60歳まであと5年、2031年の世界を55歳が想像した
「田中さん、AIにエンジニアの仕事、取られますかね」
先月、社内の廊下でばったり会った後輩のBくん(32歳)に、そう聞かれました。
彼は組み込みソフトの開発をやっている若手で、なかなか優秀な子なんです。でも、その目には、こちらが少しドキッとするくらいの不安が宿っていた。
「うーん、どうだろうな」
正直に言うと、そのとき僕には自信を持って答えられる言葉がなかったんです。30年以上エンジニアをやってきた僕が、32歳の若者に「大丈夫だよ」と言ってあげられなかった。
その夜、家に帰って妻と夕食を食べながら、ふとその会話を思い出して、なんとなく遠い目になってしまいました。妻には「また難しい顔して」と笑われましたけどね。
これは、副業の話でも、お金の話でも、テクニックの話でもありません。
60歳まであと5年を切った55歳の僕が、2031年という近未来に思いをはせながら、正直なところを書き留めた、ただの手紙です。
もしよければ、少しだけお付き合いください。
5年後の世界を想像すると、胸の奥がざわざわする
2031年。
その年、僕は60歳になります。定年を迎えるかどうか、まだ会社の制度も流動的で、「65歳まで働く」可能性も十分あります。でも、節目であることは間違いない。
最近、仕事帰りの電車の中でぼんやりと「5年後、どんな世の中になっているんだろう」と考えることが増えました。スマートフォンの画面を眺めながら、ニュースアプリをスクロールしながら。
AIのことが頭から離れないんです。
ChatGPTが世間に広まったのが2022年末。それからほんの2〜3年で、職場の空気は確実に変わりました。若手エンジニアが「AIにコードを書いてもらった」と普通に言う。人事部門にいたときに採用してきた子たちが、今やAIツールを使いこなして仕事している。
僕が20年かけて身につけた「設計の勘」みたいなものが、どこかのAIモデルの中にすでに大量に蓄積されているんじゃないかという感覚、伝わりますかね。
怖い、というより——なんとも言えない、さみしさに近い感情を覚えることがあります。
プログラミング副業が「ブーム」になっている風景を、少し斜めから眺める
最近、「プログラミング副業で月10万円」みたいな記事をよく見かけます。プログラミングスクールもどんどん増えていて、2026年版のおすすめ比較記事なんかも盛んに出てきている。「未経験からでも稼げる」という言葉があちこちに踊っている。
僕自身、エンジニア出身ですから、プログラミングの価値はよくわかります。できる人間とできない人間では、仕事の幅が全然違う。それは30年間、現場で見てきたことです。
でも同時に、こうも思うんです。
「2031年に、今と同じ形でプログラミングが稼げる副業であり続けるのか」、と。
これは否定じゃないんです。むしろ逆で、だからこそ真剣に考えてほしいという思いがある。
Amazonせどりで値崩れして在庫を3万円分抱えたこともある。FXで痛い目を見て撤退したこともある。区分マンションの最初の物件で数百万を溶かしかけたこともある。僕の副業歴はほぼ失敗の歴史です。
でも、その失敗から学んだことが一つあるとすれば——「今儲かっているものが5年後も儲かるとは限らない」という、ごく当たり前の事実です。
日本の経済に、正直なところ楽観できない
2031年の日本経済。
これを想像すると、胸の奥がまたざわっとします。
人口減少は確実に進みます。今でも地方の製造業は人手不足で、僕の会社でも採用が年々難しくなっている。現役世代が減り、社会保障の重さが増す。そのプレッシャーは、今40代・50代の僕たちの世代が一番まともに受けることになるんじゃないか。
円の価値はどうなっているか。金利がどうなっているか。物価はどこまで上がっているか。
15年以上株式投資を続けてきた僕でも、5年後の日本経済を自信を持って語れる根拠がない。
それが正直なところです。
40代の頃、妻と二人でコツコツ節約しているつもりなのに、銀行口座の残高が一向に増えない時期がありました。あのときの閉塞感は今でも覚えています。節約しても追いつかない何か、もっと大きな流れに飲まれている感覚。
2031年に、あの感覚をもっとひどい形で味わう人が増えないといいな——そう思いながら、日々ニュースを読んでいます。
世界情勢という名の「予測できない何か」
もう一つ、正直に書いておきたいことがあります。
世界情勢です。
ここ数年で、「まさかそんなことが」という出来事がいくつも起きました。地政学リスクという言葉が日常会話に出てくるようになった。エネルギー価格、サプライチェーンの混乱、技術覇権をめぐる国家間の競争——自動車産業にいる人間として、この波は肌で感じています。
EVへのシフト、半導体の争奪戦、中国市場の変化。僕が新車開発エンジニアをやっていた頃には、まったく想像もしなかった話です。
