神絵師に頼れない文芸部、Geminiで挿絵生成に挑戦!~Geminiと小説を作った体験をラノベ調にしてみた。~
📖 第1章:銀縁メガネの決意
放課後の体育館は、文化祭前の部活動の熱気と、油絵具の揮発した匂いでむせ返っていた。
写真部の大きなパネルや、美術部の力強い油絵が並ぶ中、文芸部のブースは相変わらず地味だった。文芸部部長の文月あかねは、銀縁メガネの奥の瞳を細めて、目の前の現実を見つめた。
「うーん……やっぱり、どう見ても地味ね」
文化祭の展示は、いかに来場者の目を引き、足を止めるかが勝負だ。歴代の部誌を並べただけでは、他部に埋もれてしまう。
あかねが顔を曇らせていると、隣でテーブルに部誌を並べていた佐藤くんという一年生が話しかけた。
「大丈夫ですよ!今、僕と副部長でGemini使ってクトゥルフ神話のノベルゲームを作ってるんです。題して『邪神を倒せ!in文化祭』。ポスターめっちゃ貼って、なんかすげぇイイ感じに仕上がる予定です!」
佐藤くんは、自信満々で目を輝かせた。彼はゲームのシナリオライターになりたくて、文芸部に入った子だ。雑な言葉遣いのとおり、あまり文章力はないが、AIを使ってゲームを作り人を楽しませるのが大好きだ。
あかねはお調子者の後輩に微笑した。
「もう、佐藤くんてば。仮にも私たち文芸部なんだから、Gemini先生に仕事を丸投げするのはダメよ。生成してもらった文章は、ちゃんと自分でチェックして、自分で手を加えて推敲してね。
ノベルゲームは、出来上がったら私も参加するわ。楽しみにしてるから、がんばって!」

あかねは部室に戻った。机の上に置かれた原稿用紙の上で、親友の絵野ユキがペンを握ったまま、ぐったりと船を漕いでいる。
「ユキ、大丈夫? まだ描いてたの?」
「んん……あと、少し……これ終わったら、挿絵描いてあげるから……」
ユキは漫画部の部員だが、文芸部にも出入りして、いつもあかねのために文芸部の部誌の挿絵も描いてくれていている、心優しい親友だ。そして今、文化祭前で漫画部で発行する部誌の全36ページの超大作コズミックホラー漫画『ルルイエの片隅でいあいあを叫ぶ』を制作中だ。ショートボブの髪は乱れ、目の下には深いクマができている。カーディガンの萌え袖から覗く指先は、ミリペンを強く握りすぎてインクで汚れて、かすかに震えていた。
ユキの描く絵は、まさに神業だ。彼女のイラストは、繊細な少女漫画の線でありながら、瞳には少年漫画のような強い「意志」が宿っている。
(私のファンタジー小説のヒロイン、ルミナの魂は、ユキの絵でなければ表現できないのに……)
しかし、ユキにこれ以上、文芸部の挿絵を頼むのは酷だった。このままでは、クオリティを維持できないどころか、ユキの健康まで危ない。
せめて文化祭ではユキに漫画部員としての仕事に専念させてあげたい。しかし、文芸部にイラストを描ける人材はいないのだ。

「ユキの才能に頼るのは、もうやめよう」
あかねは決意した。しかし、部誌の品質を落とすことは、部長として、作家として、絶対に許されない。文芸部の部誌は、プロのように面白くはないかもしれない。けれど、部員一人一人の熱意が詰まった、思い出の品になる貴重な本なのだ。
隣の席で、一年生の佐藤くんが、首にヘッドフォンをぶら下げながら、PCを操作していた。彼の画面には、ノベルゲームの設計図が映っている。
「佐藤くん。Geminiって、画像も作れるのよね?」
「え? ああ、はい。GoogleのAIは、『プロンプト』って呼ばれるお願いの文章を入れると、その通りに絵や画像を生成してくれる機能がありますよ」

