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『ソトノレンズ』 第三話 【創作大賞2024漫画原作部門】

1. ミレイの家 夕方

ミレイは窓辺に立ち、心配そうな表情で遠くの山々を見つめている。

-回想-

今よりも家具が新しく、すっきりとした室内(花瓶の花はなく、その代わり壁には、羊皮紙に描かれた様々な花の絵が貼られている)

40代ぐらいのミレイが、怒りで顔を真っ赤にしている。

若いミレイ「絵で食べていくなんて、何をバカなこと言ってるんだい!」

ミレイと向かい合っているのは、10代半ばの青年。どことなくミレイに似ている。

息子「バカじゃない!真剣なんだ!一度でいいから試してみたいんだよ!」

若いミレイ「いつも、いつも、あんたは!普通にできないの!?」

ミレイは大きなため息を吐くと、椅子にドスッと座わり込み頭を抱える。

若いミレイ「はぁ、、、母さんはがっかりだよ」

息子の顔に傷ついた表情が浮かぶ。

息子「、、、わかったよ」

息子は壁に貼られた絵を次々と剥がしていく。最後の一枚に手を伸ばすが、一瞬ためらい、手を止める。

その《コスモス畑の絵》を一枚だけ残すと、踵を返し、部屋中に散らばる画材をかき集め始める。目には涙が浮かんでいる。

乱雑に集めた絵と画材をカバンに詰め込む息子。ミレイはハッとするが、制止する間もなく、息子はカバンを背負い、勢いよく飛び出していく。バタンと閉まるドア。


-現在-

回想よりもずいぶんと古びたドア。その扉をただじっと見つめる歳をとったミレイの姿。

「ただいま」

突然、ドアの向こう側から聞こえた声。

ミレイの目に期待がこもり、杖も忘れ、慌ててよろよろとかけていき、扉をゆっくりと開ける。

そこには、両手いっぱいに抱えられたコスモスの花束。驚きと期待のこもったミレイの表情。

その花束からひょこっとルッカが顔を出す。

ルッカ「ミレイさんにおみやげ」

ミレイの表情が切なく穏やかなものへと変わる。

ミレイ「おかえり。こんなに沢山すごいじゃないか。すぐに花瓶にいけなくちゃ」

×××

水場でチョキンチョキンとコスモスの茎を切りながら、ミレイが花瓶にコスモスをいけている。いけ終わった花瓶が水場にずらっと並んでいる。

ルッカ「この花瓶、僕が好きなところに飾っていい?」

ミレイ「ええ、いいけど」

不思議そうに返事をするミレイ。



2.ミレイの家 外 夜

夜空の彼方から一羽の伝書鷹が飛んでくる。その足には、小さなトランクが掴まれている。

タヒトが「よっ」とトランクを受け取ると、鷹は静かにタヒトの肩に降り立つ。

タヒトは、トランクの中身を確認すると「これこれ!」と目を輝かせる。そして、伝書鷹をしつこいくらいに撫で回す。鷹も満足げに頬をすり寄せている。



3.ミレイの家 中 夜

鷹が美味しそうに干し肉を突いている。

その隣で、床にコスモスの花瓶を次々と並べていくルッカ。

×××

ルッカ「ミレイさんはこの辺に」

ルッカがミレイの両手を持ち、部屋の中央に置かれた椅子まで連れて行く。彼女を優しく座らせると、

ルッカ「合図するまで目を閉じてて」

ミレイ「え、ええ」

タヒトが先ほどのトランクから木製の《幻灯機》を取り出す。幻灯機は、重厚な木のフレームに囲まれ、上部には細かい彫刻が施されている。前面にはレンズがきらりと輝いている。

タヒトは背面のフィルムを差し込むためのスロットに、手のひらサイズの現像フィルムを慎重に差し込む。

ルッカが家の明かりを消して回る。部屋は徐々に暗くなっていく。

タヒトがランプハウスに油を慎重に入れ、ランプを灯すと、柔らかい光が幻灯機の内部を照らす。

そして、ルッカと目を合わせると、幻灯機のレンズカバーをそっと開ける。一筋の光が壁を照らし出す。

ルッカの口元が驚きで大きく開く。そして次第に嬉しそうに口元が緩む。

ルッカ「、、ミレイさん、目を開けて」

ゆっくり瞳を開けるミレイ。その瞳が大きく見開かれる。


そこには、幻灯機によって壁一面に映し出された美しいコスモス畑。満開の花々がまるで生きているかのように揺れている。花瓶にいけられたコスモスも、その景色の一部として鮮やかに彩りを添えている。

