【小説】「GMNさんのSKB~小説編~」寄稿作品『GMNさんの借金返済配信~無限投げ銭編~』
本作は、2025年1月19日開催の新春けもケット11にて、サークル「MisSing」さんより頒布された同人誌「GMNさんのSKB~小説編~」に寄稿したものです。
性的な描写を含みます。
(ミスルノさんの告知ツイート)
https://x.com/misruno/status/1875120678015475841
GMNさんには俺も会いたい
— じむの朔 新春けもケA-07 (@Books0422) May 18, 2024
GMNさんがメン限配信を始めた。
頼むから嘘であってほしいと思った。
僕は丸一日迷って、詐欺みたいな額の会費を払って、その日の配信を待った。
GMNさんは僕の推しの配信者だ。仮想空間で本屋をやっていて、そこから毎週、小説や詩を紹介する配信をしている。字の読みも今と違ったような昔の小説に特に詳しくて、しかしそれだけじゃなく、古典からネットのアマチュア小説まで、どんな作家や作品でもいいところを見つけて褒める。GMNさんは配信では自分のことを「じーえむえぬ」と呼ぶけれど、僕は「じぇみに」だと思っている。何より僕が好きなのは彼女の声だった。
僕も密かに小説を書いていて、我ながらちょっとした自信もある。それでもまだGMNさんの番組に投稿したことはない。GMNさんが僕を初めて知るとき、それは誰にも無視できない、突然現れた大型新人としてであるべきだからだ。ネットが世界中の才能を繋げてしまう今では、それくらいでないと他を差し置いて覚えていてもらうことはできないと思う。そして、僕の実力を客観的に見つめるなら、今はまだその時ではないことも分かっていた。
来年には、バイト代が貯まる。それでVR機材を買って、仮想空間に行く。それまでに傑作を書く。僕の小説を投稿して名前を知ってもらったタイミングで、GMNさんに直接会いに行くのだ。
あまりにも遠大な、しかし一介の貧乏学生にはそれしかない、GMNさんとお近づきになるための計画だった。
そこに突然浴びせられた、メン限配信の告知だった。
会員登録だけでも大変だった。偽のボタンだらけの海外製の動画サイト。メン限配信というだけでも嫌な想像はいくらでもできたのに、やりすぎなくらいに怪しい手順の一つ一つが「覚悟を決めろ」と言っているに等しかった。普通の動画サイトではできない配信が、この先に待っているのは明らかだった。
なぜ?
GMNさんがそんなことをする理由が分からない。文学を語る時の口ぶりからして、分別のある大人のはずだ。小遣いや目立ちたさのために人の欲望に媚びるような人じゃない。お金に困っている様子も全然なかったし、もし困っていたとしても、GMNさんなら他にいくらでも働き口があるはずだと思う。
しかしGMNさんは、悪ふざけでこんなところを使ったりもしない。
果たしてGMNさんの配信枠はそこにあった。いつもと同じ番組名、いつもと同じ説明欄、ただし紹介する作品だけが空欄。それがかえって嫌な予感を煽った。
ベッドの上にうずくまって、枕にスマホを立てかけた。
邪魔が入らないように、通知を切った。
これからこの枠に、GMNさんが来る。
『――――』
それは、いつもと同じ、かすかなマイクのノイズから始まった。
枕に立てかけたスマホの画面に、青地に緑のロゴの「GMNの読書ラジオ」のタイトル画面が表示され、それが消えた。
整頓された仮想空間の本屋で、机に向かって座るGMNさん――
正確には、椅子に裸で縛られているGMNさんが映った。
まず、二階まであるような高い本棚たちを背にした、いつもと同じ本屋の一角が背景に映っている。カメラは机の上にあって、GMNさんを正面から映している。GMNさんは赤い眼鏡をかけて、前髪に羽ペンの形の髪飾りを差していて、紺色をした本屋の制服だけがない。
GMNさんは、狐の女の子だ。
身体中に長い金色の毛が生えていて、頭には大きな三角の耳がついている。鼻が少し突き出しているところに眼鏡を乗せるので、いつも眼鏡が少し下にずれて、それがほんわかした印象になって真面目なテーマの配信でも堅苦しくない。そして、古い時代や遠い土地の見知らぬ人々、多くはもうこの世にいない人々が残した言葉を追いかけるのに、人間ではない姿を選んだ人を案内人にするのはどこかふさわしいような気がしていた。
そのGMNさんが、金色の毛皮に革のベルトを何本も食い込ませて、両腕を肘掛けにくくりつけられて、脚を大きく開いたまま閉じられないように固定されて、いつものカウンターの椅子に縛りつけられている。
目を疑った。メン限といえばせいぜいきわどい台詞を囁いたりローアングルで身体を映したりするものだと思っていた。仮想空間でのこととはいえ、これでは犯行声明だ。自分でやっているならちょっと趣味が悪すぎるし、誰かに強要されているなら――
