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【詩のような物語】君が旅に出た理由を、まだ貝殻に聞いてる/シロクマ文芸部

砂浜で
君はまだ、貝殻の声を聞いている。
波の中に隠れた物語を、
そっと耳でほどいていた、あのころのまま。

君は、少し不思議な人だった。
友達というには浅いつきあいだったけど、
何も言わなくても通じ合うという、
あんな感覚は他に知らない。

雨上がりの虹を数えて歩いたり、
小石に名前をつけたりして、
世界のささやきに、よく気づいていた君。
きっとその声に、導かれるように
君は、なにも言わずに旅に出た。

僕はいつも、それを見ていた。
何も言えず、ただ隣で。
ふたりの時間は、
風に紛れるくらい静かだったけど、
それでも、確かに――あたたかかった。

陽が傾き、
夕暮れの光が海にとけるころ、
君がポケットから出したのは、
ひびの入ったガラス玉。

「ねえ、これ、空に似てない?」
そう笑った声が、
今も、波の向こうから聞こえる気がする。

君が旅立ってから、いくつの夏が過ぎただろう。
僕も最近、
通りすぎる風や草の揺れに耳をすますようになった。
君が教えてくれた、世界の声を
少しずつ、聞き取れるようになった気がする。

今、あなたは世界のどこを旅しているんだろうか。
小さな足あとが
ひとつ、またひとつと、
今日も風にさらわれて消えていく。

またいつか帰ってきたら、
君の見た景色を、話してくれるだろうか。
そのとき僕は、ちゃんと
耳を澄ませて聞けるだろうか。

もう、君はいないのに。
だけど、あの時の空は、今もここにある。
あの時の海も、風も、砂も。
そして、君の声も。

耳をすますと、
貝殻の中でまだ、
世界のはじまりみたいな、
でもどこか寂しい音が鳴っている。



シロクマ文芸部に参加させていただいています。

小牧部長さま、いつもありがとうございます!



最後までお読みいただきありがとうございました。
もしあなたの心にも、なにか言葉が灯ったなら…よければそっと教えてくださいね🌿
もしかしたら、そのひとことから「詩のような物語」が生まれるかもしれません。


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