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【第83話】名神高速 養老SA上り 人間は判断を間違えるが、養老スタミナラーメンセットは裏切らない。

夜のサービスエリアには、川の匂いがする日がある。

もちろん川なんか見えない。

見えるのは大型トラックの列と、照明に白く浮いたアスファルトだけだ。

それでも湿った風が山を越えてきて、ディーゼルの熱と混ざると、水辺の夜みたいな空気になる。

養老サービスエリアの夜は、そんな勘違いを平気でさせる。

大型車枠には長距離屋が静かに並んでいる。

エンジンを止めた車。

まだアイドリングを続ける車。

カーテンが閉まった運転席。

青白いスマホの灯りだけが揺れているキャビン。

誰もしゃべらない。

なのに、人の気配だけは濃い。

サービスエリアって場所は不思議だ。

何百人もいるのに、誰も他人の人生へ踏み込まない。

だけど、勝手に想像はしてしまう。

それくらいは許される気がする。

フードコートへ向かう。

自動ドアが開くたび、ラーメンの湯気と揚げ物の油が夜風に押し出されてくる。

腹が鳴る。

こういう腹の鳴り方は嫌いじゃない。

生き物としてまだ壊れていない証拠だからだ。

店内はほどよく賑わっていた。

テレビを見ながら唐揚げを頬張る若い兄ちゃん。

缶ビールを一本だけ飲み、新聞を広げる初老の男。

夫婦らしい二人が、ソフトクリームを半分ずつ食べて笑っている。

その笑い声は大きくない。

夜だからだろう。

夜は人を少しだけ優しくする。

窓際には、作業着の男がひとり座っていた。

テーブルには食べ終わった丼。

スマホは伏せたまま。

外のトラックだけを見ている。

家へ帰る途中なのか。

帰りたくない理由でもあるのか。

そんなことは分からない。

でも、人は何もしていない時間ほど、その人らしく見える。

俺は勝手にそう思っている。

注文したのは養老スタミナラーメンセット。

名前からして遠慮がない。

「今日は疲れてるだろ」

「黙って食え」

そんな顔をしている。

湯気が立つ。

ニンニクの香りが鼻へ飛び込んでくる。

いきなり距離感がおかしい。

初対面で肩を組んでくる酔っぱらいみたいなラーメンだ。

嫌いじゃない。

スープをすする。

醤油のコクの奥から、ニンニクと旨味が一気に押し寄せる。

胃袋が目を覚ます。

いや。

胃袋だけじゃない。

今日一日、どこかで止まっていた体の歯車が、ガチャンと音を立てて回り始める。

麺をすする。

白飯をかき込む。

またスープ。

こういう食べ方は行儀が悪いと言われる。

知ったことか。

疲れた体に礼儀なんか説いても腹は膨れない。

うまい飯ってのは、味より先に体が反応する。

頭じゃない。

胃袋が「助かった」と言う。

それで十分だ。

食べながら、昼間のことを思い出した。

あの判断で良かったのか。

あの段取りは正しかったのか。

もっと違うやり方があったんじゃないか。

仕事をしていると、そんなことばかり考える。

人間は判断したあとも、判断を食い続ける生き物だ。

しつこい。

ほんとにしつこい。

終わったことを何度も噛み直している。

牛じゃあるまいし。

でも、ラーメンをすすっているうちに、そんな考えが少しずつ湯気と一緒に消えていった。

腹が減っている時の悩みは、大抵まともじゃない。

空腹は世界を必要以上に難しく見せる。

満腹は、その逆だ。

世界を少しだけ単純に戻してくれる。

食べ終えて外へ出る。

風がさっきより涼しい。

大型車枠では、また一台エンジンが止まる。

静かになる。

少しして。

どこかでエアブレーキが鳴る。

プシューッ。

夜は、それだけで十分だった。

人生なんて、たぶん判断の連続だ。

正しかったかどうかなんて、最後まで分からない。

だったら今日は、ラーメンを選んだ自分くらい信用してやろう。

それで明日も走れる。

そのくらいが、人間にはちょうどいい。

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今回の一食

場所:名神高速道路 養老サービスエリア上り
メニュー:養老スタミナラーメンセット
価格:1,300円(税込)

推しポイント:
疲れ切った夜に、理屈を飛び越えて体へ届く一杯。ニンニクの香りが眠気を追い払い、白飯が「もう少し頑張れ」と無言で肩を叩いてくる。

景色:
大型車枠には長距離トラックが整列し、キャビンのカーテンがひとつ、またひとつ閉じていく。白い照明がアスファルトを照らし、エアブレーキの音だけが夜の合図になる。

雰囲気:
旅人も運転手も、それぞれ違う一日を終えに集まる場所。誰も他人を知らない。でも、同じ湯気の中で少しだけ仲間になる。

注意点:
ニンニクの存在感が遠慮なし。食後に人と近距離で話す予定があるなら、相手にもスタミナを分ける覚悟が必要。

満腹感:★★★★★
スタミナ補給力:★★★★★
白飯消滅力:★★★★★
夜の安心感:★★★★★
明日も走れる度:★★★★★

ひとこと:
人間は悩みながら走る。でも腹だけは、正直者だ。

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