配信には四十人ほどの視聴者がいた。あれだけ怪しい会員登録だったのに、いつもの配信の倍はいる。戸惑いのざわめきが、コメント欄を高速で流れていく。
【!?】
【こ れ は ア カ ン】
【おしがま配信かな?】
その視聴者たちに向けて、縛られたままのGMNさんが話し始めた。
『――はい……みな……みなさん、あの、こんばんは……。一月二十五日、えと、火曜日、GMNさんの、読書、あの、読書ラジオのお時間です……。お相手は……ひぅっ……本を読むケモノの……GMN……です…………』
言葉にならないほどつっかえながらの、身体中の震えがアバター越しにありありと分かる、聞くに堪えない声だった。
誰かにやらされているのは明らかだった。そうだとするなら、僕はなおさら、この配信を最後まで見届けなければならない。黒幕の手掛かりを見つけ出して、然るべき手でGMNさんを助け出さなければならない。
ベッドの上に座り直して、次の言葉を待った。
『ぇー……あの、びっくりしましたよね、みなさん……。突然、メンバー、あの、限定配信とか……。あの、ですね、わたしは実は、この活動のために……お金を、借りていて……。他にも、勉強のためのお金とか、お店を開くためとかで……』
【うわぁ……お気の毒に】
【体で返せって?】
【全裸待機】
やはりそうか、と思う。その一方で、配信の投げ銭やメンバー会費ごときで借金がどうにかなるわけがない、と冷静に考えてもいる。配信で生計を立てている連中に比べれば、GMNさんの固定リスナーは決して多くはない。配信が盛り上がるタイプの活動コンセプトでもないし、投げ銭を見たことも一度もない。
この動画サイトにも会員登録の時にクレジットカードを登録してあるけれど、使う場面がこれからあるのだろうか?
その時僕は、どんな気分で投げ銭をすればいいのだろうか?
『それで……お金を返せなくなって、そしたら……! 配信で……身体で、返せばいいって……! ぁぁっ……ごめんなさい、本当に、なんて言ったらいいか……!』
『――はい、それくらいでいいですよ。リスナーの皆さん、そういうわけですからね。今日は今までの分まで、どんどん応援してあげてくださいね? じゃないと、今日だけで借金、返せないかもしれませんからね?』
ほとんど泣きそうなGMNさんの告白を遮るように、画面の外から馬鹿にしたような声がした。
するり、と――画面の端から、背の高い女が現れた。いや、僕はそれを女だとは思わない。浮ついたノイズ交じりの声、中身が男の配信者にありがちなエフェクトで高くした声。何の演出か、黒ずくめのドレスに黒い帽子をかぶっている。酷薄そうな細い眼鏡。
――誰だよ、そいつ――!?
決まっている。借金の取り立て役だ。わざわざ女のアバターを着て、金のために仮想世界にまで踏み込んできたのだ。僕たちの自由と癒しの場所だった仮想世界に。
【おねGMキタ――(゚∀゚)――!!】
【流れ変わったな】
【バ ー チ ャ ル 借 金 取 り】
『それじゃあじむのさん、今日はどんな配信か、皆さんにご説明して?』
何だよ「じむの」って!!
『ぁっ、はい、ごめんなさい……! あの、今日は……もうわかってると思いますけど……えっちな……配信……です……あぁ……。皆さんが、あの、投げ銭といっしょにコメントしてくれると、……その通りに……します……。何でも、リクエスト、してね……』
『ふふ、違いますよね? そんなふうに椅子に縛られてて、何ができるんです? じむのさんが「する」んじゃなくって、一方的に「される」んですよ。リスナーの皆さんの欲望、わがまま、私が皆さんの代わりにじむのさんに全部、ぶつけますからね。たくさんリクエストもらえるといいですね……』
『やぁぁぁ……あの……あの……ぁひゃぎぃぃっっ!!』
じむのって言うな。借金取りはGMNさんの耳の後ろからねちねちと囁きかけ、最後に念を押すように、あらわになっているGMNさんの胸の先端を、黒い手袋をした指一本でなぞり上げた。GMNさんは肩を激しく震わせて、嚙み殺したような悲鳴を上げた。
ぞわりとした胸の感触が、こちらにも感じられるようだった。
それでも思う。こういう配信であまり投げ銭が集まるとは思えない。GMNさんのリスナーは大体が本を読んで考えるのが好きな、自分の欲望から距離を取って見ている奴らで、GMNさんの気持ちも考えずにリクエストをぶつけるようなことはまず――
その時、画面の下のコメント欄に突然、どぎついピンク色が踊った。
【おもちゃ責めキボンヌ ¥5,000】
『ひっ……!』
『――あっ、さっそく頂きました。シロアリNさん、リクエストありがとうございます。リスナーさんもじむのさんの借金返済に協力してくれるみたいですよ。よかったですね――』
――――!!
