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神は細部に宿る-高校野球トレーナーとして甲子園で教わったこと-


今年も、甲子園の季節がやってきました。
テレビでは、全力で白球を追いかける高校球児たちの姿が映し出されます。

ホームランに歓声が上がり、最後の一球に涙する。

そんな姿を見るたびに、私が思い出す景色があります。
それは、試合ではありません。

私は高校野球のトレーナーとして、これまで複数回、甲子園に帯同する機会をいただことがあります。

その中でも、今でも忘れられないのは、初めて帯同した年の、ある夏の朝の出来事です。

大会期間中、チームはホテルのワンフロアを貸し切って生活していました。

その日の予定表には、

「6:30 散歩」

と書かれていました。
私は「10分前に行けば十分だろう」と思い、6時20分頃にロビーへ向かいました。

ところが、

…誰もいません。


「あれ?場所を間違えたかな?」

そう思った瞬間、チームはすでに散歩へ出発していることを知りました。

後から聞くと、6時15分には全員が揃っていたそうです。

私はこれまで、高校サッカーや国体成年男子サッカーにも帯同してきました。

もちろん競技やチームが違えば文化も違います。
だから比べるつもりはありません。

ただ、私が初めて帯同した高校野球チームには、
「時間を守る」というより、「仲間を待たせない」
そんな空気が自然と流れているように感じました。

そして、その朝、もう一つ気になることがありました。

選手全員が、小さなビニール袋を持っていたのです。

「何に使うんだろう?」
正直、そのときは全く分かりませんでした。
答えは、散歩の終わりにありました。

袋の中には、

ホテル周辺で拾ったゴミがたくさん入っていたのです。

空き缶。
ペットボトル。
タバコの吸い殻。
お菓子の袋。

初日や2日目は、袋がいっぱいになるほどゴミが集まりました。
ところが、毎朝続けていくうちに変化が起こります。

目につくゴミは少なくなり、今度は植え込みの奥や道路の隅、小さなゴミまで探して拾う選手が増えていきました。
私は思わず尋ねました。

「甲子園だからやってるの?」


すると返ってきた答えは、

「寮の周りでも毎日やっています。」


という一言でした。

その瞬間、妙に納得したことを今でも覚えています。

甲子園だから特別なのではない。

特別な舞台に立つチームには、特別ではない毎日がある。

その積み重ねが、あの場所につながっているのかもしれない。
そう感じました。

その頃、監督が読まれていた本がきっかけで、私自身も読書をするようになりました。

その中で、今でも心に残っていて、大切にしている言葉があります。

「面白いことを探すのではなく、起こっていることを楽しむ。」


もし、その言葉を知らなければ、私はホームランや勝敗ばかりを見ていたかもしれません。

でも、あの日の私は、一人ひとりが持っていた小さなビニール袋に目を奪われました。

日常の中には、気づこうとしなければ見えない景色があります。

そして、その景色が、人を成長させてくれることがあります。

私はトレーナーという仕事をしています。
身体の小さな変化に気づくこと。
テーピングを数ミリ丁寧に貼ること。
表情や歩き方のわずかな違和感を見逃さないこと。
そうした小さな積み重ねが、選手を支える仕事だと思っています。

だから、私が大切にしている言葉があります。

「神は細部に宿る」


それは技術だけの話ではありません。
時間を守ること。
ゴミを拾うこと。
挨拶をすること。
誰も見ていないところでも、自分を律すること。

細部を大切にする姿勢は、きっとプレーにも、人としての在り方にも表れる。

甲子園で私が教わったのは、野球の技術ではなく、その姿勢でした。

今年も甲子園が始まります。
テレビには、全力でプレーする高校球児たちが映るでしょう。
その姿を見ながら、ほんの少しだけ想像してみてください。
あの選手たちの背中の前には、誰も見ていない朝があり、仲間を待たせないための数分があり、当たり前を当たり前に積み重ねてきた日々があるのかもしれません。

私にとって甲子園で一番心に残っているのは、スタンドの歓声ではありません。

朝の街を、小さなビニール袋を片手に歩く高校球児たちの後ろ姿です。

あの夏に見たその景色は、今もなお、私に「細部をおろそかにしないこと」の意味を静かに教え続けています。

そして、その静かな積み重ねこそが、あの大舞台の熱を支えているのだと思います。

日々の出来事には、きっと誰かの人生を豊かにする気づきがある。そんな一つひとつを、これからも「つむぐ」で紡いでいきます。

つむぐ

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
皆さんがスポーツを観るとき、もしくはプレーをする時、
プレーだけでなく、その背景にある積み重ねや、見えない時間にも少しだけ思いを巡らせてもらえたら嬉しいです。
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