社員約560名が現場を担っているという規模感だ。

出典:埼玉県下水道局 経営マネジメント目標 令和5年3月
https://www.pref.saitama.lg.jp/documents/119658/r6managemantsyusei.pdf

このような体制下で、どの業務をPPPに含め、どの範囲を公社と連携して担うのかは容易に整理できる話ではないのではないか。全施設を対象に更新工事まで含めた包括的委託に踏み込めば、必然的にスケールも大きくなり、制度設計の難易度は格段に上がる。

おわりに

埼玉県の重点調査結果は、緊急度Ⅰ・Ⅱに該当するリスク箇所を可視化し、住民にとっての不安を具体的に示した。現場からすれば、まずはこれにどう対応するかが最優先課題になる。一方で、国交省はウォーターPPPを制度的に後押しし、補助要件とも絡めながら全国展開を加速させている。

この「即応が必要な現場」と「制度を前進させたい国策」の間にある緊張関係こそ、いま埼玉県が直面している本質的なジレンマだろう。このケースにおいて問われているのは、人材の多寡ではなく、どの範囲を誰に任せ、どのように計画を組み直すのかという制度設計と体制整備である。埼玉県がこの難しい局面で打ち出す施策は、他の事業体にとっても大きな参考になる。だからこそ、形式的な対応にとどまらず、現実に即した挑戦を積み重ねていく必要がある。

最後に、、、 いま必要なのは、火急の対応に追われながらも「本当に重要なこと」に時間を割く視点だと思う。アイゼンハワーマトリクスで考えれば、課題の多くは「重要だが急がない」に位置づけられる。埼玉県流域下水道のトップには、この現実を直視し、短期の修繕と並行してウォーターPPPの検討をリードする胆力が求められている。

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