お前、何様のつもりで――!!
瞬間的に、借金取りよりも投げ銭をしたリスナーに激烈な怒りが向いた。GMNさんの配信に来ておいて何要求してるんだバカ、お前なんかGMN勢の恥晒しだ、時代遅れの掲示板言葉しか使えないくせに、文学に興味あるふりして結局下半身で物考えてる偽善者が――!
エロ配信を見に来ているだけなら、僕も同じだ。でも僕はお前らとは違う。僕は成り行きを見届けていざとなれば通報でも何でもするために、GMNさんを助ける方法を探すために、GMNさんの辛さを無駄にしないためにここに来ているのだ。
『ええ、もちろんおもちゃも用意していますよ。振動するのも、中で動くのも、回転するのも、何でもありますからね。じゃあ、振動するのからいきましょうか? リスナーさんの命令には逆らえませんものね。最初からきついのしてもらえるなんて、いいリスナーさんを持ちましたね?』
『ちがう……ちがいます……! 皆さん私のために……!』
『ふふふ、そうですよね。じむのさんのためのリクエストなんですから、期待に応えないとね。ほら、スイッチ、入れますよ? じむのさんの大事なところ、どれくらい乱暴にされるのか、まともに物を考えられるうちにしっかり見ておいてくださいね。せーの、ぽちっ――』
直後、僕のスマホに着信があったのかと思うほど激しいバイブレーション音が配信に割り込んだ。借金取りの手にある電動マッサージ機の立てる音、なのか? 音が大きいだけでなく、重い。僕は実物を見たことがないけれど、マッサージに使うには明らかに過剰な、人の肉体に強すぎる刺激を与えることしか考えていない、害意のある音だった。
仮想空間だからって、いちいちGMNさんを怖がらせるような演出……!
『ぁ……ぁゎ……! うそ……!』
GMNさんの声が、振動音にかき消されるほどに引きつって震えた。
『ええ、そうですよ。これが今から、じむのさんのあそこを潰します。絶対に逃げられませんからね。あそこだけじゃなくて、骨盤の中身ぜんぶを撹拌されて、背骨をあっという間に伝わって、こ・こ……まで、一瞬でぐちゃぐちゃに壊されちゃう……そんな振動だと思いませんか?』
『や、やだ……! やめてください……!』
『リスナーさんたち、他にリクエストないですか? なければこのまま、電マ、じむのさんに、当てますよ? ほら、ちょっとずつ……』
『お願いですっそれやだ怖いっ、止めて止めて止めて、皆さん本当にお願いですからっ、』
【このGMNは新鮮】
【もうこのまま行っちゃった方が楽なんじゃないかな】
【助かる代 ¥1,000】
『ちょっとずつ……震電ブルグさん助かる代ありがとうございます……ちょっとずつ……』
『そんなっ本当にないんですか!? 本当に怖いんですっ! 私本当に逃げれなくて! 止めてくれないとこれ本当に無理なやつなのに!!』
おかしなことがある。GMNさんは仮想空間から配信している。ということは、僕たちの画面に映っているのはアバターで、現実のGMNさんの身体の動きとはずれがあるはずだ。さらに言えば、GMNさんが縛られている椅子や借金取りの持っているおもちゃも仮想空間の中のモデルで、現実にはない。GMNさんがあまりに必死に嫌がるから、そのことを忘れていた。
ひょっとすると、そうではないのではないか?
GMNさんは朗読はするけれど、こういう演技を続けられる人じゃない。しかし、もし演技じゃないとしたら? 本当にGMNさんには自分の太腿の間を進んでくるマッサージ器が見えていて、本当にそれから逃げられなくて、
本当に、借金取りが家に来ているのか?
『ちょっとずつ……ちょっとずつ……』
『皆さん!! ごめんなさい!! これ無理です!! おもちゃは無理ですっ他のことなら何でもしますからリクエストください!!』
怒りがごろりと借金取りに向き直り、すぐにそれが猛烈な焦りに変わる。止めなければ、画面の向こうのGMNさんに何とかして手を伸ばさなければ! そのために今の僕にできることはなんだ!?
