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防衛4社の決算が出そろった。利益は絶好調で、受注だけが伸びていなかった

この記事は、自分に1つだけ宿題を出して書きました。防衛関連株が買われてきた根拠、つまり「これから注文が積み上がる」という話が、決算の数字で裏づくかどうかを確かめる。それだけです。

材料はそろっていました。8月3日から7日までの4営業日で、日本製鋼所、三菱重工、IHI、川崎重工の順に4月から6月の決算が出ています。4社が1週間で出そろう機会は、そう多くありません。

利益の見出しは全部よかった。三菱重工は本業のもうけが65%増。川崎重工は74%増。IHIにいたっては3.5倍です。

ただ、宿題の答えは利益のほうにはありません。見るべきは受注です。そして受注を4社ぶん並べたところで、宿題は予想と違う形で片づきました。

防衛の部門で、新しく受けた注文がどこも増えていなかったのです。

本記事は動画の内容に加えて、次の4つを収録しています。①「受注・受注残・売上」という3つの数字の関係と、どれを先行指標として信じてよいか②受注残を「何年ぶんの仕事か」に直す計算を、私がどう行ったかとその限界③4社の決算を並べると見えてくる、各社が結局「何で稼いでいる会社」なのか④この記事で確認できなかったこと。いずれも動画では扱っていません。




動画でも解説しています。

https://youtu.be/YS448Op1_64

第1部 4社の決算で起きたこと

1-1. 4営業日で全部出そろった

順に並べます。8月3日の引け後に日本製鋼所。4日の午後1時半に三菱重工。5日の午後1時にIHI。7日の午前11時半に川崎重工です。

発表当日の株価は、きれいに割れました。


三菱重工がプラス7.7%、日本製鋼所がプラス1.4%。対して川崎重工がマイナス3.1%、IHIがマイナス6.5%です。日本製鋼所だけは引け後の発表なので、翌8月4日の変化率を使っています。

利益の伸び率で並べ替えると、順番が合いません。伸び率がいちばん大きいIHIが、いちばん下げています。市場が見ていたのは、利益ではありませんでした。

1-2. 受注は増えず、売上だけ伸びた

ここが今回の中心です。


三菱重工の航空・防衛・宇宙は、受注が3,508億円から1,209億円へ、65.5%減りました。ところが同じ部門の売上は2,605億円から2,860億円へ、9.8%増えています。

川崎重工の航空宇宙システムも同じ形です。受注は989億円から726億円へ26.6%減、売上は1,015億円から1,376億円へ35.6%増。

IHIの航空・宇宙・防衛は、受注が1,370億円から1,380億円でほぼ横ばい。売上は1,279億円から1,547億円へ21.0%増えました。

日本製鋼所の防衛関連機器も、受注が224億円から217億円へ3.3%減り、売上は72億円から87億円へ20.8%増です。

4社とも、受注は横ばい以下で、売上だけが2割から3割伸びている。同じ形が4回続きました。

1-3. 増益を作ったのは防衛ではない

では利益を押し上げたのは何だったのか。決算説明資料をたどると、主役はどこも防衛ではありませんでした。


三菱重工はエナジー部門です。ガスタービンを使った発電設備と原子力で、この部門の利益が564億円から1,013億円へ80%増えました。受注も8,713億円から1兆3,593億円へ56%伸びています。全社の受注が25.7%増えたのは、ほぼこの部門の力です。

川崎重工でいちばん稼いだのは、パワースポーツ&エンジン、つまりバイクとレジャー用車両の部門でした。利益が80億円から192億円へ、111億円増えています。航空宇宙部門の利益は16億円で、売上1,376億円に対して1.2%しかありません。

IHIの営業利益732億円には、不動産を売った利益400億円が入っています。これを除くと331億円です。前の年の208億円からは増えていますが、3.5倍という見出しとは印象が変わります。

