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shinobuwada
ランドセルの底、母が泣いた理由
押し入れの奥から、
小さなランドセルが出てきた。
赤いランドセル。
角は擦れて、
金具は少し錆びている。
私はそれを抱えた瞬間、
胸がぎゅっとなった。
長女が小学生だった頃のものだ。
毎朝「行ってきます」と言って、
小さな背中で走っていった。
私はいつも玄関で見送った。
あの頃の私は
余裕がなくて、
笑うことも少なかった。
叱ってばかりだった。
早くしなさい。
忘れ物しないで。
ちゃんとしなさい。
今思えば、
あんな小さな子に
私は何を求めていたんだろう。
私はランドセルを開けた。
中は空っぽだった。
教科書も、ノートも、
全部もうない。
ただ、底の方に
何かが残っていた。
小さな紙。
折りたたまれていて、
少し汚れている。
私はゆっくり開いた。
そこには、幼い字で書かれていた。
「ままへ
いつもありがとう
おしごとがんばってね
ままだいすき」
私はその紙を握りしめて、
声を出して泣いた。
あの頃の私は知らなかった。
叱ってばかりの私を、
それでもこの子は
こんなに愛してくれていた。
私はランドセルを抱きしめた。
もう背負うことはないのに、
この子の時間がまだここにある気がした。
ランドセルの底に残っていたのは、
忘れ物じゃなかった。
私がずっと忘れていた
愛だった。
