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〈さよならじゃない〉#せりふ三題噺





「内緒だからな」絶対に言うなよ
貴史はその長い指を鼻の前に持ってきて
そっと美咲を諭した。

美咲は知ってしまえば、すべて内容に段階があるとするならば1から9まで親に話してしまう子だった。
貴史は知っていた、美咲が両親の気を引きたくて
どうしても話を持ってしまうことも
お腹空けば機嫌が悪くなってしまうことも.

この日は、修了式が終わり各々が体育館から教室へと戻った。体育の北原先生が、「こら〜走るな」と強く叫んで怒っている。北原先生の声と打って変わり、学業という名の縛りから解放された生徒が喜びのような黄色い声色を出しながら女子達のおしゃべり声が聞こえた。
男子がパタパタと上履きの足音をたてて、廊下をかけていく。美咲は一人空を見上げた。「ひとつ終わった」「私の人生の階段」物想いに耽っている暇はなく、修了式が終われば、教室で担任の先生からの挨拶の言葉が待っている。
担任の先生は国語を主に担当していた。
そのお陰か美咲の国語の点数はこの一年でグッと成績が伸びたのだった。分からない漢字を調べて読むこと、作者の文脈から意図を汲みとる術を、先生はすべて当たり前のように分かっていたからだ。
そしてなにより、先生は私たちのクラスだけに「毎日、日記を書いて提出すること」を促した。
別に毎日書かなくってもいいんだけどね
と先生はチャーミングに笑っては、嬉しそうに毎日クラス生徒の手帳ノートを大切そうに抱いていた。
美咲のその先生の仕草が大好きだった。
先生だって暇じゃない、期末テストに入学式の準備、クラス替えに教育委員会、保護者面談とやる事は山ほどあるのだろう。そのはずなのに、私の拙い日記に、毎日赤ペンで助詞を入れて訂正してくれたり、漢字に直してくれたり、最後に必ず一言を添えて返してくれたのだ。

私は、はじめからこの日記に心を晒したわけではなかった。友達になにを書くか相談して、初めての日記は天気と宿題の事、その次はクラスの事、その次はお昼の出来事。ひとつひとつの出来事に目を通して、先生なりのコメントをくれるのが、いつしか美咲だけの楽しみになっていた。
だから先生がこの学校から離れると知った時、とても残念という一言では済まされない気持ちが沸いた。

たい焼きの香りが、道路を挟んだ向こう側から匂ってきた。「美味しそう、ひとつ買わない?」美咲はあかりと一緒に、財布から小銭を出し合ってひとつたい焼きを買った。温かくて、あんこの香りが鼻をくぐった。

ふたつに割って分けっこした。
「あかりちゃん、どっちがいい」「私尻尾から食べたいな」「尻尾でいいの?」「頭の方がね、沢山あんこが詰まってるから」美咲は分けっこした半分をあかりへ渡す。
「たい焼き美味しいね」

その時、修了式で教科書で鞄がぱんぱんになっている
貴史が通りかかった。「あれ、貴史今帰り?」
「ああ今日は親父の手伝いがあるんだ」
「たかし、ファイト!」あかりが口をひらく。
「うるせー」その時だった体育館裏口から駐輪場へと北原先生が、鍵を持って出てきた。

「そこの生徒」
あかりと美咲の身体がびっくりして震えた。
北原先生の目はヒョウのように、視力が3.5以上あるとの噂だった。私たちの手に残ったたい焼きが目に入ったのだろう。

「お前達、買い食いしてるな」
「修了式に買い食いとは、最後まで気が抜けん」
「これだから、浮かれるなと言ったのに」
空いた口が塞がらないとはこの事を言うのだろうか。

あっけらかんにとられていると
貴史がいつの間にか姿を消していた。
「あれ貴史どこいったの」

「美咲、貴史の鞄。あれ教科書じゃないよ」
「えっどういうこと?」
「たかしくん、多分だけどたい焼き10個買ったんだと思う」「鞄のファスナーから鯛焼きっぽい尻尾と白い袋が出てた」
「うそ」

美咲は少し笑いを堪えた。
貴史も昔からそう言えばあんこには目がなかった。

「あかりちゃん、先生になんて言う」
「素直に、すみません。もうしません。でいいんじゃない?」そう美咲とあかりは二人で相槌で打ち合ったところ、駐輪場で自転車を盗もうとしていた生徒が金原先生にこっぴどく叱られていた。

「セーフ」
「私たちギリギリ生き伸びたね」
その瞬間だった、空から風が舞いさくらが一枚待った。
まだ薄く色付く前の花びらだった。
「あっさくら」美咲が咄嗟に口に出した。
「貴史、たい焼き大丈夫だったかな」

「美咲はいつもそうだ」
貴史の声が脳内に再生される。
「俺にだって、知る権利も聞かされる権利もある」
「どういう意味よ」

「だから俺ん家のいえの事、親にべらべら話すな」
「周り回って、親父の口から俺の耳に入るんだよ」
「全然、内容ちげーし」
そう言って、貴史はフンと鼻息を立てていつもそそくさと美咲の前をゆく。
来年の三月、私たちはこの学校を卒業する。
紺の襟のセーラー服ともお別れね。
貴史の第二ボタンに目がいく。
あれ、欲しいって私言えるかしら。
きっと言えない、だからこの桜の花びらのように薄く散って誰かの鞄や肩にとまればそれで充分なのかもしれない。美咲はヒダスカートの裾をぎゅっと握りしめて、口の中に残った餡子の香りを鼻からすすった。

「また来年も」
「うん、あかりちゃんも」
「気をつけてね」帰り道、別れた帰路に街路樹の薄い桜の葉が生い茂ったと思えば、空にはひとつ飛行機曇が線を描いた。

おわり.


「内緒だからな」彼との秘密、放課後のたい焼き。桜舞う季節、伝えられない想いが胸を締めつける。#note


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お世話になります。
はらとけい様主催の
#せりふ三題噺 に応募させていただきます。

「内緒だからな」
■三題
・第二ボタン ✔︎
・たい焼き ✔︎
・駐輪場 ✔︎

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