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夜と枯れる華 最終話

「先生、王都医学会から手紙が届きましたよ。例の論文の件じゃないでしょうか!」

助手のスミレが一通の封筒を持って私の研究室に駆け足でやってくる。余程急いで持ってきたのだろうか、白衣からはみだした肩が上下して、前髪も乱れている。

「そんなに焦ることはなかったのに」
「いえ、先生が大分力を込めて入らした研究ですから、私もそれがちゃんと評価されると思うと嬉しくて」
「まだちゃんと評価されているかはわからないよ。もしかしたらやり直しかもしれない」

しかし、たとえやり直しをくらったとしても、それはそれでどれだけ長い時間がかかってもやり遂げなければならないことなので、本当に焦る必要はない。

封筒をペーパーナイフで丁寧にあけて一枚の紙を取り出す。
スミレは私の表情から結果を読み取ろうと、期待の眼差しで見つめてくる。
それほど長くない文章に目を通す。私は安堵のため息をつく。

新症例「夜蕾症」
一定のストレスを受け昼行性の活動が困難になり、自分自身に対する性質の誤認、極度の妄想、自傷行為等の行動を起こすようになる精神病。
症例として王都内で三人、東方の村で五人、北方都市で六人を対象に調査、以後治療法、その他の症状について、研究を推奨する。

あの日確かに、ヤライとしてのマツリは死んだ。だけど彼女は灰になることはなかった。それどころか、朝日は彼女に対して何の害ももたらすことはなかった。彼女はどことなく悔しそうな顔をして、それから目を閉じた。体中の痺れに疲れ果てた私は、変わりない彼女の姿を見て、安心しそのまま眠りについた。気がつくと彼女はいなくなっていて、それからマツリに会うことはなかった。

私が彼女を現実につなぎ止める楔になれたら。そんな独りよがりの欲求を満たすために、私は村を出て王都で精神病を中心とした医学の道を志した。
彼女たちの生き方に名前がついて、現実に縫い付けられる。そうすることで、マツリと私は世界を共有できる気がしたのだ。

結果を聞いて満足したスミレは夜も遅くなったと言うことで研究室を去っていった。

あれから10年、とても長い時間が経ったように思う。彼女のように儚い人が10年もどこかで生きながらえているとは到底思えない。けれど、楔を手にした私は、どこかにいるかもしれない純白の人に会いに行こうと思う。一生かかっても会うことが出来ないかもしれない。どこに住んでいるかも、昼と夜どちらに生きているのかも分からないのだから。

だけど彼女にもう一度会いたい。

そして、彼女ともう一度恋をしたい。



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