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チャクラ物語 第四章  緑のしるしと、ハートの花園

黄色い太陽の丘をあとにして、
プレマはうにちゃんといくらちゃんと一緒に、
森の奥へ歩いていきます。

足元には赤いリボン、
ランタンには橙のチャーム、
腰には黄色い小さな太陽のしるし。

歩くたびに、それぞれのしるしが静かに光ります。

赤はプレマの足を支えてくれる。
ここにいていいよ。

橙はランタンの灯りをやわらかくする。
感じていいよ。よろこんでいいよ。

黄色は、おへその奥でぽかぽか光る。
あなたには力があるよ。

プレマは胸に手をあてて、
「次は……どんな光かな」 そうつぶやいたとき、
森の向こうからふわりと風が吹きました。

今までの風とは少し違う、
冷たさも強さもない風。
まるで誰かがそっと背中をなでてくれるような、やさしい風でした。

風の中には花の香りが混じっています。
すみれ、若葉、雨上がりの土、そしてほんの少しだけ懐かしい匂い。

「いい匂い……」 プレマが目を閉じると、
胸の奥がふわっとゆるみます。

うにちゃんが、にゃ、と鳴きました。
いくらちゃんはカクッと曲がったしっぽを森の左奥へ向け、
その先には緑色の光が見えます。

黄色の太陽のような強さも、
橙の小川のように跳ねる光でもない、
静かでやわらかな光。
見ているだけで、胸の奥があたたかくなってきます。

三人が進んでいくと、森の木々がゆっくり開いていき、
そこには花園がありました。

夜の森の中なのに、その場所だけはまるで春の朝のよう。
緑の葉っぱが月明かりを受けてきらきら光り、
白い花、桃色の花、淡い緑の小さな花、
ハートの形をした葉っぱが揺れています。

花園の真ん中には、大きな大きな木。
ただ大きいだけじゃなくて、
近づくほどに、
プレマの心の中までそっと見つめられているような気がしてきます。

でも怖いまなざしじゃありません。
責めることも急かすこともなく、
ただ静かにやさしく、
ずっと前からプレマを知っていたようなまなざし。

木の幹にはハートの形をした小さな扉があって、
まわりには蔦がくるくる巻きつき、
小さな緑のランタンがいくつも灯っています。

プレマはその木の前で立ち止まり、

「ここ……なんだか胸がぎゅっとする」

うにちゃんはプレマの足元に座り、
いくらちゃんはしっぽの先でハートの扉をちょんと指します。

そのとき木の中から声が聞こえました。

「ようこそ。ハートの花園へ」

低くて深くて、あたたかい声。
その木の奥に、大きな妖精がいるみたいです。

姿ははっきり見えないけれど、プレマにはわかりました。
この木の妖精は、黙っていてもちゃんとわかってくれる。

言葉にできない気持ちも、
胸の奥で小さくなってしまった願いも見つけてくれて、
プレマが心の中に落としてしまった大切な言葉を、
大きな手でそっと拾いあげ、やさしく返してくれる。

「ここには、何のしるしがあるの?」

プレマがたずねると、木の妖精は葉っぱをゆっくり揺らしました。

「四つめのしるし。愛すること。受け取ること。
自分をゆるすことのしるしじゃ」

プレマは少しだけ黙ります。
愛することは、わかる気がしました。
誰かを大切に思うこと、
誰かのために何かをしてあげたいと思うこと、
誰かが悲しんでいたらそばにいたいと思うこと。

それはプレマにもわかる。
でも。

「受け取ること……?」

プレマの声が小さくなります。

木の妖精はやさしく言いました。

「そうじゃ。愛は、あげるだけでは流れない。
受け取ることで、まためぐるのじゃ」

その言葉を聞いて、プレマの胸の奥にちくんと小さな痛みが走ります。
誰かにやさしくすることはできる。
誰かを助けることもできる。
誰かのために頑張ることもできる。
でも誰かにやさしくされたとき、素直に受け取るのは少し苦手でした。

