#20_上下水道の課題解決に向けた分散型インフラ導入の可能性(水道編)

これまで八潮市の陥没事故を起点に、人手不足や機械化、ウォーターPPPといった「今、水循環の運用を担う上下水道事業体が直面する課題とその解決策」について考えてきた。改めて、上下水道事業体が直面している課題を整理すれば、人口減少、インフラの老朽化、そして人手不足。いわゆる経営の3要素「人・物・金」のいずれの側面においても、課題感が一層強まってきている。

これらの解決策として、私は今、次の3つの潮流に注目している。
・機械化:人と機械の融合による、不足する現場キャパシティの補完
・分散型インフラ導入:集約型と分散型の統合による新たなデザイン
・運用改革(ウォーターPPP):官民の枠を越えた運用の大胆な変革

これらはいずれも、国土交通省の各種委員会で正式に議論が進められている。たとえば、「上下水道政策の基本的なあり方検討会」や「下水道管路メンテナンス技術の高度化・実用化推進会議」などでは、機械化・分散化・PPPがそれぞれの角度から整理されつつある。

これまでこのブログでは、八潮市の道路陥没事故を通じて「人手不足」や「機械化」「PPP」について取り上げてきた。今回は、これまであまり触れてこなかったインフラのデザイン変更、すなわち分散型の導入について触れてみたい。書いていく上で参考にしているのは、国土交通省「上下水道政策の基本的なあり方検討会」で議論されている内容。公開されている情報を紹介しながら、今後の方向性について書いてみたい。


1.分散型の必要性

なぜ今、「分散型インフラの導入」が求められているのか。

その背景には、人口減少と地域構造の変化、そして老朽化したインフラを支える人と財源の限界がある。

国土交通省の「上下水道政策の基本的なあり方検討会」では、上下水道事業の将来像を考えるうえで、この分散型導入の必要性が明確に議題化されている。従来の上下水道は、一定の人口密度を前提に、広域的に整備・運用されてきた。だが、その前提がいま、全国的に崩れつつある。

以下の図に示すように、日本の多くの市町村では、2050年にかけて人口が減少する見込みであり、そのうち約2割の自治体では2020年と比べて人口が半分以下になると予測されている。特に中山間地域や郊外部では、人口減少率が顕著で、既存の上下水道ネットワークを維持するためのコストが過大化している。

出典:上下水道における集約型・分散型に関する今後の方向性について 国土交通省
出典:上下水道における集約型・分散型に関する今後の方向性について 国土交通省

このような状況を受け、国交省では「立地適正化計画」という都市政策を進めている。これは、都市機能や居住機能を効率的に配置し、限られた財政資源の中で都市の持続可能性を確保するための計画。いわば、「コンパクト+ネットワーク」型の都市づくり。

ただし、この考え方を上下水道に適用したとき、問題は単純ではない。中心部に人口や機能を誘導する一方で、郊外や中山間地域では、既存の管路や施設が「残されたインフラ」として維持され続ける。人口密度が下がり、料金収入も減る中で、これまで通りの集約型システムを維持することは、現実的に難しくなってきている。

つまり、いま必要なのは「集中をやめる」ことではなく、集中と分散の最適なバランスを再設計すること。水道事業の将来像を考える上では、都市部では効率性を追求し、地域部では柔軟で小規模な分散型システムを導入する、そんな「ハイブリッド型の発想」が求められている。

出典:上下水道における集約型・分散型に関する今後の方向性について 国土交通省

分散化は、単なるコスト削減策ではない。災害時のリスク分散や、地域単位での自立運営、再生水の利用促進といった側面でも、その意義は大きい。これまで「一本の大きなネットワーク」で支えてきた水循環を、「複数の小さな循環」に分解していく。それは、日本の人口動態と地域構造の変化に即した、次世代の水インフラ設計の出発点といえると思う。

2.分散型の種類

分散型といっても、その形は一つではない。地域の地形、水源、人口密度、既存インフラの状態などによって、最適なあり方は異なる。国土交通省の「上下水道政策の基本的なあり方検討会」では、上水道における分散型システムを、以下の図に示される3つに分類して整理している。

①小規模水道施設
②運搬送水
③各戸型浄水装置(小規模水循環システム型等)

出典:上下水道における集約型・分散型に関する今後の方向性について 国土交通省

①小規模水道施設
地域や集落単位で小さな浄水処理設備を設置し、地域の水源(井戸・湧水など)から直接給水する方式。管路の延長を最小限に抑えられるため、維持管理コストを軽減でき、災害時の独立性も高い。特に、中山間地域や離島など、広域配水網を維持することが困難な地域では有効。一方で、設備や運転管理を担う人材の確保、更新費用の負担など、小規模ゆえの運用リスクも存在する。適切な技術支援や遠隔監視の導入が前提条件になる。

出典:上下水道における集約型・分散型に関する今後の方向性について 国土交通省

②運搬送水
これは、浄水場で処理した水をタンク車などで運搬し、遠隔地域の配水池や簡易施設に補給する方式。いわば「動く配水管」であり、管路の新設・更新コストを抑える柔軟な方法として注目されている。

以下の図に示す宮崎市などでは、給水人口が極端に少ない地域でこの方式への切り替えが進められており、長期的なライフサイクルコストを比較しても、管路整備より安価になるケースが確認されている。ただし、輸送コストや運搬ルートの確保、衛生管理など、運用上のノウハウ蓄積が必要。

