第2章⑩ 吐き気を隠して守ってくれた時間
抗がん剤が始まると、副作用の吐き気や便秘に加えて脱毛も始まった。
お見舞いに行くたびにベッドにはたくさんの髪が落ちていた。
本人はあまり気にしていない様子だったけれど、私は勝手に
「きっとショックを受けているはずだ」
と思い込み、その姿を見るのが辛かった。
抗がん剤の投与期間が終わると休薬期間があり、吐き気止めを持参して週末だけ自宅へ帰ることが出来た。
久しぶりに家族3人で過ごす時間。
主人は本当に楽しそうだった。
普段はあまり多くを話す人ではないのに、その日はずっと私に話しかけてくれた。
娘のオムツも嬉しそうに替えてくれた。
夕飯の準備をしている時、ふとゴミ箱を見ると吐き気止めの薬の容器が捨ててあった。
気持ち悪さを我慢しながら、それでも私と娘と過ごす時間を大切にしてくれていたのだと思うと、目頭が熱くなった。
その日の夕飯は、主人が食べたいと言っていた焼肉をホットプレートで焼いて食べた。
あまり食べることはできなかったけれど、主人が美味しそうに頬張る姿を見られただけで嬉しかった。
お風呂も家族3人で入った。
夜は娘が生まれた日の話をしながら、娘の寝顔を二人で眺めた。
そして、川の字になって横になり、いつの間にか眠りについていた。
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