「大丈夫」 「平気だよ」 「私はあとでいいよ」
そんな言葉を、何度も言ってきた気がします。

本当は、
ありがとうって受け取ればよかったのに。

本当は、
うれしいって笑えばよかったのに。

プレマは胸に手をあてました。
そこは少しだけ固くなっています。

「私……受け取るの、下手かもしれない」

そう言うと、花園の花たちが静かに揺れました。

責めるでも笑うでもなく、
ただ「気づいたね」と言っているみたい。

木の妖精はゆっくりと枝をのばし、
その枝先には緑の光がひとつ灯っていました。
まるで言葉のしずくのよう。

「これは、あなたの中にあった言葉じゃよ」

木の妖精はそう言って、
その光をプレマの胸の前にそっと差し出します。

プレマが両手を出すと、
緑の光はふわりと手のひらに降り、
そこから聞こえてきたのはとても小さな声でした。

わたしも、愛されていい。

プレマの目に涙がにじみます。

「これ……私の言葉?」

木の妖精は、静かにうなずいたようでした。

「そうじゃ。誰かに言ってもらうのを待っていたようで、ほんとうはあなたの中にずっとあった言葉じゃ」

そのとき、うにちゃんがプレマの前に来て、
短くてちょっと太い鍵しっぽをぴんと立て、
プレマをじっと見上げます。
そして、ころんとお腹を見せました。

「うにちゃん?」
うにちゃんは、撫でて、と言うように前足を小さく動かします。
プレマは思わず笑いました。

「はいはい。撫でてほしいんやね」
プレマがそっとお腹を撫でると、
うにちゃんは目を細めてぐるぐる喉を鳴らし、
その音が花園の中にやさしく響きます。
ぐるぐる。ぐるぐる。

すると、いくらちゃんもやって来て、
プレマの膝にこつんと頭を寄せました。

いくらちゃんのしっぽはカクッと曲がったまま。
でも今は道しるべじゃなくて、
ハートの形に少しだけ近づいて見えます。

プレマは、いくらちゃんの頭も撫でました。
「ふたりとも、あったかいね」
うにちゃんといくらちゃんは何も言わず、
ただそばにいる。

それだけで、プレマの胸の奥が少しずつゆるんでいきました。

木の妖精が言いました。

「愛は、大きな言葉だけではない。そばにいること。撫でること。撫でられること。ありがとうを受け取ること。それも、愛じゃ」

プレマの涙が、ぽろりとこぼれます。
悲しい涙じゃなくて、
胸の奥にしまっていたものがゆっくりほどけていくような涙。

「私……愛されてもいいの?」

その言葉がこぼれると、
花園の緑のランタンがいっせいに灯りました。

ぽう。ぽう。ぽう。
大きな木のハートの扉が、
きい、と小さな音を立てて開き、
扉の中には緑色の光がありました。

葉っぱの形をした、小さな鍵。
その鍵の真ん中には、ハートの模様がありました。

プレマが両手を差し出すと、緑の鍵はふわりと浮かび、
プレマの胸元に近づいて、小さなハートのブローチに変わります。

ブローチは、プレマのケープの胸にそっと留まりました。
すると、胸の奥からあたたかい光が広がっていきます。

それは、誰かに何かをしてあげるためだけの光じゃなくて、
まず自分を包む光でした。

わたしは、愛していい。
わたしは、受け取っていい。
わたしは、わたしをゆるしていい。
プレマは胸に手をあてたまま、静かに息をします。

吸って。吐いて。
花の香りが体の中に入っていき
、胸の奥で緑の光がふんわり広がります。

「私の中にも、こんなにやさしい場所があったんやね」

木の妖精は、うれしそうに葉を揺らしました。

「そうじゃ。探しに来たと思っていたものは、いつもあなたの中で待っていたのじゃ」

プレマは、うにちゃんといくらちゃんを抱きしめます。
うにちゃんは少しだけ重たくて、あたたかくて。
いくらちゃんは、首元に顔をすり寄せてきました。

プレマは笑いました。
涙がこぼれたまま、笑いました。

その笑顔は、黄色い丘で見せた力強い笑顔とは少し違う、
やわらかくてやさしくて、
誰かを包みこむような笑顔でした。

花園の奥に、次の道が見えます。
そこには水色の光が流れていて、
小さな鈴の音のような、澄んだ声のような光。

プレマは胸のハートのブローチにそっと触れて、

「次は……声のしるしかな」

いくらちゃんのしっぽが、カクッと水色の道を指します。
うにちゃんはプレマの足元で、ゆっくり瞬きをしました。

プレマはランタンを持ち直します。
足元には赤いリボン、
ランタンには橙のチャーム、
腰には黄色い太陽、
胸には緑のハート。

ひとつずつ、プレマは自分の中の光を思い出していく。
三人はハートの花園をあとにしました。

緑のランタンが、やさしく、やさしく揺れています。
まるで、
プレマの胸の中で愛がまた流れ始めたことを祝っているみたいに。

幸せのしるしを、ひとつずつ思い出す旅。
プレマはもう、自分を大切にすることも愛のひとつなのだと知りました。

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