小説の難しいシーンのお手本を書いてくれる心強いツール。
佐藤くんが口にした「プロンプト」という単語に、あかねの頭の中で何かが繋がった。
(私だって、Geminiを使えば、ユキのような立派なイラストが作れるかも……。Geminiが私の魔法の杖になってくれるかもしれない!)
あかねは自分のPCを開き、Geminiのホーム画面へとアクセスした。
あかねは自分の銀縁メガネを押し上げた。
「やってみるわ。私自身が、挿絵を用意するのよ」
あかねは自分のPCを開き、Geminiのホーム画面にアクセスした。
「よし、じゃあ最初の挿絵を生成するわ。ファンタジー小説の挿絵を作ってみましょう」
私はプロンプト欄に、慎重に言葉を打ち込んだ。今回はまだ実験だ。単純な指示から始める。
「お城に住んでいるお姫様のイラストを描いてください」
そして、『生成(Run)』ボタンを押した。
画面に現れたのは、息をのむほど美しいイラストだった。 豪奢なドレスを纏った、完璧な造形のお姫様。背景の城の石壁には蔦が絡まり、窓ガラスの一つ一つも、ドレスのフリルも、信じられないほど細かく書き込まれている。光の反射さえも完璧だ。
「すごい! なんて綺麗なイラストなの!」
私は興奮して立ち上がり、部員たちにノートパソコンの画面を見てもらった。
「やっば!」
「本物のプロの絵みたいですね!」
と、皆がその技術的な美しさに目を奪われていた。私も、ユキの絵とは違うけれど、この完璧さがあれば、部誌は格段にレベルアップすると確信した。
しかし、その中で、一人だけ首を傾げる者がいた。先日、仕事をGeminiに丸投げしないよう、あかねからクギを刺された一年生の佐藤くんだ。
「うーん。このイラスト、背景の城の窓ガラスの一つ一つも、ドレスのフリルもスゲェ細かく書き込まれて綺麗だけど……」
佐藤くんは、その完璧すぎる美しさから、視線を画面上のお姫様のポーズに戻した。
「……このキャラ、誰なんですか?
あと、どういうシーンで、何のポーズなんですか?」
佐藤くんの、素朴で鋭い一言に、私の心臓がハッと鳴った。
ポーズは可愛らしい。でも、お姫様はただそこに立って、ニコニコ微笑んでいるだけだ。彼女が何を思い、何をしようとしているのか、物語的な情報が何もない。
(そうだ、挿絵というのは、どんなに美しくても、物語を伝えなくては意味がないんだ……)
脳裏に、ユキの絵が蘇る。ユキが描いてくれた挿絵は、いつも小説の一番感情が動くシーンを切り取っていた。一目で読者に「この小説はこういう話なんだ」と伝える力があった。
特にファンタジー小説の挿絵なら、読者がイメージしにくい、昔の西洋のファッションや、絢爛なインテリアをヴィジュアルで補い、読者の理解を助けるという明確な意図をもって描かれていたはずだ。
(今までユキちゃんは、何も言わなくても、私の小説を読んで意図を汲み取って、挿絵にふさわしいイラストを描いていてくれていた。でも、Geminiは違う。Geminiには、挿絵にふさわしいイラストが生成されるように、私が明確な指示を出さなくてはいけないんだわ)
私は皆を見回し、宣言した。
「よし、みんな! これは良い失敗よ!」
「え? 失敗なんですか、あんなに綺麗なのに?」
と戸惑う部員たち。
「そうよ。AIは描ける。でも、私たち文芸部員が何を伝えるか、指示しなきゃいけないの。私たちはこれから、どうしたらAIに小説の挿絵にふさわしいイラストが生成されるよう、うまく指示を出せるか研究していくわ!」
こうして、文芸部員たちは、Geminiを最高のイラストレーターに変えるための、プロンプトという呪文を研究し始めたのだった。

📖 第2章:魔法の呪文と限界
画面を前にして、あかねの心は高鳴っていた。 「よし、まずは私のオリジナル小説『姫様は大怪盗』の主人公ルミナを Gemimi先生に教えてあげなくちゃ!」
あかねは意気揚々と、ルミナのキャラクターデザイン画をGeminiの画面にアップロードした。これは以前、ユキが練習で描いてくれたものだ。
「イラストの雰囲気を言葉で伝えるのは難しいから、ユキの『画像』を参考に、新しい画像を生成させてみよう。きっと、言葉で説明するより、絵を見せた方が早いよね!」
GeminiのAI Studioの画面には、アップロードした画像と、テキスト入力欄が表示されている。
「Gemini先生、お願い! このイラストとそっくりな絵柄で、私の小説の挿絵を描いてください!」
生成ボタンを押す。数秒後――。
「えっ……全然違う!」
画面に現れたのは、確かに可愛らしい銀髪の少女だったが、ユキ特有の「少女漫画風の繊細な線画」でも、「キリッとした目の強さ」でもない、個性が削ぎ落とされた、どこかで見たことがあるような、だけど誰が描いたかはっきりとは分からないような平均的なアニメキャラクターの絵柄だった。
何度試しても、Geminiはユキの絵柄を完璧には再現してくれない。
(どうして? ユキの絵を見せてるのに、どうしてこうも個性が薄くなるの?)
あかねは深く考え込んだ。AIは、特定の誰かの創作物を複製することを避けるように設計されている――そう思い至ったとき、胸が締め付けられた。
(もしかして、私がユキの絵を丸ごと真似ようとしたこと自体が、AIの倫理的なルールに反していたのかもしれない……。Geminiは著作権や倫理的な問題に配慮して、あえてユキの『個性』を薄めてくれたんだ)
自分がAIの利便性に溺れて、親友の「作家性」を踏みにじろうとしていたことに気づき、あかねは猛省した。
「分かったわ。地道にテキストプロンプトで指示してみよう。無理にユキの絵柄を真似ようとするのは諦めて、Geminiの得意な絵柄の中からルミナの雰囲気に合った画風を選んで、私のルミナを描いてもらうのよ!」

