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ちいさな奇跡

 北海道空知地方にある日本一小さな市、歌志内市と、フランス・パリにある、あのモダンアートの殿堂「ポンピドゥーセンター」の間に、いったい何のつながりがあると思うだろうか。私も考えもしなかった。
しかし、本当に関係があることがわかった。

 この夏、炭鉄港・日本遺産の構成文化財に認定が確実の歌志内市上歌地区にある「旧上歌会館(悲別ロマン座)」を設計したモダン建築の旗手、渡邊洋治という建築家について調べ始めたのは、昨年の夏の終わりあたり・・。調査するうちに、様々な偶然が重なり、また思わぬところから協力者が現れ、資料が集まり、私の「渡邊洋治ノート」はどんどん分厚くなっていったのだった。
 そんなことをしているうちに、偶然に渡邊洋治の甥にあたる建築家佐藤武志氏とコンタクトが取れ、夫が窓口になり、東京と北海道の間で膨大なメールのやり取りが始まったのも、つい最近のこと。
いつか、お会いできたらいいな、と思っていた矢先、えっ?佐藤さんが北海道に来る?歌志内にある叔父さんの作品である旧上歌会館(悲別ロマン座)を見に来る?
と、話は進み、本当に渡邊洋治の甥である佐藤さんと会えることになった。
まさかの急展開に、信じられない気持ちのまま、お会いした佐藤さんが
開口一番、「これは渡邊洋治があの世から仕組んだ事かも知れませんね。」と。
 渡邊洋治建築事務所で実際に日々同じ場所で仕事をしていた佐藤さんによると、渡邊洋治はまさに「鬼軍曹」。仕事の場では鉄拳が飛んでくることも稀ではなかったという。
「こんな無学な私にできることが、恵まれているあなたにできないわけがない!」から始まる3時間に及ぶ説教のエピソードなど、甥っ子であり、弟子でもあった佐藤さんの実体験は可笑しいやら、大変やら・・実感を持って渡邊洋治の人となりを感じられ、まるでこの場に渡邊洋治がいるような臨場感があった。
黒マジックペンを多用してあっという間にパースを描く姿を見て、学生たちは「マジラ」(マジックペンを多用してパースを鬼のように描きまくるゴジラ、の意)というあだ名を進呈したらしい。とにかく、建築家としても人間としてもめちゃくちゃ「濃い」のである。

 そしてそのとらわれない、同時に緻密な建築作品は世界を魅了し、フランス・パリにある現代アートの殿堂「ポンピドゥーセンター」の所長から「ぜひ、渡邊洋治のドローイングをポンピドゥーセンターに譲ってほしい」と言わしめた実力の持ち主だったのだ。
決して「短気な変わり者」などではない。
 やっと、歌志内とフランスのポンピドゥーセンターがつながった!

 そう、あの72年前に建った「旧上歌会館(悲別ロマン座)は、フランスのポンピドゥーセンターに作品が永久保存される建築家が設計したものなのだ!本当だよ。すごいことだよ。もっとみんなびっくりしてよ!
その作品が歌志内市に現存しているという奇跡を、日本一小さな市から世界に叫びたい。
(歌志内市地域おこし協力隊・石井葉子)


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