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【第33話】東名高速・浜名湖SA上りの100時間カレーは、うなぎを諦めた男の敗者復活戦だった

浜名湖SAに入った時点で、腹は減っていた。

減っていたというより、内臓が「何か寄越せ」と労働争議を始めていた。

朝から走って、荷物を積んで、降ろして、また走る。

人間ってのは不思議な生き物で、疲れると眠くなるくせに、腹も減る。

どっちかにしてほしい。

浜名湖の看板が見えた瞬間、今日はここで飯だなと思った。

本当は違う。

本当は、うなぎだった。

浜名湖といえばうなぎだ。

そしてこのSAには特上うなぎ丼4,500円という、なかなかの破壊力を持ったメニューがある。

4,500円。

高速道路で見る金額じゃない。

昔なら家族4人で回転寿司に行けた値段だ。

メニューを見ながら少し考えた。

3秒くらい。

そして静かに閉じた。

男には諦める勇気も必要だ。


大型車枠には今日もトラックが並んでいた。

白い車体、青い車体、泥だらけの車体。

みんなそれぞれ違う荷物を運んできたくせに、疲れた顔だけはだいたい同じだ。

エンジンを止めた後の静けさ。

遠くで鳴るバックブザー。

自販機のモーター音。

フードコートから流れてくる油と出汁の匂い。

それが夜の浜名湖SAをゆるく包んでいる。

窓際の席では若いカップルがうなぎ丼を食っていた。

たぶん旅行だ。

男は写真を撮り、女は笑っている。

いい景色だ。

こっちはカレーだ。

いや、別に負けたわけじゃない。

負けたわけじゃないんだけど、なんとなく財布の中身が現実を教えてくる。

人生はそういうもんだ。


選んだのは100時間カレーR&Bのカツのせ。

900円。

うなぎ丼の5分の1だ。

価格差がすごい。

同じフードコート内で階級社会が成立している。

運ばれてきたカレーは、いかにもカレーらしい顔をしていた。

黒っぽいルー。

揚げたてのカツ。

湯気。

余計な演出なし。

潔い。

ひと口食う。

甘い。

次に少し辛い。

最後にコクが残る。

なるほど。

100時間かけただけあって、ルーが妙にしつこい。

いい意味でだ。

疲れた体の隙間に入り込んでくる。

カツもちゃんと仕事をしている。

サクサクというよりザクザク。

疲労でボロボロになった頭の中を工事現場みたいに整地していく。

気が付けばスプーンが止まらない。

高級感はない。

特別感もない。

でもこういう飯が一番信用できる。

派手な営業トークをしないベテランドライバーみたいな飯だ。

黙って仕事をする。


食べ終わって外へ出る。

浜名湖の夜風が少しだけ涼しかった。

食う前は、あと何キロ走るんだとか、明日の予定がどうだとか、そんなことばかり考えていた。

人間は腹が減ると未来のことばかり気にする。

不安になる。

イライラする。

視野も狭くなる。

ところが飯を食うと急にどうでもよくなる。

不思議なもんだ。

問題は何も解決していない。

仕事も残っている。

家もまだ遠い。

なのに少しだけ平気になる。

カレーの力なのか、人間の単純さなのか分からない。

たぶん両方だ。

駐車場では大型車の灯りがぽつぽつ光っていた。

みんな明日になればまた走る。

文句を言いながら走る。

眠いだの暑いだの言いながら走る。

それでも腹が減れば飯を食う。

たぶん人生なんてその繰り返しだ。

特上うなぎ丼は食えなかった。

でもまあいい。

今日は100時間カレーで十分だった。

人間に戻るには、それくらいで足りた。

今回の一食

場所: 東名高速 上り 浜名湖SA
メニュー: 100時間カレーR&B カツのせ
価格: 900円(税込)

推しポイント: 特上うなぎ丼4,500円のプレッシャーを受けながらも、しっかり満足させてくる実力派カレー。派手さはないが、疲れた体にはちょうどいい。

景色: 大型車の列、浜名湖の夜風、観光客の笑い声。旅の途中と仕事の途中が交差する場所。

雰囲気: キラキラした観光地の顔と、くたびれたドライバーの現実が同じフードコートで共存している。不思議と居心地がいい。

評価:

満腹度   ★★★★☆
コスパ   ★★★★★
疲労回復度 ★★★★☆
白飯強奪度 ★★★★☆
また食いたい度 ★★★★☆
うなぎ誘惑耐性 ★☆☆☆☆

注意点: 特上うなぎ丼の写真と値段を見てから注文すると、自分の経済観念と軽く会議が始まる。

ひとこと: 4,500円のうなぎに憧れ、900円のカレーに救われた夜。高速道路の飯なんて、だいたいそんなもんだ。

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