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「PROJECT: SUMMER FLARE」初見感想

2023年5月20日(土)の深夜、VRChatにあるストーリー仕立ての謎解きワールド「PROJECT: SUMMER FLARE」に初めて行きました。本記事はその感想です。

一緒に参加した経験者のおうむどりさん曰く、「初めて夏を壊す人の反応からしか得られない栄養素がある」とのことでしたので、プレイ中に私が寡黙だった分の栄養をテキストで補償するものです。初プレイ後、他の記事などを何も見ず、記憶のみを頼りに書いています。よって、私の目に映っていなかった情報、公式資料、他の方の考察などと食い違う部分があったとしてもご容赦ください。また、このような趣旨から、PROJECT: SUMMER FLARE自体の紹介や説明は省きます。

今後、私の考察や解釈は更新される可能性がありますが、その場合は別記事として書き、この記事の記述は軽微な誤字・脱字を除いて変更しません。初めて夏を壊す人の反応からしか得られない栄養素を未来の世界に受け継ぐためです。


経緯

私はVRCデビュー直後のVRゴーグルの故障によりデスクトップだった時期が長く、2023年5月にようやくVRモードに復帰しました。VRになったらやりたいと思っていたことの一つがPROJECT: SUMMER FLAREです。ゴーグルが壊れる前にJPTで出会ってPROJECT: SUMMER FLAREのことを教えてくださった週末VRCゲーム部のサナエルさんにお願いし、一緒にプレイしていただけることになりました。他に呼びたい人がいれば呼んでもよいとのことでしたので、twitterで私のフレンドさんに声をかけて、小林くん(初見)とおうむどりさん(経験者)にもご参加いただきました。

参加環境

参加環境は以下の通りです。

(PC)
CPU: Intel Core i5-12400F
GPU: ZOTAC RTX3060
RAM: 16GB×2
電源: 650W

(VR機材)
HMD: VIVE ProにBOYA BY-M1マイクを固定
コントローラ: Valve Indexコントローラ
ベースステーション: Valve Indexベースステーション 2台
フルトラ: なし

(アバター)
VRoidで自作、VeryPoor、人型、高さ1.67m、Standモード、OVRなし

(本人)
Known User、VR歴24日、ワールド制作経験なし、VRイベント運営経験なし、自チャンネル配信経験なし、『イリヤの空、UFOの夏』狂信者


何人で行くべきか

いずれも初見の場合ですが、「夏を壊す」の方に興味があるなら一人で、「言葉を壊す」の方に興味があるなら複数人で行くのがいいと思います。

一人で行けばVR体験に翻弄されることができ、また自分の行動の重みのようなものを感じることができますが、謎解きとしてはかなり重労働になります。

初見だけで複数人で行けばいくつかのシーンが感慨深くなり、またクリア時には大きなことを達成した感覚を分かち合うことができますが、何を達成したのかがよく分からなくなると思います。

経験者の案内付きで行けば何はともあれクリアすることができ、シナリオで何が起こっているのかもある程度解説してもらえると思いますが、達成感は少なくなるかもしれません。この場合初見が複数人いた方が、接待のようになるのを防ぐ意味でよい気がします。

結局どういうことだったとチエカは解釈したのか(以降ネタバレあり)

未来(A.D.2141以降)、高度なVR/AR技術が全人類に普及し、脳神経インプラントで感覚を書き換えて日常を生きることが当たり前になった。この技術を一元的に管理する団体があり、技術自体と共にサテライトと呼ばれている。

物理現実の空間を五感の情報を含めてARで上書きする機能をオーバーライドと呼ぶ。また、人為的なサテライト操作で生まれたものではない、一部の性質がオーバーライド不能になっているオブジェクトを狂気(Lunatic)と呼ぶ。

物理現実の地球は氷河期に向かっているが、サテライトは狂気である「夏」を利用して人工的な夏を作り出し、物理現実の人間の肉体が凍死するまで日常を維持している。一方、Lunatic Control(LC)と呼ばれる団体は狂気を良しとせず、サテライトの発電施設を停止させることで「夏」を消去する作戦「サマーフレア作戦」を進めている。

施設のある区画にサテライト使用者が立ち入ると発狂するため、機械知性のLuPIは旧式のヘッドセットで遊んでいたプレイヤーをスカウトし、サテライトの発電施設に向かわせる。このプレイヤーをM8PRと称する。しかし、「夏」を維持しようとするサテライトの核攻撃を受けてM8PRプレイヤーは死亡し、狂気に耐性のある旧式ヘッドセットも失われる。

その後、老朽化したLuPIに代わり、月面の基地にいるLCの機械知性のFASは別のサテライト端末使用者の人間に過去のM8PRプレイヤーの記憶を体験させた上で、LuPIが残したパスコードを使って発電施設の停止までをシミュレーションさせ、その全手順を過去の時代(A.D.2021以前)に送らせる。過去の時代の人間はそれを当時のVR技術で見て、「BREAK THE SUMMER」のメッセージ、そしてその手段を知るであろう。


――以上が、私の初見での解釈です。私が記憶している内容から、可能な限り一貫した解釈を生成したものです。

分からないこと

決定論

A.D.2200年頃には、未来は決定論的であり並行可能世界は実在しないことになっているとFASは言っていますが、それなら過去を改変することもできないはずで、最後にメッセージを送る行為は何の効果を期待しているのでしょうか?