2031年に、今現在と同じ「普通の日常」が続いているかどうか。
それを「きっと大丈夫」と言い切れる根拠が、僕にはない。
でも、だからこそ——
「どんな状況でも、自分の足で立てる準備をしておく」ことの意味を、最近になってやっと本当の意味でわかってきた気がするんです。
60歳が近づいて、変わってきた「お金への気持ち」
少し、個人的な話をさせてください。
55歳になって、お金に対する感情が変わりました。
30代の頃は、お金は「増やすもの」だと思っていた。40代に副業を始めたのも、正直なところ「もっと稼ぎたい」という欲求が大きかった。今でも3戸の区分マンションから賃料が入り、株式の配当金が入ってくることはうれしい。
でも、最近は少し違う感触があります。
お金は「自分の時間と選択肢を守るもの」という感覚が強くなってきた。
2031年、60歳のとき、僕は何をしていたいか。
まだコードを書いているかもしれない(エンジニアのDNAは消えないですから)。マンションの管理で頭を悩ませているかもしれない。あるいは、今年始めたギターが少しだけ上手くなっていて、週末に妻と笑いながら弾いているかもしれない——まだコードをちゃんと押さえられないんですけどね、本当に。
でも少なくとも、「明日食べるために今日を我慢する」という生き方だけはしたくない、という気持ちがある。
それが今の僕の、正直な感情です。
AIが来ても変わらない「人間にしかできないこと」への信頼
後輩のBくんへの答えを、あの廊下では言えませんでした。
でも、今ならこう言えるかもしれません。
「AIにできることはAIに任せたらいい。でも、あなたが30年かけて積み上げる『経験の文脈』は、AIには模倣できないよ」
エンジニアとして20年、人事として10年、僕がやってきた仕事の中で一番価値があったのは、スキルじゃなかった。「この人だから話せる」という信頼関係でした。
人事部門で何百人もの社員の生活相談に乗ってきた。年末調整の書類を一緒に見ながら、「実は離婚を考えているんです」と打ち明けてくれた社員がいた。そのとき僕が差し出せたのは、マニュアルじゃなくて、ただの人間としての誠実さだったと思う。
AIがどれだけ進化しても、「この人の言葉だから受け取れる」という感情は、人間の側に残り続けると、僕は信じています。
根拠がほしいならエビデンスを出しますよ、と言いたいところですが——これは信念です。エンジニアらしくないかもしれないけど、55歳の今、これが僕の答えです。
あなたに聞いてみたいこと
この記事を読んでくれているあなたは、今、何歳ですか?
30代ですか。40代ですか。あるいは僕と同じ50代でしょうか。
2031年、あなたは何歳になっていますか。そのとき、どんな自分でいたいですか。
プログラミングを学ぶことも、副業を始めることも、投資を続けることも——それ自体が目的じゃなくて、「なりたい自分に近づくための手段」だと、僕は思っています。
手段を磨くのはいい。でも、目的を見失わないでほしい。
目的というのは、お金じゃない。「あなたがどんな毎日を生きたいか」という、もっと深いところにある何かです。
5年後の世界がどうなるかは、僕にも予測できません。でも、5年後の自分がどうありたいか——それだけは、自分で決められるはずです。
あなたは、どう思いますか?
この手紙を書いた理由
今夜も、ダイニングテーブルで中古ギターを膝に乗せて、コードブックとにらめっこしています。Fコードが全然うまく押さえられなくて、妻には「まだそこ?」と笑われる毎日です。
でも、下手でも楽しいんですよ、これが。
音楽の才能なんて関係ない。うまくなるかどうかより、弦を鳴らすこの瞬間が好き。それだけで十分な気がしてきた。
2031年に、世界がどうなっていても——たぶん僕は、何かを学んでいると思います。うまくできなくて、でも楽しくて、妻に笑われながら。
それが、55歳の僕が描く「理想の60歳」です。
どうか、あなたも、5年後の自分を楽しみにしていてほしい。
読んでくれたあなたへ
最後まで付き合ってくれて、ありがとう。
この記事には、ノウハウも手順も何も書きませんでした。プログラミングの稼ぎ方も、AIへの対策も。それは意図的です。
今日伝えたかったのは、ただ一つ。
「5年後に向けて動き始めることを、今日から怖がらないでほしい」ということです。
完璧な計画はいらない。確実な予測もいらない。僕が30年以上の失敗から学んだことがあるとすれば、「準備が整ってから動く人間は、一生動けない」ということです。
Fコードが押さえられなくてもギターを弾き始めた。そのくらいの軽さで、一歩踏み出してみてください。
どんな2031年になっても、あなたが「あのとき動いておいてよかった」と思える日が来ることを、55歳の田中義雄は、本気で信じていますよ。
