『これだけですよ』 〜アマノ文筆クラブ〜
企画に参加させていただきます🥰
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「こんばんは〜」
店のドアチャイムの音とともに聞こえた、独特な声。
ーーあ、『これだけ』さん、今日も来た。
「これだけですよ」
が口癖の是竹(これたけ)さん。
路地裏にひっそりと佇む、こんなお店にまで足を運んでくださる……大切なお客様。
今は、道路の建設工事のために、地方から出稼ぎに来ているらしい。
そのご来店に、菜々葉はつい反応してしまう。
はじめてテーブルに着いた日に。
『あなただけ教えてあげましょう。単身の私の支え!これだけです。これだけあればいい』
そう言って取り出したのはスマホ。
……確かにその通りだろうよと思ったのに。
待ち受け画面に映っていたのは『メダカ』。
出張中は、いつも連れ歩いているらしい。
……なんのこっちゃ。
せめて熱帯魚にしろよとか思ってしまった。
というか、連れてこれるヤツの写真を待ち受けにするなよ。
そこは家族じゃないのかいっ!
それから、なんか気になる是竹さん。
「今日はこれが最後。……あと、これだけですよ」
そう言ってタバコをくわえるから火をつけてあげたのに。
カバンの中から新しい箱のメビウスを出してくる。
……きっと、メビウスがマイセンの頃からそうやって吸っているのだろう。
時にウザッと思うけど……それでも、羽振りのいいお客様。
今日だって、ボトルキープして帰っていく。
「これだけですよ。私を裏切らないのは……」
そう言って、お会計の度に、決まってお財布の札の束をチラつかせてくる。
いろんな意味で、いろいろ気になるお客様。
でも……。
「このお店に来れるのも、あとこれだけです……」
初めて会った時にそう言っていたのに……未だになんだかんだお店に来てる。
彼の、親指と人差し指のすき間だけは、信用しちゃいけないらしい。