理想のイメージを再現しようとすると格段に難しくなるのね。
あかねは画像を削除し、プロンプト(指示文)を入力した。「ロマンティックな銀髪の少女、長いドレス、城のバルコニー」。完璧な言葉の魔法だ。
「よし、これでGemini版の素敵なルミナ姫が誕生よ……!!」
さて、これで素敵なルミナ姫が誕生するかと思われたが、ここでまたもやトラブルが発生した。何度生成しても、ルミナは銀髪のキャラクターとしては描かれなかった。何故か、赤毛のキャラクターばかりが生成されてしまう。
「なんでなのーッ。どうして、Gemini先生。どうしてなのーーッツ! ああ、魔法の杖の使い方が分からない!」
絶叫するあかねの横で、佐藤くんが首のヘッドフォンを触りながら、スマホで画面を見せてきた。
「部長、その赤い髪のキャラクター、今流行りのソシャゲのキャラに似てますね」
「え?」
「このキャラクターの名前も『ルミナ』なんです。部長はソシャゲやんないから知らないかもだけど、ネット上に情報があふれかえってる超人気キャラなんです」
あかねはハッとした。
(AIは、ネット上の情報をもとに学習している……ということは!)
「Geminiが私のルミナではなく、情報量が圧倒的に多いソシャゲの『ルミナ』だと誤解したんだわ!」
これは、AIが学習データに偏りがあるために起こる『バイアス(偏り)』という現象だ。AIが「ルミナ=ソシャゲの赤毛アイドル」だと強く認識している限り、私の銀髪のヒロインは生まれない。
あかねは銀縁眼鏡を指で押し上げると口の端で笑った。
「フッ……。なんだ、だったら大したことないわ。名前を変えればいいじゃない」
あかねはキャラクター名を「ピコちゃん」という、ネット上に情報のないユニークな名前にして、もう一度同じプロンプトを打ち込んだ。
「『ピコちゃん』?」
佐藤くんが素っ頓狂な声を出す。
「そう。この場だけの仮名よ。Gemini先生にとって『ピコちゃん』という有名人のデータはないはず。これなら純粋に私の外見指定だけを読み取ってくれるはずよ」
あかねの目論見は大当たりだった。今度は、プロンプトに忠実な、美しい銀髪の王女のイラストが生成された。
「やった! 成功よ、ピコちゃん!」
あかねは、AIを使いこなすには、「正しい言葉」を選ぶだけでなく、「AIの誤解を避けるための言葉」を選ぶ必要があることを学んだ。

