見出し画像

全国ガラス細工の陣

※本記事は楽天アフィリエイト広告を利用しています。

事の発端は先日、ある店先で見かけた「津軽びいどろ」であった。 透き通るようなガラスのなかに、日本の美しい四季を閉じ込めたような色彩が散りばめられたその姿に、すっかり心を奪われてしまった。無骨な土の器が並ぶ我が陣営に、あの透き通る光の器を潜ませたら、どれほど美しい景色になるだろうか。
その強い野望を抱いた時、ふと一つの疑問が脳裏をよぎった。 「焼き物が日本各地の土から生まれたように、ガラス細工にも全国各地に独自の産地があるのではないか?」と。
そこで早速、全国のガラス細工の産地について調査し、各地の特色をまとめてみた。しかし、調査を進めるうちに一つの大きな壁(疑問)にぶち当たった。「ガラス」「びいどろ」「切子(きりこ)」……。 これらは一体何が違うのか?そして、なぜ数千円で買えるものから、数万円もする高価なものまで、これほどまでに価格差があるのか?今回は全国のガラス陣容を紹介する前に、まずはこの「ガラス細工の基本戦術」から紐解いていこう。

基礎知識:「ガラス」「びいどろ」「切子」の違いとは?

結論から言えば、これらは「素材・語源・技法」の違い。

  • ガラス(硝子): オランダ語の「glas」に由来する、素材そのもの(または総称)を指す言葉。

  • びいどろ: ポルトガル語でガラスを意味する「vidro」に由来する言葉。日本では古くから、息を吹き込んで膨らませる「宙吹き(ちゅうぶき)ガラス」のことを指す呼称として定着した。型を使わず、職人の息と重力で作られるため、丸みを帯びた柔らかなフォルムになるのが特徴。

  • 切子(きりこ): ガラスの表面にグラインダー(研磨機)を当てて、幾何学模様を削り出す「カットグラス技法」のこと。光の屈折を計算して深く削り込むことで、宝石のような圧倒的な煌めきを生み出す。

なぜ「切子」はあんなに高いのか?

ガラス、びいどろのグラスが数千円で手に入るのに対し、切子は数万円、時には十万円を超えるものも存在する。この圧倒的な価格差は、ひとえに「尋常ならざる手間と技術」から来ている。

  1. 「色被せ(いろきせ)ガラス」という特殊装甲 高級な切子は、透明なガラスの上に色ガラスを被せた二層構造の特殊な生地を土台にする。この生地を作るだけでも高度な技術が必要となる。

  2. 気の遠くなるような「削り」の時間 びいどろ(宙吹き)が、熱いうちに一気に形を作り上げる「短期決戦」であるのに対し、切子は冷え固まったガラスを、職人が手作業で少しずつ削っていく「長期の籠城戦」である。一つの模様を削り出すのに途方もない時間がかかるのだ。

  3. 失敗の許されない極限の緊張感 削る作業中に少しでも力が入りすぎれば、ガラスはパキッと割れてしまい、それまでの苦労が水泡に帰す。この極限の集中力と熟練の技に対する対価が、価格に反映されている。

【全国ガラス細工・産地一覧】光の猛将たち

基礎知識を得たところで、我が陣営に迎え入れたい全国の名だたるガラス陣容を見ていく。
(※価格帯は、日常使いの「グラス」を基準)

【第一の標的:光の将「津軽びいどろ」(青森県)】

冒頭でも語った通り、我がガラスの世界へ足を踏み入れるきっかけとなった「一目惚れ」の器。 青森の宙吹きガラスの技術から生まれ、桜、ねぶたの熱気、紅葉、雪といった「日本の四季」を色ガラスの粒で見事に表現しておる。まずはこの津軽びいどろの美しいグラスか小鉢を迎え入れ、日々の冷茶や副菜を盛り、我が本陣に「青森の光」を灯すことから始めたい。

しかし、この津軽びいどろについて調べていくうちに、我はある見事な兵法に行き当たった。津軽びいどろを実際に製造しているのは、青森県にある「北洋硝子」という工房である。元々は漁業用の浮き球を作っていた生粋の職人集団なのだが……実はこの工房、現在では日本を代表する総合ガラスメーカー「石塚硝子」のグループ企業(子会社)として躍動しているという。はるか遠く、雪深き青森の地で職人たちが一つひとつ息を吹き込んで作る伝統工芸の品が、なぜ我がたまたま立ち寄った雑貨屋の店先に並んでいたのか? その答えは、青森の職人たちが誇る「卓越した手技」を、全国に名を轟かせる大企業(石塚硝子)の「強大な流通網と企画力」がバックアップしているという、この完璧な連携陣形にあったのである。

【北と南の歴史兵器:小樽ガラスと琉球ガラス】

ガラス細工は、その土地の歴史を色濃く反映しているのが実に面白い。

◆ 小樽ガラス(北海道) かつて北の海を照らした「石油ランプ」や「浮き球」の技術を受け継ぐ器。ゆえに、どこかノスタルジックでロマンチックな温かみがあるのが特徴だ。冬の澄んだ空気を感じさせるような繊細なグラスに、キリッと冷やした水やアイスコーヒーを注いでみたい。

◆ 琉球ガラス(沖縄県) 戦後、物資不足のなかで「捨てられた空き瓶」を溶かして再利用したことから始まったという、極めてたくましい歴史を持つ猛将。気泡がたっぷり入った分厚い造形と、南国らしい原色の鮮やかさが魅力。

【至高の斬撃:江戸切子と薩摩切子】

ガラスの表面に切り込みを入れ、光の反射を操る「切子」の双璧。

◆ 江戸切子(東京都) 色ガラスに麻の葉や矢来といった和の幾何学模様が鋭く刻まれており、光を当てると宝石のように煌めく。冷茶を注ぐだけで一気に「大名気分」を味わえる極上のグラスである。

◆ 薩摩切子(鹿児島県) 薩摩藩の威信をかけたクリスタルガラス。色の層が厚く、カットの境目にグラデーションが生まれるのが最大の特徴。非常に高価ゆえ、今の我にとっては「いつか必ず落としたい難攻不落の城」のような存在である。

さいごに

ガラス細工は、ただそこにあるだけで光を集め、食卓に涼やかな風を吹き込んでくれる。 焼き物が「その土地の土」から生まれたのに対し、ガラスは「その土地の歴史(漁業、藩の事業、リサイクルなど)」から発展してきたものが多く、生い立ちが全く異なるのも実に興味深い。

いいなと思ったら応援しよう!