出典:上下水道における集約型・分散型に関する今後の方向性について 国土交通省

③各戸型・水循環システム
住宅や建物単位で浄水装置を設けたり、雨水や再生水を循環利用する「超分散型システム」。建物単位で水の自立性を高められるため、災害時のリスク分散や給水確保の観点でも有効。

国交省では、珠洲市などをモデル地域として、このような小規模水循環システムの実証を進めている。ただし、水質検査や保守点検、法的区分(上水道・簡易水道・飲料水設備など)の整理など、制度面での整備が追いついていないのが現状。

出典:上下水道における集約型・分散型に関する今後の方向性について 国土交通省

3.今後の課題

分散型インフラは、人口減少時代における水インフラの新しい方向性として期待されている。しかし同時に、その導入と運用には多くの課題が残されている。現時点での論点を、国土交通省の整理と現場の視点を交えて整理してみたい。

① 分散の度合いと適用範囲の判断
どの地域を分散型にするか、またどこまで分散させるか、この「線引き」は極めて難しい。都市部では依然として広域・集約型が合理的だが、中山間地域や小規模自治体では、既存管路を延命し続けるよりも、分散化の方が長期的に合理的になる場合もある。現実には、地域ごとの人口動態・地形・財政状況を踏まえたゾーニング的な再設計が必要であり、全国一律のモデルは存在しない。

② 安全性・水質管理の確保
分散化によって、小規模施設や各戸装置の管理主体が増える。それは同時に、水質管理のリスクポイントが増えることを意味する。特に簡易水道や再生水利用システムでは、水質基準やモニタリング体制の明確化が不可欠。技術的にはIoTセンサーや遠隔監視で補完できる部分もあるが、法制度と運用責任の整備が追いついていない。

③ コスト構造と経済性評価
分散化は初期投資が小さい反面、設備数が増えるため維持管理費が積み上がりやすい。一方で、広域管路の更新費や漏水リスクを考慮すれば、トータルでは分散化の方が安価になる場合もある。つまり、単年度予算での比較ではなく、ライフサイクルコスト(LCC)での経済評価が前提となる。しかし現場では、LCC分析を行う仕組みや人材が整っていない。この「評価能力の格差」が、導入判断を難しくしている。

④ 運用・管理体制の構築
分散化の核心は、技術ではなく「運用」。各地域に設置される小規模設備を、誰が・どの単位で管理するのか。事業体単独では難しいため、「官民連携(ウォーターPPP)」や広域的な運営組織の設立が不可欠となる。ただし、現行制度ではこうした「エリア単位の複合運営」を想定しておらず、契約・責任範囲の整理に課題が残る。

⑤ 災害対応と冗長性の確保
分散化は一見、災害時に強いように見えるが、必ずしもそうではない。各施設が孤立してしまえば、供給のバックアップが効かない。したがって、分散型の中に冗長性をどう組み込むか――たとえば、可搬式の浄水装置や移動タンク、複数系統の水源などを組み合わせることが必要になる。分散の「設計思想」に冗長性を織り込むことが、今後の技術・制度の鍵になる。

⑥ 制度・補助スキームの整備
最後に大きいのが制度の問題である。現行の水道法や補助制度は、基本的に「集約型システム」を前提に設計されている。給水区域の廃止・統合、再生水や雨水利用の法的位置づけ、民間参入時の責任範囲など、法令面のアップデートが欠かせない。国交省では、今後の検討課題としてこの点を明示しており、今後数年で制度設計が進む見込み。

⑦最大の課題:誰がいつこの絵を描くのか
分散化を実現する上での最大の課題は、「誰がこの全体像を描くのか」という人材の問題に加え、「いつ描くのか」という時間軸の問題だと思う。

私の感覚では、上下水道インフラの大型更新時期はおおむね三つの波で訪れる。2020〜2030年代が第1次更新ピーク、2040年代が第2次ピーク、そして2050年頃には更新需要そのものが減少局面に入る。つまり、新しいインフラデザインに大きく移行できるチャンスは、この20〜30年の間に限られている。

ところが現状では、多くの上下水道事業体が、施設更新の波に対応するだけで精一杯。今まさに更新計画や整備計画を策定している自治体も多いが、その多くは「従来の集約型システム」を前提にしており、分散型の導入まで踏み込めていない。本来なら、このタイミングこそがインフラデザインを見直す絶好の機会。しかし、「描く人がいない」「議論する余力がない」ままに時間が過ぎていけば、既存の集約型システムをそのまま作り直し、次の数十年を同じ構造のまま過ごすことになる。

制度が整っても、時間は戻らない。この更新サイクルを逃せば、分散型への移行の機会は確実に遠のく。だからこそ今、技術や制度の議論と並行して、「誰が、いつ、どのように新しいデザインを描くのか」を明確にしなければならないと思う。

おわりに

上下水道は、長い間「集中」と「効率」を軸に設計されてきたと思う。それは高度経済成長期の日本を支える合理的な思想だったが、いまや人口構造も、地域の形も、価値観も大きく変わりつつある。この変化に対応した、インフラの最適化設計が必要だと思う。

3章で触れたように、この移行には「誰が、いつ、この絵を描くのか」という時間と人の問題が存在する。制度が整うのを待ってからでは遅い。今、構想を描ける人が描き、モデルをつくり、スピーディに小さな成功事例を作っていくこと。その積み重ねが、10年後・20年後の当たり前をつくる。

次回は、同じ「分散化」を下水道の視点から見てみたい。

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