日本製鋼所を押し上げたのは、樹脂を作る機械とディスプレイ向けの製造装置でした。




第2部 動画では扱わなかった読み方

2-1. 「受注・受注残・売上」は時間軸が違う

ここから先は、今回の数字をどう扱えばよいかの話です。

この3つは、同じ会社の同じ事業を、違う時点から見た数字です。

受注高は、その3か月に新しく受けた注文の金額。これから作って納めるぶんなので、いちばん先の話です。

受注残高は、受けた注文のうち、まだ納めていない分の積み上がり。過去に受けた注文の在庫と言い換えてもかまいません。

売上は、実際に納めて代金を計上した分。3つの中でいちばん過去の話です。

重工メーカーでは、注文を受けてから納めるまでに何年もかかります。だから今期の売上は、数年前に受けた注文の反映です。逆に、今期の受注が減っても、今期の売上や利益はしばらく落ちません。受注残という緩衝材があるからです。

つまり今回の4社は、過去の注文を消化している最中で、新しい注文の入りが鈍っているという状態にあります。利益が良いことと、受注が伸びていないことは、矛盾しません。同時に起きます。

ではどれを先行指標として信じるか。私は受注高をいちばん先に見ますが、単独では信じません。四半期ごとの振れが大きすぎるからです。防衛や大型プラントは、1件の契約が数百億円から数千億円。前の年の同じ時期に大型契約が1本入っていれば、翌年はその反動だけで数十%減ります。三菱重工の65.5%減も、この反動である可能性が残ります。

だから受注高は、受注残高と一緒に見ます。受注残が積み上がり続けているなら、受注の一時的な落ち込みは消化のペースに追いついているだけかもしれません。受注残まで減り始めたら、そのときは仕事の総量が減っています。

2-2. 受注残を「年数」に直す計算と、その限界

受注残高は金額そのままだと会社の規模に引きずられるので、私は今期の売上見通しで割って「何年ぶんの仕事か」に直しています。


三菱重工は受注残14兆1,030億円を今期の売上見通し5兆4,000億円で割って、約2.6年ぶん。川崎重工は3兆2,493億円を2兆5,600億円で割って約1.3年ぶん。日本製鋼所は4,509億円を3,100億円で割って約1.5年ぶんです。

三菱重工の抱えている仕事の厚みは、他の2社の倍近くあります。

ただ、この計算には限界が3つあります。

1つ目は、分母に会社の見通しを使っている点です。見通しが上振れすれば年数は縮み、下振れすれば伸びます。実績ではありません。

2つ目は、受注残の中身の納期がばらばらな点です。来年納めるものと5年後に納めるものが、同じ金額として足されています。2.6年ぶんという数字は、2.6年で均等に売上になるという意味ではありません。

3つ目は、比較の基準が会社ごとに違う点です。三菱重工は前年度末との比較で受注残の増減を出していますが、川崎重工と日本製鋼所は前年同期末との比較です。増減額を横に並べて比べることはできません。

そしてIHIは、受注残高そのものを開示していません。だからこの比較は3社に限られます。4社の横並びとして読まないでください。

2-3. 4社は結局「何の会社」なのか

今回の決算を並べて、いちばん印象が変わったのはここでした。

防衛関連株という言葉で4社をひとまとめにすると、防衛費が増えれば4社とも同じように伸びるように見えます。しかし利益の出どころを見ると、4社はかなり違う会社です。

三菱重工は、いま実質的にエネルギーの会社です。エナジー部門の受注1兆3,593億円は、全社受注2兆224億円の67%を占めます。航空・防衛・宇宙の受注1,209億円は、全社の6%でしかありません。この四半期に限れば、三菱重工の株価を動かす主因は防衛ではなく、発電設備の需要です。

川崎重工は、利益の面ではバイクの会社です。パワースポーツ&エンジンの利益192億円は、全部門の利益合計410億円の47%にあたります。航空宇宙は売上こそ大きいものの、利益率1.2%では全体を動かしません。

IHIは、この四半期に限れば不動産を売って利益を上げた会社でした。ただし、それを除いた本業も208億円から331億円へ増えています。航空・宇宙・防衛の営業損益291億円は、全社の営業利益732億円の40%にあたり、4社の中では防衛部門への依存がいちばん高い会社です。

日本製鋼所は産業機械の会社で、防衛関連機器は売上582億円のうち87億円、15%です。ただし受注ベースでは217億円あり、産業機械事業の受注651億円の3分の1を占めます。売上より受注のほうで存在感が大きい構図です。

