#22_添架水管橋の耐震不足(前編)
10月21日の日経新聞で、会計検査院が調査した「添架水管橋」の耐震性に関するニュースが報じられた。国家予算を活用して工事された74か所のうち、7割にあたる51か所で耐震性が不十分な可能性のある橋梁に水道管が取り付けられており、地震で橋とともに水道管が損傷し、上下水道が機能不全に陥る恐れがあるという内容だった。
今回はこのニュースを取り上げてみたい。記事は2回に分けて公開する予定で、前編では事実と過去に起きた事故を振り返り、後編ではなぜこうした問題が繰り返されるのか、その構造を考えたいと思う。
この問題の本質は、単なる技術や設計のミスではない。「分かっていても動けない構造」と、「そもそも分かる人がいなくなりつつある現実」。その二つが重なり合いながら、先送りされ続けてきた問題の氷山の一角が表出したのだと思う。
1.会計検査院の調査結果
会計検査院が実施した抽出調査によると、36自治体など41事業主体が2022〜23年度に契約した74か所の添架水管橋のうち、7割にあたる51か所で耐震性が確保されていない恐れがあると指摘された。詳細に見ると、46か所では事業主体が橋梁自体の耐震性を管理者に確認しておらず、そのうち22事業主体・43か所では、古い耐震基準で設計された橋や築造年数が不明な橋に水道管を架けていた。さらに6事業主体・8か所では、橋の耐震性が不足していると把握しながら、経済性や早期設置を優先して工事を進めていたという。
検査院はこれらの結果を踏まえ、51か所で耐震性が十分に確保されていない可能性を指摘。特に16か所は取水・浄水施設、避難所、病院などの重要ラインに該当し、被災時には上下水道システム全体が機能不全に陥る恐れがあるとした。
2.会計検査院とは何か?
ちなみに、この調査を行った会計検査院は、内閣から独立した憲法上の機関であり、国家予算が適切かつ効率的に使用されているかを検査する役割を担っている。詳細は以下図をみてもらいたい。

https://www.jbaudit.go.jp/jbaudit/position.html
今回の調査は、国費を用いて実施された水管橋工事の「設計・施工・監督」が適正だったかを検証するためのもの。つまり、単なる技術監査ではなく、「制度と税金の適正利用」の観点から照らされた検査となる。報道の表現は控えめだが、裏を返せば「国の補助を受けて施工されたにもかかわらず、安全性が確保されていなかった」ということ。これは行政的にも技術的にも、重い指摘ととらえるべき内容だと思う。
3.和歌山・六十谷水管橋の崩落事故
2021年10月3日、和歌山市の六十谷(むそた)水管橋が崩落し、約6万世帯が断水する事故が発生した。原因は、橋を支える「吊材」が腐食により破断したためであり、事故報告書では、塩害や鳥のフンによる腐食促進など、日常的な劣化要因が放置されていたことが明らかになっている。水管橋は、河川などを越えるために作られた、河川の先にある地域の人たちの命綱であることが再認識された事故だった。その重要性は、以下の図を見てもらうとわかると思う。

以下の図に示す通り、約1週間にわたり住民への給水に影響が出た大事故で、当時社会的な注目を集めた。和歌山市では再発防止に向けて多くの検討が実施され、水管橋の重要性は再認識されたはずだった。

この事故と今回の抽出調査結果はまったく同じ話ではないが、橋自体の耐震性を確認するというのはごく当然のことであり、土木技術者であれば認知していたであろう点は共通していると思う。
「そろそろ古くなってきているからまずいのでは」「耐震性は不足しているけど、普段使いなら大丈夫だろう」、こういった技術者の懸念が、意思決定に反映されない事例だと感じる。
六十谷水管橋の事故をきっかけに、全国の自治体では同様の添架水管橋の点検・補強が進められた。和歌山市は再発防止のための詳細な報告書を公開し、点検マニュアルも整備した(参考:和歌山市 六十谷水管橋事故報告書)。もちろん構造は地域ごとに異なるため、そのまま全国の水管橋に適用できるものではない。それでも、老朽化した水管橋をどのような観点で診るべきか、その参考にはなったはずだ。しかし今回の会計検査院の調査結果を見る限り、その教訓は十分に生かされているとは言い難い。
起きてしまったことなので仕方ないが、重要なのはなぜこれが起きてしまったのかを明らかにし、再発防止を図ることだと思う。
おわりに
今回の報道は、単なる老朽化や設計ミスの問題ではないと思う。和歌山の事故から4年。当時の教訓は確かに全国へ共有されたと思う。それでも、今回のような指摘が出る。つまり、制度が動いても、現場が動けていないということなのではないか。
重要なのは、事故の再発防止策を「もう一枚マニュアルを増やすこと」で終わらせないことだと思う。なぜこの構造が繰り返されるのか。制度、現場、そしてリーダーシップの関係性を、もう一度見直す必要がある。
次回(後編)では、なぜこのようなことが起きてしまうのか、現場の構造を少し考えてみたい。「分かっていても動けない構造」と「分かる人がいなくなりつつある現実」、この二つの要素がどのように重なり、組織の意思決定を止めているのかを見ていきたい。
