〈涙のタイムリープ、少年の瞳〉
タイムトラベルできる赤い大きなボタンがあった
学級閉鎖で暇を持て余した生徒がひとり
誰もいない公園へ遊具で遊びにやってきた。
「ちぇっ母さんのやつ、弟ばかり可愛いがって」
「俺のことはどうでもいいのかよ」
家のりんごを丸かじりしようとして、
咄嗟に母親に怒られた。
赤いりんごを手に持ち、少年は家を飛び出した。
ボタンをひとつ発見した。
「これが噂の過去に戻れるボタンてやつか」
少年はおそるおそる
その掌に収まるか収まらないか程の
プラスティックの赤いボタンを思い切って押した。
ひゅるり〜
ひとつ木枯らしが吹き
少年は過去の扉を開いた。
病室で少年を抱く母親がいた。
目尻を垂らし微笑んで、赤ん坊をみつめる母親、
愛おしく見つめていた。
赤ん坊は、少年にそっくりだった。
母親の顔は背中からしか見えない。
母の愛おしい顔が一目見たくて、少年はそっと足音を立てずに、母の顔を覗き込んでみた。
少年は「あっ」と声を出した。
赤ん坊の母親は、少年の母親ではなかった。
綺麗な顔をした、丸顔の瞳の大きい女性だった。
少年は慌てて、その場から立ち去り
廊下で荒れた息を整えた。
胸がどくんどくんと脈を打った。
「あれが将来の、俺の子供」
「母親だと思ったのは、将来のお嫁さん」
少年は瞳を大きくして大粒の涙をながした。
母さんごめんよ、俺わがままで。
将来ちゃんと家庭を築けるように、
ちゃんとした大人になるからさ。
廊下からパタパタと駆け足で近寄るスリッパの音がした。
「ユキー、遅くなってごめん。」
男性の裾はずぶ濡れで、シャツの襟周りはひどく荒れていて血相を抱えていた。
「アキラさん、産まれたの」
「元気な男の子よ、アキラさんにそっくり。見てほら」
少年の瞳は、その会話を聞いて
真っ赤に染まり、タイムスリップで手に持ってきた
赤いりんごをそっと母親と赤ん坊のいる病室の
机の上に置いた。
その瞬間少年を大きな、光が包み
瞬く間に現在へと戻ってきた。
ボタンはふたつあった、赤いボタンと青いボタン。
ひとつは過去を開ける扉。
もうひとつは未来を開ける扉。
少年はどちらを押したのかもう覚えていない。
寒い木枯らしが吹く
公園を立ち去り、家へとダッシュした。
「お母さん、今日の晩ご飯はなに?」
「アキラ、まだ作っている途中だから」
「もう少し待っていなさい」
少年の瞳にはもう涙はなかった。
おわり.
過去へタイムスリップした少年が見たものとは?母への愛に涙… #note
♩.•¨•.¸¸♩.•*¨*•.¸♬♩.•¨•.¸¸♩.•*¨*•.¸
お世話になっています¸♩.•*¨*•.¸
こちらの記事は#風まかせ文芸部 さんの企画に
投稿させていただきます。
宜しくお願いいたします。
♩.•¨•.¸¸♩.•*¨*•.¸♬♩.•¨•.¸¸♩.•*¨*•.¸
風まかせ文芸部|ふわっとことばあそび|i 様・お題【瞳】