『ちょっとずつ、ちょっとずつ、ちょっとずつちょっとずつちょっとずつ……』
『だめええええぇ――っっ!! やめでやめでやめでやめでぇ――――っっっ!!』
激しく振動する機械が、GMNさんの股間に押しつけられる――
寸前で、借金取りの手を止めていた。
【ストップ ¥2,000】
『あらあら、朔次郎さん、ストップありがとうございます。はい、ストップしましたよ。じむのさんの気持ち、リスナーさんに伝わってたんですね?』
間に合った。回線のタイムラグを挟んでなお、僕のコメントはGMNさんに届いていた。よかった。GMNさんの本気の訴えを受け取って、ちゃんと意味のある形で返す。僕にしかできないことだ。配信に投げ銭というものをするのは初めてだったけど、うまくいった。
『は――っ!! は――っ!! は――っ!! は――っ!!』
GMNさんはアバターでも分かるくらい全身の力を弛緩させて、大きく口を開けて荒い息をついている。これで時間は稼いだ。次の投げ銭コメントが肝心だ。借金取りに怪しまれないような、それでいてGMNさんの現実側の状況が分かるようなリクエスト。たぶん大丈夫だ、僕は今までのGMNさんの配信を全部見ているから、ほんの些細な情報でもきっと、
【安心させといて思いっきり押し当てる、任せろ ¥10,000】
――ぐぢゅんっっ!!
『――――っっっ!?!!!? お゙ひっヤ゙ぁあ゙あ゙あ゙あ゙――――――ッッッッ!!!!!!』
【ナ イ ス 連 携】
【これは策士の朔次郎】
【お約束ですね】
『はい、思いっきり押し当てました。シロアリNさん、投げ銭ありがとうございます。次のリクエストがあるまで、このままにしますね』
僕は――、
僕は、負けたのか?
この世の悪意と愚かしさに。
僕だけなのか? 本気でGMNさんを助けようとしている奴は。数と金の力で負けていれば、どんなに切実な思いも馬鹿どものおもちゃにされておしまいなのか?
『あ゙――――!! あ゙――――!! どめ゙っ゙、お゙ッア゙ッどめ゙でえェェェ――――っっッ!!!!』
金属がガチャガチャとぶつかる音がする。もう疑う余地はない、GMNさんは本当に椅子に縛られている。たぶん手錠か何かが音を立てている。GMNさんは自由にならない身体をよじりながら叫び続けている。あれでは気持ちいいどころじゃない。そう思いたい。
【すご…】
【連続絶頂配信になるんかな】
【電マ当てたまま乳首責めできる? ¥5,000】
そう思わなければ、僕自身が彼女を助ける意志を保てない。
『カステラフォーマーさん、投げ銭ありがとうございます。ふふ、できますよ? おもちゃはここに固定して……じゃあ、じむのさん。乳首、やっちゃっていきましょうね……』
ちょん――
『ふっァひゃぁんッッ!?!? やッや゙だっんぐっううう――っっ!! それ゙っだめっ、い゙やはあぅっ、やぁっあっあっあはぁぁっんっっ!!!!』
奇妙なことが起こった。借金取りが後ろからGMNさんの両胸のあたり、革のベルトに押さえつけられていない毛並みの中に両手の指を差し入れた瞬間、GMNさんの悲鳴の声音が変わった。それまで身体を突き抜けてくる衝撃を声にして逃がそうとしているかのようにめちゃくちゃに叫んでいたのが、どこか内にこもるような、息のかすれるような、何かを押し殺そうとするような、聞いているこちらのみぞおちの奥をざわつかせるような声が突然混じり始めた。奇妙といえば僕がそれを聞き分けられたことも奇妙だ。GMNさんの悲鳴なんてこれまで聞いたことがないし、ましてや悲鳴と悲鳴を聞き分けるなんて。それなのに、僕には最初の一声で、GMNさんの感じ方が変わったのが分かったのだ。その声が、悲鳴でなくなりつつあることも同時に。他のリスナーどもにも、間違いなく。
【敏感すぎでは?】
【流れ変わったな】
【口では嫌がってても代 ¥1,000】
『ぱやぱやぽんさん、体は正直代ありがとうございます。そうですね、やだって言ってても、所詮はこんなものなんだと思いますよ、じむのさんも。身体、気持ちいいんですもんね? どんなに本を読んで賢くなっても、お胸くにくにされたらおしまい。リスナーさんもそっちの方がいいんですって。よかったですね、最後に分からせてもらえて…』
『ぢがう、ぢがいま゙すっふっくぅぅっ!!! これいやなの゙っ、きも゙ちわるい゙っっ、』
くりっ……くりゅくりゅくりゅくりゅくりゅ……
『あ゙っふうううっッッ!! やはあッ、そっそれ゙っぁひっんぁぁあ!!!』
すりっ……すりっ……
ぎゅううううう――――――っ……
『にゃぎぃぃぃぁぁ゙ぁ゙ぁ――――――!!!! ひっあ゙……ぃあぁっ!! や゙め゙っ、や゙め゙へえ゙え゙え゙ぇ――んっっっ!!!!』
『ほらほら、あんまり乳首に浸ってばかりだと、おまんこの電マが……』
ぐっ……ぐじぐじぐぢゅぢゅぢゅぢゅぢゅっ!!