一つの可能性は、月面から送ったのは本当にただの花火で(モールスだったかどうかは覚えていません)、地球でそれを観測し、さらに後の時代に並行可能世界の不在の理論が覆されてから過去改変が行われたということでしょうか。

希望

また、同じく未来が決定論的であるなら、「夏」を消去することで人類が前に進めるというFASの主張は何を意味しているのでしょうか? これは、未来をよりよく変えることではなく、決定論的な未来を直視することが前に進むことだという意味にとれるかもしれませんが……

ミサイル

誰がなぜ核ミサイルを発射したのかは判然としないところです。ルナテニウムの封鎖を全て切断する侵入者を、尋常の兵器では対処できない脅威とみなしたサテライトによる判断、と私は考えていますが、「夏」という狂気自体に含まれる現象の可能性もあります。冷戦構造を背景に育まれた現代日本の「夏」概念は核ミサイルと密接な関係にあるからです。

インスタンス

核攻撃でM8PRがどうなったのかについてもあまり自信がありません。ミサイルが落ちるまで待つと全てのオブジェクトが消滅しますが、これによって彼らの物理肉体も死亡したのでしょうか、それとも物理肉体は別の場所にいて、別のインスタンスに移動できたのでしょうか? LuPIはM8PRに「せめて安らかに眠ってください」と言っていますから、何かは失われているのでしょうが、それが何かということについて私は整合的な解釈を見出せないでいます。

世界の終わりに僕らは

雑記

私は背が高く、小林くんは背が低いので、ギミック上私の方が動かすのに向いているところがいくつかありました。とはいえどうしても必要な時にはOVRを使えばいいと思います。

小林くん「この剣は……お姉ちゃんが持った方が似合うと思う……」
チエカ「……妹は、姉のおもちゃを奪うものと相場が決まっているんですけどね……」
おうむどり「身長より長い剣と言えば、『灼眼のシャナ』もそうだった気がする」

絶対に壊れない剣の話

また、私は普段ゆっくり考えながら人と喋ることが多いのですが、ゲームでは考える間もなく反射的にコミュニケーションをしなければならず、また操作に失敗することも多いので、人の性格や癖のまた別の一面が出ると感じました。恐ろしいところでもあり、面白いところでもあると思います。

薄幸な妹

このワールドの何が特筆すべき点か

私はまず、VR技術でユーザーインタラクティブな体験を作る、という点で評価したいと思います。そして、その目的に噛み合い、技術を存分に(本当に製作者にとって存分にかは分かりませんが)組み込めるシナリオを作れたという点も素晴らしいと思います。一つのワールド内で完結する演出・操作だけでなく、インスタンスを移動するというメタ操作もシナリオに組み入れている点は見事でした。

ただし、全くの斬新な発想があるとは感じません。VR/AR技術がもたらす階層的な現実感や、視覚・聴覚・触覚のオーバーライドなどは、90年代以前からのSF作品でも言及されていたもので、PROJECT: SUMMER FLAREの功績はそれらを技術と演出の力で実現する(実現できると実感させる)レベルまで漕ぎ着けたことにあると私は思います。

シナリオに考察の余地があることについては、プレイヤー間のコミュニケーションを誘発するものとして魅力的ではありますが、それ自体はPROJECT: SUMMER FLAREに特有のものではありません。ただし、VR/ARが「主観の技術」である以上、それを中心的なテーマに据えた作品がシナリオに「結局どういうことだったのか?」という謎を残すことは必然だと思います。主観を扱うことは「真相の不在」を扱うことと紙一重だからです。

私たちは何を壊したのか

SUMMER

VRChat界隈で「夏を壊す」と言えばこのワールドのことだと一意に定まり、また「壊す」というネガティブで不可逆性を孕むワードは現代日本人オタクの抱く「夏」の概念とあまりに相性がいいので何かを期待しそうになるのですが、このシナリオは何か「夏」のエモさを感じさせる趣旨のものではないと私は思いました。

最序盤は確かに典型的な(とは?)夏の海辺の風景で、また終盤でも一瞬「記憶の中の夏」らしき光景が現れるのですが、「夏」のエモさを感じさせるためならもっと「夏」に浸らせる演出を長く取ると思います。さらに決定的なのは「少女」概念がないことで、「夏」が内包する向日葵や麦茶などの諸々の概念を一点に収束させたもの――つまり、「夏」の擬人化――があの白いワンピースの麦わら帽子の少女の概念ですから、これがないことはそのまま、このシナリオにおける「夏」があくまで気候としての夏であってノスタルジー概念としての夏ではないことを意味しています。

