歓迎されていた。けれど居場所がないように感じた。
1ヶ月の自宅療養を経て、本社に出社する
初めての日がきた。
私は緊張していた。
この会社のスタート時から働いて5年。
所謂「古株社員」だった。
けれど、
その5年間は
すべて店舗という現場で働いてきた時間だった。
そもそも創業当時は、本社などなかった。
店舗の片隅で社員が兼務しているような状態
だった。
そこから会社は少しずつ大きくなり、
本社機能ができた。
手狭になって移転し、さらに移転し、
今では駅前のビルの3フロアを使うまでに
なっていた。
それでも、
本社の社員たちの顔も名前もほとんど
知っていた。
それなのに、緊張していた。
ドアを開けると、
「おはようございます!まりさん、
本社へようこそ!」
と声をかけてもらった。
用意された席に案内される。
歓迎されていることは伝わってきた。
それでも落ち着かなかった。
朝礼で社長が私を紹介してくれた。
「知っていると思うけど、
今日からまりさんが本社研修チームの所属に
なった」
挨拶を促された。
何を話したのか覚えていない。
私にしては珍しいことだった。
それほど緊張していたのだと思う。
席に座り、メールのチェックをすると
もうすることがなくなった。
「あれ?」
と思った。
手帳を開いてみた。
閉じた。
時計を見た。
まだ10時にもなっていなかった。
大阪では朝から晩まで走り回っていた。
福岡では、やりたいことがあってもできなかった。
大宮では、自分がいなくても店は回っていた。
そして本社では、
何をすればいいのかわからなかった。
ぼんやり座っていると、
社長が気づいて声をかけてくれた。
「大丈夫?」
私は思わず、
「いいえ、大丈夫じゃありません」
と言いそうになった。
周囲は静かだった。
聞こえるのはパソコンのキーボードを打つ音だけ。
店舗では常に誰かの声がしていた。
電話が鳴る。
スタッフが相談に来る。
会員様が来店する。
賑やかで、活気があった。
私はずっとそんな場所で働いてきた。
静かすぎるこの環境に、どうしても馴染めなかった。
やはり私には本社は向いていないのかもしれない。
そんな思いが頭をよぎった。
新しい仕事への期待よりも、
環境への違和感の方が大きかった。
私の本社での一日は、
そんな気持ちから始まった。
私は歓迎されていた。
でも、居場所がないように感じた。
そして何より、
「ここで私にできることがあるのだろうか」
それが、わからなかった。