同じ「防衛関連」でも、防衛が業績に効く度合いは4社でまったく違います。

2-4. この記事で確認できなかったこと

正直に書いておきます。

前年同期に何があったのかまでは追えていません。三菱重工の航空・防衛・宇宙の受注が前年3,508億円だった中身、つまりどの契約が入っていたのかは、四半期の開示からは分かりませんでした。反動減という説明の裏取りはできていません。

セグメントの中の防衛だけを取り出せていません。三菱重工の「航空・防衛・宇宙」、川崎重工の「航空宇宙システム」、IHIの「航空・宇宙・防衛」は、いずれも民間の航空機や宇宙事業を含みます。この記事で「防衛の受注」と書いているのは、正確には「防衛を含む部門の受注」です。

株価が動いた理由は断定できません。第3部で受注との対応を書きますが、これは事後の解釈です。4社4件のサンプルから因果を言うことはできません。

もう1点、IHIについて添えておきます。連結子会社のIHIエアロスペースが、6月2日にJAXAから5か月間の競争参加資格停止処分を受けました。費用の請求に事実と異なる報告があったためです。IHIは決算短信に、業績への影響が出た場合は速やかに見通しへ反映すると書いています。現時点で金額の開示はありません。




第3部 株価の位置と、次に見る数字


8月7日の終値で、三菱重工は4,044円、時価総額13.6兆円。川崎重工は2,778円で2.43兆円。IHIは2,744円で2.91兆円。日本製鋼所は7,744円で5,700億円です。

株価収益率は自分で計算しました。時価総額を会社が見込む今期の当期利益で割っています。三菱重工が約35.8倍、川崎重工が約21.1倍、IHIが約16.9倍、日本製鋼所が約30.0倍。株価情報サービスの予想値には4倍台という明らかな異常値が出ていたので使っていません。

52週高値からの距離は、三菱重工がマイナス22.4%、川崎重工がマイナス26.2%、IHIがマイナス41.6%、日本製鋼所がマイナス27.1%。IHIがいちばん深いところにいます。

なお川崎重工は今年4月1日に1株を5株へ分割しています。分割前の株価とそのまま比べられません。


決算当日の反応を、受注の方向で並べ直すと対応が見えます。

通期の受注見通しを6,800億円から7,000億円へ引き上げた三菱重工がプラス7.7%。受注高が19%増え受注残も14%増えた日本製鋼所がプラス1.4%。通期の受注見通しを2兆5,400億円から2兆4,200億円へ引き下げた川崎重工がマイナス3.1%。利益は上方修正したものの全社の受注が15%減ったIHIがマイナス6.5%です。

上げた2社は受注が増える方向、下げた2社は減る方向でした。繰り返しますが、4件の対応であって因果の証明ではありません。


次に確認したいのは、10月から11月に出る次の四半期です。見るのは3つ。防衛部門の受注が戻るか、受注残が減り続けるか、そして三菱重工がエナジー頼みの構図のままかどうか。

この四半期の数字は、防衛の物語が終わったことを示してはいません。示したのは、利益が良いことと受注が良いことは別で、いまは前者だけが揃っているという状態です。




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出典とデータ取得日

  • 三菱重工業 2027年3月期第1四半期決算短信〔IFRS〕(連結)/2026年度第1四半期決算説明資料(2026年8月4日 13:30、TDnet)

  • - 川崎重工業 2027年3月期第1四半期決算短信〔IFRS〕(連結)/2026年度第1四半期決算説明資料(2026年8月7日 11:30、TDnet)

  • - IHI 2027年3月期第1四半期決算短信〔IFRS〕(連結)(2026年8月5日 13:00、TDnet)

  • - 日本製鋼所 2027年3月期第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結)(2026年8月3日 15:30、TDnet)

  • - 株価・時価総額・52週高値: yfinance、2026年8月9日取得・**2026年8月7日終値ベース**

  • - 予想株価収益率: 時価総額÷会社予想の親会社帰属当期利益で筆者が計算

  • - 受注残の年数換算: 受注残高÷会社予想の今期売上収益で筆者が計算

  • - ファクトチェック記録: `research/fact-checks/2026-08-09-theme-defense-q1-reset-fact-check.md`


#三菱重工 #IHI #川崎重工 #日本株 #決算  

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