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短編小説|月の味、心の光/シロクマ文芸部/詩のような物語

月の味は、ほんのり苦かった。
祖母はいつも言っていた。
「人が流した涙を、月はこっそり集めて光ってるんだよ。だから少し苦いの」

その言葉を胸にしまいこんで大人になった私は、泣かないことを強さだと思い込み、がむしゃらに働き続けていた。
だけど心はすり減り、些細な失敗で自分を責め、眠れない夜を過ごすこともあった。

そんなある日、職場の後輩が小さなミスをして泣きそうな顔をしていた。
私は反射的に「大丈夫だよ」と声をかけ、机の上に置いた紙コップの水を差し出した。
窓から射す月が、その水面に揺れて映っていた。
後輩は一口飲み、ふっと笑った。
「ちょっと苦いけど……落ち着きました」

その瞬間、胸の奥で祖母の声が甦った。
――涙を抱えることは弱さじゃない。苦さのあとに、必ず光がある。

私は気づいた。
あの苦い月の味は、誰かと分け合うことでやさしさに変わるのだ、と。

その夜、帰り道で私は空を見上げた。
月は相変わらず淡く輝いていた。
けれどもう、それはただ遠い天体ではなく、私と祖母、そして後輩をつないでくれる光になっていた。

月の味は、やっぱり苦い。
けれど、その苦さを誰かと共有できたとき、世界は驚くほどやわらかくなる。


シロクマ文芸部に参加させていただいています。
小牧部長さま、いつもありがとうございます!
今回のお題
「月の味」から始まる文芸作品です



最後までお読みいただきありがとうございました。
もしあなたの心にも、なにか言葉が灯ったなら…よければそっと教えてくださいね🌿
もしかしたら、そのひとことから「詩のような物語」が生まれるかもしれません。


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