すりっすりっすりっすりっすりっ……
『あ゙っひィいいい゙い゙んんっ!!!! んあっはああぁあ――ッッ!! それ゙ら゙め゙え゙ぁあぇぇ――――ッ!!!!』
GMNさんが壊されていく。僕たちリスナーと共有していた時間、配信の穏やかな空気、密かに大切にしていた本好きの誇りも、一緒に。僕はそれを前にして何もできない。さっきの失敗で、頭が悔しさで埋め尽くされて、怒りを意味のある行動に変えることができない。それでも、何か、何かをしなければ、GMNさんが取り返しのつかないことになってしまう。僕が、それに手を貸してしまう。
【アナルもお忘れなく ¥10,000】
『シロアリNさんありがとうございます。お尻もいっちゃいましょうか。電マと乳首責めは続けたままで、これなんてどうです? いっぱい大声出して身体もほぐれたでしょうから、頑張れば入りますよ、じむのさん?』
止めなければ。しかし止めても他のリスナーに邪魔される。
『あっへぁぁあッッ!!?? それ゙ッだめ゙っだめ゙っ!?!!!! む゙り゙!! む゙り゙い゙い゙!!!! む゙り゙ですはい゙ら゙ないはいら゙な゙いはいら゙っあいっ!??? あ゙へっ……ぉぁっはぁぁんぁぁ…………??!?』
考えなければ。しかし考えている間にもGMNさんが破壊されていく。
『はい、入った。じむのさんの嘘つき。入らないって言ってたのに入ったんですから、他の、絶っっっ対無理に決まってて一発で死んじゃいそうなことにも、どうせ耐えられるんですよね?』
【祝 後ろの口貫通 ¥10,000】
考えろ――早く考えろ考えろ考えろ早く早く早く!!
僕に思いつく限りの手を、焦った想像力の及ぶ限りで検証した。借金取りはどういうわけか、リスナーの要望を叶えることに相当なこだわりがある。異様に用意がいいし、おもちゃを固定している方法も分からないほど手際がいい。だから、きっとかなり無茶なリクエストでも金額次第では応える。僕がGMNさんにどう思われようと、この状況からGMNさんを助け出すことだけを考えるなら、勝機はまだあるのかもしれない。
覚悟を、決めた。
勝負だ、借金取り。
勝負だ、リスナーども。
【リアル側映像見せて ¥10,000】
『朔次郎さんから、リアル映像リクエスト頂きました。じゃあ、リアル側のカメラに切り替えますね』
『ゔっあ゙っ!?!?!? だめ゙、だめ゙だめ゙だめ゙だめ゙だめ゙え゙え゙え゙ええっっっ!!!!!!』
『――はい、リアル側はこうなっていました。すごいでしょう?』
【こいつ…やりおった…】
【サービス過剰ですよ姉さん!】
【えっ……待って俺たちは何を見てるの……?】
『い゙や゙だあ゙あ゙ああ――――――っっっ!!!! み゙な゙い゙でえ゙え゙エ゙アッオ゙ンッ!?!! ふャア゙ア゙ア゙――ッッ!!!!』
借金取りは動じなかった。いいだろう。身元に繋がる情報はないだろうとあちらが高をくくっていても、僕が見れば何かが分かるかもしれない。僕はGMNさんも借金取りももはや見てはおらず、その背景やカメラのピントの合い方、二人の声の他に入ってくるかもしれない環境音に全神経を集中する。
例えば、電動マッサージ器の振動音。
コンセントに繋がっている。その音を録音して簡単な音声分析ソフトにかければ、電源の周波数から関東か関西かが分かる。
そもそも、これだけ大声を出しても誰も来ないとなれば、建物の構造や立地も限られる。
それ以上の情報を、GMNさん自身に引き出してもらうこともできる。
【電流責めやって ¥10,000】
『朔次郎さん、電流責めリクエストありがとうございます。場所は……あそこと乳首でいいですか? じむのさん、電極、つけますよ? 電気、流しますよ?』