📖 第3章:AI Studioで魔法のアプリを
文化祭まであと数日。部室の空気は、プロンプトのコピペ作業による疲労と、締切前の緊張で澱んでいた。部誌の挿絵生成はスムーズに進むかに見えたが、また別の問題に直面したのだ。
「あー、もう!やってらんねー!」
一年生の佐藤くんが、キーボードを叩く手を止めて天を仰いだ。首にかけたヘッドフォンが、カタッと揺れる。
「画像生成のプロンプトって、毎回毎回コピペしなきゃいけないの、めんどくせぇ! 特にキャラクターの外見指定とか、何度コピペしなきゃいけないんだ!」
あかねは彼の嘆きに深く頷いた。
小説の挿絵は、キャラクターの造形やしぐさに一貫性を持たせるために、同じような膨大な「呪文」(プロンプト)を何度も打ち込む必要がある。その作業に部員の誰もがうんざりしていた。
「マジでダルいっすね」
ヘッドフォンを首にかけたまま、佐藤くんが愚痴る
「そうねぇ、確かに……」
小説には登場人物が何人もいる。ルミナ(ピコちゃん)以外のキャラクターの挿絵も描くたびに、膨大な「呪文」をコピペするのは手間だ。
「ねぇ。Gemini、……こういう状況なんだけど、何とかならない?」
あかねは、Geminiに相談した。
『同じプロンプトが頻繁に繰り返される場合、AI Studioで専用のアプリにしてしまった方が作業が短縮されますよ』
それを聞いていた佐藤くんは喜んだ。
「ナイスアイディアです、先輩! さっそく挿絵を作ってくれるアプリを作りましょう。」
「AI Studio使ったことないけど、Geminiと対話しながらアプリを作るシステムなのね。言葉で指示するだけでなら、プログラミングの知識がない私でも使えそう。やってみるわ……」
あかねは、この問題を解決するため、文芸部専用の「挿絵メーカー」を作ることを決意した。
あかねは自分のPCでAI Studioを開き、アプリ作成画面へと向かった。
あかねはまるで部員に指示を出すように、AIに語りかけた。
「まず、イラストのサイズと画風を最初に決めるドロップダウンリストを作ってね。その下に、キャラクターの設定を固定するための『キャラクターシート』の欄を作りたいの。外見指定の長い文章は、毎回自動で入力されるようにして」
あかねはトライ&エラーを繰り返した。画面を構成する要素を「テキストボックス」や「ドロップダウン」として具体的に指示する必要がある。
「そうそう、その下にテキストボックスを作ってね。あら、表示されないわね。落ち着いて、一回前に戻って……。よし、今度こそ! できた!」
まるでレゴブロックを組み立てるように、画面上にシンプルだが機能的なインターフェースが組み上がっていく。あかねの銀縁メガネが、達成感でキラリと光った。
「先輩、AI Studioに指示出すの、めちゃくちゃ上手いですね。まるでプログラマーみたい」
佐藤くんがヘッドフォンを耳に当て直すのを忘れ、感心したように覗き込んでくる。
「まぁ、伊達に文芸部の部長やってないわよ。普段からあなたたち癖のある部員に指示出すことで、『明確な指示を出す能力』は鍛えられているからね」

完成した『文芸部専用・挿絵メーカー』は、文芸部の業務を一変させた。
「いい? ここにキャラクターの長~い外見指定を登録しておけば、複数のキャラクターの設定もクリックで選択できて楽になるわ」
さらに、「表情 / ポーズ指示」や、「背景(シーン)設定」、そして指が増えたりするのを防ぐための「NG設定(ネガティブプロンプト)」を指定する欄も付け加えた。
「わあ、これ、マジで時短! 文化祭が終わってもずっと役に立つよ!」
挿絵の生成が一気にスムーズになり、部員たちは大喜びだ。
数日後、印刷所から届いた書籍小包を開けて、文芸部員みんなで完成した試し刷りの本を回し読みする。部員たちは、立派な表紙や、AI生成とは思えない精巧な挿絵が付いた本になったことに感動して、歓声をあげた。
そこに、部室の扉を開けてユキが入ってきた。
「あかね、見て! 私の漫画、やっと完成したよ! 超大作コズミックホラー『ルルイエの片隅でいあいあを叫ぶ』!」
そう言って原稿用紙を私に差し出そうとしたユキは、部員たちが見ている本に気が付いた。ショートボブのユキの瞳が、驚きに見開かれる。
「え? 文芸部の部誌、もう完成したの?」
「うん。まだ試し刷りだけどね、すごくいい出来なの!」
私が誇らしげに説明すると、ユキの表情はみるみるうちに硬くなった。
「表紙や挿絵はどうしたの?」
「Geminiに画像生成をしてもらったの。専用のアプリまで作っちゃったのよ」
ユキの視線は、私が苦労して作った『挿絵メーカー』と、その結果生まれた完璧すぎる部誌に注がれた。
「…………それじゃあ、私の挿絵はいらないってこと?」
「そうじゃないの、ユキが疲れて大変そうだから、今回の部誌は挿絵を頼むのは遠慮しようと思って、私が気を利かせて……」
「そんな、私に何の相談もなく勝手に決めて! 私はあかねちゃんの小説だから一生懸命挿絵を描こうと思っていたのに、あかねちゃんは挿絵を描くのは私じゃなくてもいいわけ?」
ユキの目に、みるみるうちに涙が溜まっていった。その涙は、疲労ではなく、裏切られたと感じたことへの怒りだった。
「何よ! その生成画像のキャラクター! 私がデザインしたルミナの真似じゃないッ」
ユキは漫画を私に渡すのをやめ、原稿を抱えて泣きながら文芸部の部屋から飛び出してしまった。

