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「プロモデラーを諦めたら、違うモデラーになっていた」話

これは、彼から聞いた話なんですがね。
彼がまだ20代前半だった頃の、今となってはずいぶん昔の話です。

以前、
「初めてシリコン型を作ったのは中学生の頃だった」
そんな話を聞いたことがあります。

当時の彼は、ホビー模型にどっぷりハマっていました。
いわゆる“ガンプラ第一世代”。
入口はやっぱり、そこだったそうです(笑)

作ること自体は楽しい。
でも、どうにも引っかかる感覚があったと言っていました。

みんな同じキットを作って、
評価される方向性も、褒められ方も、どこか似ている。
「右へならえ」と言うほど単純ではないにせよ、
当時の彼には、なぜかそれが少し不自由に感じられたそうです。

そんなある日、
同じ塾に通っていた友人から、某模型雑誌を見せてもらいました。

カラーページに並ぶ、プロの作品たちを一通り眺めたあと。
彼の視線は、巻末の広告ページで止まります。

白黒のページに掲載された、
これまで見たこともないほどのクオリティの「ゴジラ」。

色は付いていない。
でも、圧倒的な迫力だったそうです。
思わず口をついて出た言葉は、
「……なにこれ?」

それを聞いた友人が教えてくれたのが、
「ガレージキット」という世界でした。

原型を作り、
シリコンゴムで型を取り、
そこにレジンを流して複製する。

話を聞くほどに、彼は惹き込まれていったそうです。

「これって、自分で“商品”を作れるってことじゃないか?」

もともと、少し商売っ気のある性格だったこともあり、
その仕組みが、たまらなく魅力的に感じたと言っていました。

そこからは見よう見まねで、ガレージキット製作を開始。
今のようにネットがある時代ではありません。
何を揃えればいいのかも分からず、
知っている人に聞きながら、少しずつ材料を集めていったそうです。

時は流れ、彼は短大の2年生。
学生生活も、いよいよ最終年です。

周囲は就職活動一色。
一方で彼は、
「この道で食べていけないだろうか?」
そんなことを考えていました。

つまり、
“プロモデラー”になる道を模索していたんですね。

……とはいえ。
今振り返ると、かなり曖昧だったそうです。

専業で生活できるのか。
どうやって仕事を取るのか。
具体的なビジョンは、正直ほとんどなかった。

結果、進路が決まらないまま卒業。
無収入ではさすがに気まずく、
友人のつてで、日用雑貨や化粧品の卸商店に派遣社員として入ります。

「諦めたわけじゃなかった」と、彼は言います。
でも、考えるばかりで、行動が伴わなかった。

そんなある日。
毎月読んでいた模型雑誌に、模型コンテストの告知が載っていました。

「これだ」

彼は、そう思ったそうです。

開催は8月。
そこから逆算して、6月に派遣先を辞め、制作に専念。
東京で行われるコンテストに、前日入りまでしました。

結果は……惨敗。

周囲の作品のレベルに圧倒され、
「自分が来ていい場所じゃなかった」
そう感じるほどの敗北感だったそうです。

そこから先は、時間だけが過ぎていきました。
実家暮らしで生活には困らない。
でも、家族の視線が、やけに重く感じる。

2〜3ヶ月。
単発バイトで少しのお金は入る。
それでも、心は晴れなかった。

夢を追い、
就職活動もしなかった。
派遣の仕事も、その夢を理由に辞めた。

残ったのは、
実力不足と、計画性のなさだけ。

でも、不思議なことに。
ある時、ふっと吹っ切れたそうです。

求人情報誌を何冊も買い込み、
「今の自分にできる仕事」を探す日々。

周囲より、2年遅れている。
その遅れを、どこかで取り戻そうとしていたのかもしれません。

年末。
いつものように求人誌をめくっていた時、
彼の目に止まった一文がありました。

「プラモデルが得意な人には、もってこいの仕事です」

思わず笑ってしまったそうです。
得意かどうかはともかく、好きではある。

すぐに電話をかけると、
おそらく社長であろう人が対応してくれました。
それまで作ってきたものの話をすると、話が弾み、
気づけば30分も話し込んでいたそうです。

年明けに面接。
そして、採用。

こうして、彼のサラリーマン生活が始まります。

仕事の内容は、
家電などの「試作模型」の製作。

樹脂の板材や棒材を加工し、
手作業で組み立て、仕上げていく。

言われてみれば、
「パーツから作るプラモデル」のような仕事です。

入社して1ヶ月ほど経った頃。
飲み会の席で、社長がこんなことを言ったそうです。

「この仕事、正式な呼称は“モデラー”なんだよ」

パスポートの職業欄にも、そう書けるらしいです(笑)

なるほど。
試作模型を“モデリング”する仕事だから、モデラー。

プロモデラーになる道を諦め、
就職という選択をした彼は――
知らないうちに、別の「モデラー」になっていた。

そんな話でした。

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