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短編小説|風が吹く/シロクマ文芸部/詩のような物語

風が吹く。
交差点の真ん中で、誰にも触れずに。

あなたと私のあいだを、
白いレシートみたいな沈黙が
ひらりと横切っていった。

さっきまで笑っていたはずなのに、
どうして急に
言葉はこんなにも重たくなるのだろう。

あなたは「大丈夫」と言い、
私は「うん」とうなずく。
その、たった二文字のなかに、
言えなかった本音が
ぎゅっと押し込められている。

風が吹く。
信号待ちのあいだ、
あなたのコートの裾が
私とは違う方向を向いている。

同じ場所に立っているのに、
見ている空の色が
少しずつ、ずれていく。

手を伸ばせば届く距離なのに、
なぜか、
心だけが、一歩ぶん遠い。

風が吹く。

吹き飛ばされたのは、
落ち葉ではなく、
私の小さな期待だったのかもしれない。

それでも、
あなたの背中が角を曲がるまで、
私はそこに立っていた。

いつか同じ風を
同じ向きで受け取れる日が来ることを、
まだ、どこかで信じながら。

そして、

祈りながら。


シロクマ文芸部に参加させていただいています。
小牧部長さま、いつもありがとうございます!
今回のお題

「風が吹く」から始まる文芸作品です。



【詩のような物語】という、小さな物語たちを紡いでいます。
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