ノスタルジー概念としての夏については、小説『S.U.N.F.L.O.W.E.R.』がまとめとして秀逸です(たぶん著者はSUMMER FLAREのことは知っているはず)[1]。

「夏」の話をもう少ししましょう。私たちは「夏」とつけるだけで芋づる式に向日葵や麦茶や縁側を連想し、またそれらの言葉に強力なノスタルジーを付与することができます。「夏」という言葉は文やタイトルのイメージを画一的に上書きしてしまう力を持っており、私はこの現象を「夏モジュール」と呼んでいます。モジュールというのは、この場合はパッケージやクラスやライブラリと言い換えてもいいのですが、何らかの機能を持った「まとまり」で、さらに中身のことをよく知らなくても機能を発揮させて使える、他のシステムに組み込める、というようなものを指す、建築やプログラミングの言葉です。

モジュール化されているということは、他のものとは機能的に区別できるということであり、つまり輪郭ないし境界を持つということであり、それが「使える」ということはインターフェースを持つということであり、人間と相互作用するためのインターフェースを持つということは擬人化できるということであり、擬人化するにあたって最大公約数的な様式は美少女です。従って、「夏」という言葉がある定まったイメージと機能を持っているなら、それは「夏」を擬人化した美少女のイメージがあるということと等価です。

TOWER

「夏を壊せ」に続いて「言葉を壊せ」という文言がこのワールドのキャッチコピーにあります。これについては、サテライトによって各ユーザーの話す言葉が自動的に翻訳されているところ、サテライトが機能しなくなる場所では言葉が通じなくなる、という意味に解釈しました。他のシーンでは、言葉というものの利点と限界を感じる場面は特になかったと思います。

ただ、LuPIやFASの言葉に頼って事態の真相を解き明かす試みに限界がある、XR技術で人と人との間の垣根が低くなったことで(恐らく共同幻想が強化されたものとして)狂気が生まれたらしい、という点は、言葉の限界を念頭に置いた設計だと思います。

LuPIはどのネットワークにも繋がっていない部屋からプレイヤーやFASに話しかけているらしく、もしそうなら「空間や媒体を越えてコミュニケーションをすること」を中核的性質とした狂気であると考えるのが自然です。電波が悪く狂気の影響を受けづらい場所でもLuPIが外部に話しかけることができるということは、人類にとってコミュニケーションがそれだけ根源的な欲求であり、言葉を壊しきることができないというメッセージになっているのかもしれません。

ちなみに、LuPIは最後に「人類わたしたち」という言葉を使っていますが、これを真面目にとるなら、LuPIは元々、ある人間の知性を機械に移したものか、人工知能が人類の一員として認められる時代に作られたものか、人間の思考を学習するうちに自分を人類と認識するようになったか、人間の「コミュニケーションをしたい」という願望が生み出した無形の狂気が機械に宿ったものか、のどれかでしょう。

避難誘導に言葉はいらない

私たちはどうすべきか

私たちはどうすべきでしょうか? リアリティに手を加える時代の戸口に立っている、2023年現在の私たちは?

私はオカルティストなので狂気の方面から考えるのですが、狂気が人間の願望から生じたものとFASが語っている通り、人間の集合的な意識は時に予期せぬものを生み、当の人間の制御を離れて独立した振る舞いを始めることがあります。現代までの人間の社会でも、「物語(ナラティブ)」はそのように振る舞っており、それはちょうどネットワークを介して感染するウイルスのようなものです[2]。繋がるなら、感染るのでしょう。

XR技術はそれを加速する可能性があります。感じている世界を書き換えること、ないはずのものをあるように見立てることに慣れた人間は、恐らく自分自身の無意識から湧いてくる制御困難な内容も「実体化」してしまうようになるでしょう。そして、イメージをより効率的に伝達する技術のおかげで、それは他の人にも広まり、強化されるはずです。

私は、それは大いなる可能性であり、人間は狂気とすら共存していけると思いますが……そのためにはまず、これまで手を加えられないと思われていたものに自分たちが今手を加えつつあるのだと自覚する必要があります。自己の物語化、性意識の揺らぎ、多重見当識――まとめて言えば「脳をバグらせていくこと」――そういった事柄は既にソーシャルVRユーザーに体験されつつあるものですが、語りとしてはスピリチュアルな響きで捉えられてなかなか普及していません。それでも真面目に語っていくことが必要だと思います。


PROJECT: SUMMER FLARE、良いものを見せてもらいました。そして一緒にご参加いただいたサナエルさん、小林くん、おうむどりさん、どうもありがとうございました。

左からサナエルさん、チエカ、小林くん、おうむどりさん

考察追記のためのスペース





[1] 黒周ダイスケ、『S.U.N.F.L.O.W.E.R. -Blue Sky-』、カクヨム、2022年8月6日更新、https://kakuyomu.jp/works/16816452221508278937 、2023年5月21日閲覧
[2] 甲田学人、『Missing 神隠しの物語』、メディアワークス、2001


〈以上〉

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