GMNさんの両乳首と左右の大陰唇が、金属製の大きなクリップでつねり上げられた。クリップの根元からは電線が出て、ダイヤルのついた金属の箱に繋がっている。借金取りはダイヤルに手をかけた。
『ギひイィィッッ!!!? な゙、な゙に゙……ァガギャアアアアアアア――――――ッッッッ!!!!!!』
耳を覆いたくなるような絶叫。GMNさんの身体は今までの抵抗に倍する勢いで暴れ、縛られている椅子をガタガタと揺さぶる。これならどうだ。近隣住民が来るのか、来ないのか。床が厚いのか、安普請なのか。
リスナーどもは誰も僕についてこれない。それでも、万が一にも余計なリクエストを挟ませないために、自分から投げ銭を追加する。
【指でクリ責めできる? ¥10,000】
『朔次郎さん、クリ責め代ありがとうございます。じむのさんのあそこ、電マ当てられて電気流されてクリトリスいじられて、大忙しですね?』
電気の流れるクリップのついたGMNさんの女陰に、借金取りは躊躇いなく指を差し入れた。敵ながらさる者。しかしこれで、借金取りの動作を制限できるはずだ。
『ギャアンッッ!!!! アオ゙ッ!! ヒィィウアアアア――――ッッッ!!!! ドメ゙ッエ゙ッドメデエエエェェェ――――――ッッ!!!!』
GMNさんの悲鳴がどんどん大きくなる。人間離れした、まさにひどく傷を負った動物ののたうつような叫び。現実感がなくなってくる。もう少し、もう少しだけ耐えてほしい。僕はGMNさんの配信環境をおぼろげに把握しつつある。自分でもこれほど頭が回るとは思っていなかった。あの借金取りはやり過ぎた。もう少しで警察に通報するのに十分な情報が集まる。それまで、せめて気を確かに持って。
『じむのさん、まだまだいけますよね? もっともっときっついリクエスト、来ても大丈夫ですよね?』
だから、僕はGMNさんを励ますために、追加の投げ銭をした。
【じむのじゃないだろ、GMNって呼べよ ¥10,000】
『エ゙…………』
GMNさんの絶叫が、途切れた。
『聞こえませんでしたか? 朔次郎さんから、じむのじゃなくてGMNって呼べ、ですって。リスナーさんのお願いですから、そうさせてもらいますね。じー、えむ、えぬ、さん?』
『ゥあ゙……あ……な゙ん゙で……』
『さあ、なんででしょうね? リスナーさんは、「GMN」がいいんですって。画面の向こうから好き勝手言える、キャラクターのあなたがいいんですって。その方が、気兼ねなくいたぶって遊べるんですって。だから、ほら、じーえむえぬさん? 全部諦めて、気持ちよくなってください?』
……ぐりぐりぐぢゅぐぢゅぐぢゅぐぢゅっ!!
かりっ……かりかりかりかりかりっ!!
ぐにゅううぅ~~……ぢゅっぽんっっ!!
ばりばりっっ!! ばぢばぢばぢばぢばぢっっ!!
こりこりっ……ざりゅざりゅりゅこりこりこりっっ!!
『――わ゙ア゙あ゙あ゙あ゙ァァ――――――ッッッッ💢💢☆☆!!!!!! あ゙あ゙あ――――ッ💢!!!! もうや゙ぁ、も゙ういやああ゙あ゙ぁ゙ぁぁぁ☆あ゙ぁ――――アふっぐっ、やはぁンあ゙っあ゙っあ゙っあ゙っあ゙っあ゙っあ゙―――――――ッッッッ☆💢💢♥♥♥!!!!!!』
GMNさんの頭が激しく左右に振られたかと思うと、椅子の背もたれを越えてのけぞり、首から足のつま先まで全身が石のように硬直して、直後、甲高い咆哮が途切れると同時に身体中の筋肉が弛緩して椅子の上にくずおれた。眼鏡が落ちた。
何かが――
GMNさんの何かが、壊れた。
――何が、起こったんだ?
その時には既に、僕は何が起こったかを正確に察していた。ただ理性がそれを認めるのを拒んでいた。GMNさんのもう力の入らない股の肉の間から黄色い液体が溢れてきて、それにも構わず借金取りの電マが押し当て直され、GMNさんを叩き起こしてその喉から嬌声を絞り出した。
――僕の、せいなのか?