📖 最終章:クリエイターの条件、そして最高の「合作」
いよいよ、文化祭当日だ。
文芸部のブースで、銀縁メガネの文月あかねは、来場者に部誌を配っていた。表情は笑顔だが、前章でユキを怒らせてしまった罪悪感と、友情の危機に直面している不安が、彼女の周りの空気を重くしていた。
そこに、ショートボブのユキが、まるで突風のように現れた。彼女は両手を腰に当て、あかねにツリ目の顔を近づけた。
「あかね、佐藤くんに聞いたけど、あなた私のイラストをGeminiに学習させて、私とそっくりな画風のイラストを作ろうとしたそうね?」
あかねは心苦しくて顔を上げられなかった。
「ごめんなさい。私、よく考えずに画像生成を使ってしまって……」
ユキは組んだ腕を強く引いた。
「たとえ法律で許されていても、クリエイターの気持ちは尊重してほしいものよ。特に親友ならなおさらね」
あかねは膝を両手で握りしめ、うつむいたまま謝り続けた。
「本当にごめんなさい。Geminiの便利さに舞い上がって、作品を学習されるユキの、クリエイターとしての気持ちを分かっていなかった……」
ユキはフッと息を吐き、腕をほどいた。怒りは残っているものの、突き放すような冷たさではない。
「分かればいいの。……まぁ、私のイラストは、AIにもマネできないくらい個性的なんだけど!」
ユキの明るい声に、あかねは心の底から安堵した。 画像から生成でユキの絵柄が再現されなかったのは、Geminiが倫理的な配慮で、完全な複製を避けてくれたからだ。私の失敗は、AIのセーフティ機能に守られていたんだわ……)
そこに、首にヘッドフォンをかけた佐藤くんが、小走りで近寄ってきた。
「部長、せっかく絵野先輩が来てくれたんだし。僕と担当時間を交換しませんか? 午前中は僕が接客しますから、部長は絵野先輩とスタンプラリーに参加してきてくださいよ」
「スタンプラリーって、何のこと?」 ユキは不思議そうに尋ねた。佐藤くんは得意げに胸を張った。
「ホラ、うちは部誌の展示だけだと地味でしょう。そこで、僕が作った小説をもとにノベルゲームを作ったんです。参加者は学校中に貼られたポスターに書かれてある文章をたどって、スタンプラリー形式でゲームしながらスタンプを集めるんですよ」
キャッチコピーは「『邪神を倒せ!in文化祭』封印の模様のスタンプを集めて、クトゥルフ神話のモンスターと戦おう!」と書かれている。
「あら、面白そうじゃない! あかね、やろうよ。二人で一緒にスタンプコンプリートしちゃおう」
興味をひかれたユキがカーディガンの袖をグイグイ引いた。その手の温かさに、あかねは胸のつかえが解けていくのを感じた。
「佐藤くん、気を使ってくれてありがとう。じゃあ、お言葉に甘えるわ」
二人は賑やかな校内へと歩き出した。

