短編小説 『愛』
周囲の人間の顔色ばかり伺って
生きてきた子の名前は由愛(ゆめ)。
自由にしてても周りから愛でられるように
とつけられた名前だった。
でも実際は親は過干渉で
夫婦喧嘩が盛んだった。
兄弟からは体を強引に触られる。
それを断ったら脅される。
『優等生』そんな人生を歩んでいた。
由愛は由愛なんて名前じゃなくて
もっと別の名前で。
優等生なんかじゃなくてもっと不良で。
そんなふうに
居られるような場所を探していた。
誰の顔色も恐怖からも逃げなくっていい。
私がしたいようにいられる場所が欲しかった。
ある日私の部屋に君が現れた。
今日は兄の機嫌が悪くって乱暴に触られて
後始末をしていた時に君は来たよね。
黒髪ウルフでピアスがいっぱい空いてて他にも
ジャラジャラしたものいっぱい付けてたね。
私にはそれが『綺麗』に見えて。
手に取ろうとして
窓から落っこちそうになってたよね。
そんな私を君はやれやれみたいな感じで
見つめててさ
「不良、なってみる?」って聞いてくれた時は
ものすごく嬉しかったなぁ。
まるで天使が来たみたいだった。
もちろん私は頷いたの。
そしたら君が私の手を
取って行ってくれたんだよね。
覚えてる。あの時の手の温かみとか、
あの時のふわふわした感じとか。
ずーっと進んでいる間も君をみてたら
あっという間に着いててさ
ボケっとしてる私を見て
またやれやれって思ってたでしょ笑
知ってるんだよー?
でさそこには私と君の2人しか居なくてさ
すっごい居心地が良かったんだよね。
君がくれたグレープ味の飴。
美味しかったな。初めて食べた。
一緒に寝転んだり、一緒に本を読んだり
色んなことをしたよね。
きっとそこでは私も由愛で居られたと思う。
でさその後は君が私を
もう1箇所連れていきたい場所があるって
行って連れていってくれたよね。
そこは真っ白でさ人がいっぱい居たよ。
みんなが幸せそうにしてた。
君はいつの間にか私の手を離しててさ
私がどこか行くのって聞いたら無言で。
どこか行くなら私も行きたいって言ったら
困ったような顔してたよね。
それで君は行っちゃってさ。
周りに人はいっぱい居るのに独りだったよ。
そりゃあの地獄のような日々とは違ったけど
君と2人しかいなかった時が私の天国だった。
あそこにずっと居たかったよ。
また1人になっちゃったよ。
私はまた1人になったよ。