どこで間違えた? GMNって呼んだことか? だって、自分でGMNって言ってたじゃないか。本当は名前で呼んでほしかったのか? そんなの分かるはずがない。しかも、「じむの」だって? 絶対「じぇみに」だと思っていたのに。僕が間違っていたっていうのか? あんなにGMNさんの配信を見て、あんなにGMNさんのことを考えていたのに、GMNさんのことを一つも分かっていなかった――そういうことなのか?
【画面越しの一言でイかせられるとかナニモンだよ……】
【こ れ は 策 士 の 朔 次 郎】
【祝 鬱イキ ¥10,000】
『――もちろん、イって終わりじゃないですからね。リスナーさんたちが全部欲望をぶつけ尽くして、もうじーえむえぬさんはいいやってなるまで続けますからね。さあ、どんどんリクエストをください?』
もういい。
もういいや。
GMNさんのことなんか、もう考えてもしょうがない。僕では駄目だったんだ。何がGMNさんの幸せなのか、そんなことさえ、どうせあの借金取りほどにも分からないんだ。もう助けようとしたって無駄だ。GMNさんは僕が壊した。
それなら、いっそとことんまで壊してやる。
しょうがないじゃないか。それしかないんだから。
これが、GMNさんとのお別れだ。
一瞬、コメント欄が止まって見えた。そこに、僕の真っ赤な一万円が叩きつけられた。
【えっちなお薬打って ¥10,000】
『朔次郎さんから、えっちなお薬のリクエスト頂きました。ありますよ、とっておきのが。これを注射すると、身体中の皮膚が裏返ったみたいに敏感になって、じーえむえぬさんの全身をいじめてるおもちゃが今の何十倍も気持ちよくなりますからね。せーの、ちくっ……ちゅ――っ…………』
『ぅ……いだっ!?!? やっ…………ぁぴっ♥、あんっあ゙っふぁっあっあぁぁあぁ゙ぁ゙――――んっっっ♥♥♥💢💢☆!!!!?? これっ、これら゚めぇぇっ♥♥、やはぁんああぅあぁ――――っっ☆💢☆♥♥💢!!!!!! は――ッ!! はゃあ―――ッッ♥♥!!!!』
【おなかの上からポルチオ責めして ¥10,000】
『朔次郎さんから、ポルチオ責めリクエスト頂きました。電マをもう一つお腹に当てて、ふふ、強めに押し当てましょうね。ぐ――ってして、スイッチ、オン――』
『んぅぉああふっに゙ゃあ゙あ゙ああッッッ💢💢💢💢!?!?!! ら゙め゙ら゙め゙ら゙め゙ら゙め゙ら゙め゙なのっぉぉおぉおおお――んッ!!!!(がくがくがくがくがくッッッ💢💢💢) ……はひゅ――っ……ひゅ――っ……ひゅ――――ッんっぁぃひぃぃいいぃい――――――ッッッ💢💢♥♥♥☆☆☆☆!!!!!!』
【GMNさんよく見たら乳首たくさんあるじゃん 全部乳首責めして ¥10,000】
『朔次郎さん、副乳責めでいいですか? リクエスト頂きました。よく気付きましたね。そうですよ、毛皮に隠れてますけど、ほら。全部一度にこすり殺していきますね……』
『はっあ゚ひっぁぁああぁあぁああ♥♥💢♥♥💢💢♥💢!!???? それ゙っ、それ゙それ゙すごい゙っぁん゙んッすごずぎる゙ッッ♥♥💢💢♥♥♥、や゙っぁあああッッッ、や゙はぅあ゙あ゙ああ――――――ッッ☆☆♥♥♥☆♥♥!!!!』
【Gスポ責めして ¥10,000】
ネット口座のお金が飛ぶようになくなっていく。ずっとGMNさんに会いたくて、仮想空間に行くために貯めていたお金。もう意味がない。一瞬の快楽のために、一度の間違いのために、全部消えていく。自分でも止められない。止めたくない。何もかもめちゃくちゃになってしまえばいい。
【毛並み乱れてるじゃん、ブラシかけて ¥10,000】
【それは鬼畜すぎ、朔次郎やめろ ¥20,000】
【いいからブラシ責めして ¥50,000】
【ブラシに媚薬塗りこんどいて ¥30,000】
『ふふふふふ、すみませんけど、投げ銭の額で決めさせてもらいますね。朔次郎さんのリクエストで、じーえむえぬさんの全身を媚薬ブラシでごしごししちゃいます。かわいいもふもふなのがいけないんですよ。手は頭の後ろで固定し直しますね……。お薬で神経むき出しになった身体、大きなブラシを当てて……毛並みに沿って……いきますよ…………しゃ――――――っ…………』