スタンプラリーは、文芸部らしからぬ壮大なゲームだった。
「えぇ、なにこのモンスター、インドのガネーシャかしら……」
校舎の出入り口に貼られたポスターに描かれたゾウのようなキャラクターに、私は首を傾げた。
「チャウグナー・フォーンっていうゾウの姿をした邪神なの。日中は石の置物だけど、夜になると人間を食べてしまうのよ」
嬉々として解説してくれるユキは、やはり生き生きとしている。
ポスターの指示に従って美術室に行くと、美術部員が対応してくれた。 「いらっしゃい。一番乗りだね! 美術部の作品を鑑賞してアンケートを書いていってね。そしたらスタンプ押してあげるよ」
二人がスタンプを押すと、美術室の中で今度は「食糧庫にて回復アイテムをゲットし、スタンプの封印でツァトゥグァを倒せ!」というポスターを見つけた。
「ツァトゥグァはヒキガエルのような邪神でとても食いしん坊で有名なの。回復アイテムって何かしら」
ユキが首をかしげると、あかねが言った。
「このスタンプラリーは、きっと学校を回って各部活の活動を見て回るシステムなのよ。食べ物だから、たぶん調理室だわ……」
調理室に行くと、料理研究会の子たちが試食のクッキーとお茶を配っていた。
「なるほど、このクッキーが回復アイテムというわけね。食べて感想をアンケートに書くと、スタンプがもらえる仕組みなのね」
二人は調理室で試食のクッキーと紅茶を満喫する。
「うーん。このクッキー、卵も牛乳もめいっぱい使ってて、味が濃厚でおいしい!」
ユキが尋ねた。
「あかねはこれからも、生成AIでどんどん作品を発表していくんでしょう?」
私は紅茶のカップを見つめ、銀縁メガネを外し、膝の上に置いた。
「小説は活用するわ。でも、イラスト生成は……難しい。私、AIに任せっきりになってしまったの」
「それは私が怒ったからじゃないんでしょ?」
私はユキの瞳をまっすぐに見つめた。
「私、小説とか文章は得意だから、AIの文章に自分で手を加えて改良することはできるのよ……。でも、イラストは専門的な知識がないから、生成された絵の構図とか色彩とか、何がダメで、どう指示を修正したらいいか分からなかった……。つまりね、AIの性能を最大限に引き出すためには、使う側の人間が、クリエイターとして知識と技術を持っていないと、AIに丸投げした作品しか作れないってこと。それがこの数日間の私の最大の学びだったの」
落ち込む私に、ユキは迷いなく言った。
「大丈夫! あかねには私がついてる! イラストで分からないところがあったら、構図でも色彩でも、何でも私に相談しなさいな。私が叩き込んであげる!」
「ありがとう。ユキ……!」

納得できるイラストを作るって難しい。
二人は残りのスタンプを獲得し、文芸部のブースに戻った。
私の肩にユキが腕を回し、力強く宣言する。 「そうよ! これから先も、ずっとなかよし。あかねはGeminiと協力しながら作品を作って、私はイラストでも漫画でもAIに負けない作品をガンガン描いていくのよッ!」
「そうね。私たち、これからもずっとずっと親友だわ!」

🌸 エピローグ:最高の合作
「……でも、やっぱり一つだけ気になるわね」
感動の仲直りをした直後、ユキが私の手から「しおり」をひょいと取り上げた。
「Gemini先生の絵は完璧だけど、このルミナ、ちょっとだけ『いい子ちゃん』すぎる。あかねの書くルミナは、もっとお転婆で、魂が燃えているでしょ?」
ユキはカバンから愛用の修正ペン(ホワイト)と細いミリペンを取り出した。迷いは一切ない。
ユキがペンを離すと、そこには全く違う表情のルミナがいた。
修正ペンで瞳に「ハイライト」が描き足され、命を宿したような意志が目に灯った。口元には不敵な笑みが加えられ、髪の毛には躍動感のある「アホ毛」が一本、ちょこんと追加されていた。
「あっ……! すごい! 生きてるみたい!」
AIが描いた完璧な造形という**『肉体』**に、**人間の絵師の「魂の一筆」という『命』**が吹き込まれたのだ。
「ふふん、これぞ『AI × 人間』の合作ね。Gemini先生の絵は最高のデッサン。あとは私が仕上げればいい」
ユキが得意げにウインクをする。 私たちは顔を見合わせ、声を上げて笑った。

人間の「こだわり」や「クセ」が作品の持ち味になるんだね!
私とGemini。そして、私とユキ。 技術と、知識と、そして何より友情。それぞれの得意なことを持ち寄れば、きっと一人では作れない、魔法のような作品が作れる。
私たち.の「クリエイティブの文化祭」は、まだ始まったばかりだ。
(完)

🎇今回小説の中に登場したアプリ『挿絵メーカー』の記事はこちら
✒️ コラム:教えてGemini先生 ~画像生成の豆知識~
今回の小説に出てきた、『二つの画像生成法 I2IとT2Iの違い』『AIの「バイアス(偏り)」とその攻略法』『過学習とバイアスの違い』『「AI学習禁止」という意思表示に効果はあるのか』についてを対話形式のコラムにしてみました。こちらです。
【作者あとがき】
この物語は、筆者(ぽわん)がGeminiを使った実体験をもとに、「どうしたらAIの便利な使い方を楽しく伝えられるか」をGemini自身と相談しながら、ライトノベル風に再構成した「共創作品」です。

いやー、まだまだ、私がAIに使われている状態です。小説の中でも述べましたが、AIを使って作品を生成すること自体は素人でもできますが、それで一つのコンテンツを作ろうと思ったら、専門的な知識や技術はあった方が断然有利だと改めて感じました。私ももっと勉強しなければと思いました。