ミレイは息を呑み、その光景に心を奪われる。


ミレイ「なんてこと、、」

手で口を押さえるミレイ。

その時、前からブワッと風が吹き込む。



-ミレイの回想-

息子がコスモス畑の真ん中で絵を描いている。
真剣な表情の息子。

ふっとこちらを振り向き、はにかみ、くったくのない笑顔を向ける。


息子「母さん」




-現在-

ミレイの瞳からぽろぽろと涙がこぼれる。

ミレイ「ああ、、そう、、そうなのね」

ミレイ「死ぬまでに、あの景色をもう一度見たいと思っていたけど」



ミレイ「、、、ただ、もう一度会いたかったのね」


涙を拭うミレイに気づき、ルッカが慌てて駆け寄ってくる。

ルッカ「ご、ごめんなさい。泣かせるつもりじゃなかったんだ」

ルッカ「、、喜んでもらえるかと思って」

ミレイ「何言ってるの!これは嬉し涙よ。あまりに綺麗でね」

から元気で笑ってみせるミレイだったが、ふと、ルッカと息子が重なって見える。

ミレイ「私も、、、応援してあげていれば違ったのかしら」

吐き出すように呟いた一言。

タヒトが伏せてあった額の絵をミレイに手渡す。

タヒト「僕らは、プライドの塊なんです。きっと息子さんも満足のいく絵が描けたら帰ってきますよ」

ミレイは絵を見つめながら、深い息をつく。

ミレイ「そうかしら、、」

タヒトは深くまっすぐに頷く。

ミレイ「うん、、、きっとそうね」

ミレイ「はぁ~気長に待ってみるわ!これまでだってそうだったもの」

心配そうなルッカの視線に気づいたミレイ。

ミレイ「も〜う!年寄りが心配かけていや〜ね!ほら、きて」

手を広げ、ルッカを手招きする。
「あなたもよ」とタヒトのことも手招きすると
2人を両手で包み込み、優しくハグをする。

タヒトの少し驚いた表情と、ルッカの照れくさそうな表情。

ミレイの瞳は涙で潤んでいるが、未来への希望が混じり合った穏やかな笑顔。




4.ミレイの家の庭 朝

庭に立つ木々の枝葉が、風に揺れている。
使い古されたミレイの杖が、木の幹に立てかけられている。

ミレイ「あ痛たたたた」

木につかまり、杖無しで背筋を伸ばして立つミレイ。

ルッカは真剣な表情で、ミレイにカメラを向け、三脚を調整している。

家から、大きなシーツを抱えて出てくるタヒト。いつものふざけた感じはどこへやら、真剣な表情でルッカに尋ねる。

タヒト「写真のイメージは?」

ルッカは両手を広げるような仕草で答える。

ルッカ「なんか、こう、、、暖かくて、くすぐったくて、フワフワしてて、でもずしっとしてる感じ、、」

タヒト「なるほど、ミレイさんって感じね」

ルッカの目が輝く。

ルッカ「そう!」

タヒトは日の光を見つめながら話を続ける。

タヒト「絞りは決まった?」

ルッカ「2.8?にしようと思ってる、、」

タヒト「じゃあ、シャッタースピードは1/250で」

ルッカ「わかった」

ルッカはもたつきながらも、カメラのダイヤルを回してシャッタースピードを設定し、レンズを絞り始める。

息のあった2人のやり取りに感心しているミレイ。

タヒトはミレイの前へ行きお辞儀をすると、勢いよくシーツを広げる。真剣な表情でシーツを揺らめかせると、その反射する光がミレイの顔を柔らかく照らす。

タヒト「こっちはいつでもOK!」

ルッカが真剣な表情でカメラを覗く。

ファインダーに映るミレイのフルショット。
ミレイの表情はほんのり固い。

静かな沈黙。

ミレイが堪えきれず照れ笑いをする。

ミレイ「やだ、なんだか緊張しちゃうわ」

ルッカは慌てて何か話題を探すが、まごついて言葉が出てこない。焦る様子を見て、ミレイは優しく微笑む。


ミレイ「ねぇ、、ルッカちゃん」

ミレイ「もしも、、息子に会えたらね」

ミレイ「戻ってこなくていい。って伝えてくれる?」

ルッカは不思議そうに問いかける。

ルッカ「帰ってきなさい。じゃなくて?」

ミレイ「ええ、そうよ」


ルッカ「うん。わかった」

ミレイの背中が、すっと、先程よりもさらに真っ直ぐに伸びる。ルッカを見つめる瞳も、どことなく若々しく輝いている。


ミレイ(ルッカちゃん、、)

ミレイ(生きる希望をありがとう)

母なる大地のように穏やかに笑うミレイ。

カメラを覗くルッカの瞳が眩しく生き生きと輝く。

《画面が暗転する/シャッターが閉じる》





6.モネロスへ向かう道

旅立つ二人。

ミレイが手を振って見送ってくれている。
次第に、ミレイの姿が小さくなっていく。

山岳地帯の小道を、黙々と歩く二人。

「ぐすん」

タヒトが驚いてルッカを見ると、涙を堪えている。

ルッカ「見るな~~」

顔をうずめるルッカ。

「はいはいはい」と肩をたたいてあやすタヒト。
「ごほん」と咳払いをすると突然歌い始める。

「如何にいます父母、恙なしや友垣」

「雨に風につけても思ひいづる故郷」

「志を果たしていつの日にか帰らん」

「山は青き故郷、水は清き故郷」

ルッカは、涙を堪えながらタヒトの歌を聞いていたが、ふっと、ミレイの息子がミレイの元へと帰る光景が浮かぶ。

ルッカ「ぐすん、、いい歌だね、、」 

タヒト「昔、母さんがよく歌ってくれたんだ。ずっとずっと東にある母さんの故郷の歌なんだ」

タヒト「世界は広い。これから色んな人と出会って、色んな景色を見ればいいさ」

タヒトはニヤリと笑って、

タヒト「なっ、楽しみだろ!」


ルッカは目に涙を溜めながら、大きく頷く。





7.モネロスの現像室

薄暗い赤い光が包む現像室。壁には現像用の薬品や道具が整然と並べられ、大きなテーブルの上には様々な現像器具が置かれている。部屋の隅には、クリップで吊るされた写真が乾燥中。

中央の作業台に立つ、金髪の巻き髪の女性。彼女の手元には、水槽の水に浸された写真がゆらめき、画が浮かび上がり始めている。

女性は、焼き上がった写真を丁寧に取り出し、水を切る。そして、写真を明るい光にかざして細部を確認する。

女性「これはこれは、、なかなか味のある写真を撮る子ね」

女性は赤い光の中で、楽しげで美しい笑みを浮かべている。

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