『あ゙っっひぃああ゙ああああああ――――――ッッッ♥♥♥♥☆💢💢💢💢♥♥☆☆💢💢♥💢!!!?????!? あ゙ん゙っあ゙んっあ゙んっあっひゃいいぃいんッッッ☆♥☆♥☆♥♥♥💢♥♥!!!!!! や゙ら゙っも゙うじぬ゙っしん゙じゃぁはぁっんひィィ――――ッッ💢💢♥♥♥💢☆☆!!!!(がたがたがたっ💢!! がたんっ💢!!!! がたんがたんっっ💢💢!!!!)」
『ほら、暴れないの、じーえむえぬさん……』
【暴れないようにして ¥30,000】
『ふふ、そうですね、朔次郎さん。そうさせてもらいましょうか。もっと徹底的に、動けなくすればいいんですものね。快感を絶対どこにも逃がせないように……』
ガチンッ……ガチンッ……ガチンッ……ガチャガチャガチャッ……ガチンッ……
しゃ――っ……しゃ――っ…………しゃ――っ…………しゃ――――っ……
『あ゚――――――☆☆☆☆☆☆☆☆!!!!!! あ゚――――――💢💢💢💢💢💢💢💢💢💢!!!!!! あ゚――――――――♥♥♥♥♥♥♥♥♥!!!!!!!!』
GMNさんの声はもう人間の声に聞こえない。僕はこんな音を人生で一度も聞いたことがない。意思を伝えるための言葉ではなく、もはや激痛と同じになった快楽に肉体が勝手に反応して出る音。自分の運命を悟った、それでも本能のせいで悪あがきをさせられる、狂った獣の声。
いや――――、
今の僕こそ、獣だ。
【ブラシかけながらGMNさんとベロチューして ¥30,000】
『ふふ……朔次郎さん、いいんですか? じゃあ……』
『――――――――💢💢♥♥♥💢☆💢☆☆☆!!!!!!!!』
【ベロチューしたままローションガーゼでクリ磨いて ¥30,000】
『ふふ……んっ……ぁむ……!』
『――――――――♥♥♥♥♥💢💢💢💢💢💢💢!!!!!!!! ――――――――💢💢♥♥💢♥♥♥💢💢💢💢💢💢!!!!!!!! ――――――――💢💢💢💢💢★☆★☆★☆★★★★!!!!!!!!』
【全部の乳首に電極つけて電気流して ¥30,000】
『んむ……朔次郎ひゃん……ちゅ……ありひゃとうごひゃいます……』
『――――――――💢💢💢☆★☆💢♥♥★♥♥💢💢――――💢💢☆♥♥♥☆☆☆★☆♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥――――!!!!!!!!』
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配信が終わるまで、僕はバイトを休んだ。
僕のお金がなくなった後も、たくさんのリスナーがかわるがわる、投げ銭で彼女を犯した。
配信は終わった。
僕が最後に見た時、配信で集まった投げ銭の額は――二百七十二万と七千円弱、だった。
それが、GMNさんの人生についた値段だ。
そして――僕は今、仮想空間でラジオ番組をやっている。
念願のVRヘッドセットとゲーミングパソコン。少し値は張ったけれど、院卒の社会人の稼ぎからすれば大したものじゃない。あの頃学生の身で、あれほど必死になってお金を貯めていたのは何だったのだろうと思わなくもない。それでも、あの頃の僕にとっては確かに大切な夢だった。何年も経って、自立して真っ先にこの仮想世界にやってくるくらいには。
あの人のことが忘れられない。
この世界に、もうあの人はいない。あの配信のことは時間が経つごとに夢のようにおぼろげになっていって、ただ強烈な感情の残滓と、取り返しのつかないことをこの手でしてしまったという後悔だけがくっきりと焼きついている。それでも、誰が忘れてもきっと僕だけは、本の好きなあの人が、ここで配信をしていたことを知っている。あの人の記憶を世界に残すために、それから、僕自身の贖罪のために――僕は毎週、本屋のワールドで配信をする。
あの人が見ていた、配信のカメラの向こうに広がる本屋の景色。そこに並ぶ、アバターを着た仮想空間のリスナーたち。公開収録なのだ。小柄な少女、エルフ、獣人、黒衣の女――
(…………?)
見知らぬ顔、そこによぎったかすかな既視感をそのままにして――――
僕は、今日の配信を始める。
『こんばんは、四月四日のラジオのお時間です。お相手は仮想空間で言葉を追いかけるケモノ――』
――――ごめん、GMNさん。
〈以上〉
