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〈昼下がり窓際の彼女〉



昼下がり窓際の彼女は少し俯きながら
書類を片付ける。
'とんとんとん'
書類を整える音は特別大きい訳でもなく
静かにそっと机の上に響く音がする。

このフロアにはお昼のチャイムが鳴ると
皆外にいくので
雄二はひとり午前中に片付かなかった案件を
昼休みもせっせと片付けることに必死だった。

誰かの穴は自分が埋めなければいけない
強い責任感は、父親譲りなのか
上手く自分を慰めることすら得意ではなかったのだ。

沙織さんが、こちらを向いた
「山口くん、あの書類まだもらってなかったよね?」
唯一このフロアで仕事をしている二人にとっては、いつもの合言葉のようだった。

「まだ、です。明日の朝でも間に合いますか?」
「明日の朝だね、よろしくね」
彼女はなんの躊躇いもなく、淡々と業務をこなす。きっと数字に強い彼女にとって
この質問は業務の一貫のひとつなのだろうと感じる。

だけれどもあとこのもう少しの距離感がもどかしい。
もし俺が、「この後飯一緒に食いに行きませんか」と言えば、
彼女は「私は大丈夫」と言うのだろう


分かってはいるけれど、
今日は募りに募った昼下がりのランチを一緒に食べたい。もう少しだけ彼女のことを知りたい
と強く思った。

だから彼女に声を掛けた
「いつも書類、多くないですか?」
「良かったら気晴らしにあそこのパスタ食いに行きません?」雄二は、さり気無く当たり障りなく、特別に断られたって困りはしないと言った態度で声を掛けた。

「いいですよ、」ニコッと笑う彼女の声は
どこか、あっさりとしていて掴みどころがなかった。

俺は少し不安げになりながらも
列をなして歩き、無難な名物課長の話題をふった。
クスっと笑い転げる顔は
職場のデスクで見る彼女の印象よりも明るく感じた。

「こんな風に笑うんですね」なんて
口が裂けても言えないが
彼女の睫毛は綺麗に束ねられ、ポニーテールが揺れるたびに、その美しさが際立つ
髪が綺麗ですね、とつい口に出てしまった。後悔とともに、何か理由をつけなければ、と焦った。
そして、ひとつ我儘な彼女に嘘をつく理由を考える。


パスタ屋さんで、彼女は日替わりパスタランチ
俺は明太子クリームパスタのセットを頼んだ。
日替わりがお得で美味しいらしいと
メニューを見つめる彼女の視線に口を挟むと、
「それにしようかな」とパタんとメニュー表を閉じた。

そんな少しクールで事務的な姿が好きだった。
だって俺の彼女は、ああ言えばこういうで
'◯◯が美味しい'らしいといえば
'じゃあ△△にするわ、という彼女だったから。
我儘で喜怒哀楽の激しい彼女を、慈しみの気持ちで
見つめる度に
昼下がりにみる書類をトントンの片付ける彼女の横顔が浮かぶのだ。

好きではない、だけれど摘み食いがしたいのが
男だと言えば、誰かに共感でもしてもらえるだろうか...

雄二は、沙織のすするパスタの口元に目を落とす。汚れないようにかけた、白いエプロンは白いままだ。
絶妙なタイミングでパスタを回してスプーンの上に乗せ
口に含む彼女をみては
胸の奥でほっと息をつくような気分になった。

まだ、昼下がり。
夕方になれば、彼女は定時と共に帰るだろう
'彼氏の有無なんて聞けない'

職場の、男と女、ただの同僚。
同じタイミングで仕事を片付ける
これが心地良いだけた。

そう思いながら、彼女の耳につけた真珠に目がいった。
淡く光るピンクのパールは
彼女の薄ピンクのブラウスとよく似合っていた。

だから、一瞬だけ目を奪われた。
ただそれだけだ。
明太子クリームが喉につまった。
お手拭きを差し出す彼女の手は、いつものデスクで書類を受け取る手となんら変わりはなかった。





おわり.(1453字)


ランチに誘った同僚。彼女の笑顔にドキッ…!オフィスラブ未満の距離感にキュンとする?#note



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こちらはi 様の
#風まかせ文芸部 |ふわっとことばあそび【昼下がり】|に参加させていただきます。

宜しくお願いいたします。

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