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〈りんごが、人つなぐ〉#シロクマ文芸部


晴れた日に空を見上げると
一本の飛行機雲がみえる
どこからか
流れついたように
それはひょろひょろと
蒼空に線を描いている

美琴はまたこの美術部に入って間もない
初めての日は、人物画ではなく
りんごのデッサンからだった。

初めて手渡されたのは、華やかな人物画の筆ではなく、一本の鉛筆と、一個の林檎だった。
副部長の桐生先輩が美琴に声をかける。
「道具は、自分の身体の延長だと思って。慈しむように扱えば、必ず応えてくれるから」先輩の桐生さんが、熱心にひとつひとつ道具の説明をしてくれる度に、先輩の声がやけに耳に響いて、美琴は集中出来なくなり
あやふやに返事をした。

見よう見まねで、ありさ先輩の後ろ姿を見つめる。

どことなく流れる髪に
窓から入った夕陽の光がやけに眩しく、艶めかしく
美琴の目に映っていた。
先輩きれい。まるでパン⚪︎ーンのCMの女性の髪みたい。
テレビの向こう側の虚構のように完璧で、美琴の視神経を痺れさせる。まるで、光そのものを編み込んだみたいだった。
「いけない、今は林檎だ。」美琴は慌てて、目の前の赤い球体に視線を戻す。

先輩に見惚れた気持ちを正す。そうじゃなく、今はりんごのデッサンを書いている。

丸く端と端を繋げる作業がこれ程までに難しいものなのかと、美琴は自分の画力の無さを恨めしく思った。
文化祭のあの日、この高校に訪れて、来客用のスリッパを履いた自分と在校生の緑のスリッパがすれ違ったとき私は思った。パタパタと廊下を駆ける音に、どこか無機質な廊下に、はしゃぐ声がこだましている。この場所で、私勉強がしたい。そう思った瞬間だった、廊下に張り出された額縁に入った絵が目に入った。

「女の子図鑑」
そのタイトルの横を手でなぞる。
斉藤ありさ2年D組。コンクール入賞。
どこか謎めいていて、海辺の岩にかける女性の絵だった。悲しげな顔をしていて、白いワンピースを着ている。写真のように繊細なタッチが美琴の目を引き寄せた。
どうして、この絵こんな色をしているの

私はその絵の女性に捉えられたように、
語りかけたい気持ちをグッと堪えた。なんだって
こんな時に、絵を一分以上見つめていたら、自由時間といえど'変なやつ'に写りかねない。
ささっと二つ括りに結んだ髪を両手で掴み、下へと下ろす。トイレに行っていた明子が
「ごめん、待った?」と声をかける。
「美琴?大丈夫」「うん、」
「トイレすごく綺麗だったよ」「ほんと」
「蛇口捻らなくても自動で水出てさ」
「えっすご」
「感動しちゃった」
「うん」
「美琴もあとで、帰る前にいっといでよ」
「ありがと、アキちゃん」
未来への期待と少しの気恥ずかしさを混ぜ合わせるようにして二人はむず痒く笑い合った。

「なにか見つめてた」
「これ?」「うん、美術部の人が描いたみたい」
「コンクール入賞だって」
「綺麗だね」「そうだよね」黙って頷く美琴を見て、明子はそっと微笑んだ。
二人でさもしこの高校に入ったら、
一緒のバッグ持って投稿しようよ。
「お揃いにするってこと」
「そう、色違いでもいいよ」
美琴に任せる。あきちゃんは茶色が似合うと思う。
言いかけてやめた。まだ入学が決まった訳でもないのに。
「私ね」「うん」
「もし合格したら、さっきの絵の人に会ってみたい」「どうして」
「なんかね、すごく気に入っちゃった」
「そう」「私はバレー部希望だから、見学だけ一緒に行こう」キミちゃん。
「絵描いた事ある」「美琴、あんたね。私に絵心がないの知ってて言ってる」
「ううん、ごめん。」
「私もその、ないから。絵描いた事、聞いてみただけだよ」「そっ」
二人は中学の引率する先生ね、影を見つけ小走りで近寄っていく。
「また、今度、美琴の話ちゃんと聞くから」
明子の言葉はいつも歯切れがよくキビキビとしていて気持ちいい。私とは正反対だ、と美琴は俯く。

帰宅すると母親が待っていた。
「ご飯にするね」美琴は鞄を置いて、食器棚から皿を取り出して、分けていく。「お母さん、準備終わったから、ごはん出来上がったら教えてください」

桐生先輩の声は、まるでアルトのように低く、それでいて重低音ほど重くない。美琴はその心地よい声が耳たぶに触れる度に、美術部の今月の目標も学校の課題も忘れて、ただ先輩の声に準えるように動く喉仏を見つめていた。


つづく、


夕陽に透ける髪、耳に残る低い声。デッサンより、今はあなたを刻みたい。瑞々しく切ない美術部の物語。 #note



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はじめまして.
この記事は#シロクマ文芸部に投稿させていただきます🫧🐕‍🦺❤︎

シロクマ文芸部|お遊び企画「晴れた日に」|小牧幸助|小説 @komaki_kousuke
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