短編:『避けられないスケジュール』 #シロクマ文芸部
(約900字)
「鍋の具は、練り製品でいいんでしょうけど、かあさんは焼きそばを持って来いと言ってた。鍋に、焼きそばは無いだろう」
チータが鼻の下に鉛筆を挟んで、唇をとがらせキャンバスに向かっているが、空白部分は2時間経っても埋らないまま柔らかな紅い日が傾きかけている
部屋の中央に置かれた樫の木の椅子には逆向きに座り、腕組みをしながら眉をひそめて目を閉じた
「かあさんて、一組の子でしょ。あの人も呼ばれているのね、お鍋会に」
かあさんとは大学の後輩の女子で、まるで「母親」らしからぬ見た目なのに言うことが十代の発言ではないから「かあさん」とあだ名がつけられていた
「かあさんて人はね、インスタント焼きそばをお湯オンリーで作らない人なんだよ。野菜を炒めてから、熱湯を注いで、3分経ったらお湯こぼして、フライパンで野菜と麺を炒めてからダシ粉をかけて食べるの」
ー『インスタント焼きそば』の手軽さは何処へ行った?ー
口には出さずに静かに聞くのは、私の役目
毎日、ルームメイトのガリが、かあさんの変わり様を説明するので、一緒に暮らす人間の面倒くささを自分の身の上のごとく浴びてしまう
「鍋の中にインスタント焼きそばを入れたら、それはラーメンじゃないか?かあさんは焼きそばとラーメンの区別がつかんのか」
かあさんがお鍋会に来たら、どうにもややこしい事になりそうな予感がする。私はかあさんをお鍋会に呼ばない方法を提示した
「私が、かあさんを『かまぼこ作り』体験に招待しよう」
「へ?」
チータは鼻の下の鉛筆を落としそうになりながら、目を見開いた
「お鍋会と同じ日に、かあさんをかまぼこ作り体験に連れ出すの。そうしたら、焼きそばを鍋に入れる話は無くなるでしょ」
チータは鉛筆を指先でクルクルと回すと、左手の親指を立てて名案だと言わんばかりに目を細めて満足気に立ち上がろうとした
頭の後ろの方で、パタンと扉が開き、聞き覚えのある声がした
「あたしゃ、かまぼこ屋の娘なんよ。練り製品は、たんと有るから鍋の具は任せときな」
ギャルのネイルを指先に施したかあさんが、お鍋会の出席をキャンセルする理由が、パタンと見つからなくなった
お鍋会は止めようにも、長引くことは決定事項となった
おしまい
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「鍋の具は」から始まる
小説・詩歌・エッセイの企画です。
締切は11/26(水)23:59。
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