未来のためにできること|ベルリン暮らしの実話から|ちかよりみち
そこに言葉は要りませんでした。
ただその人の気持ちを汲み取り、無事を願うしかできなかったのです。
もし、未来のためにできることはあるのかと問われたら、私はなんと答えられるかを考えてみました。
政治家でもなければ、科学者でもない、一般家庭の主婦の私にできることなんてあるのかと。
強いて挙げるなら、ベルリンで暮らす中で、言葉や文化の違う人と向き合う毎日が、私の考え方を少しずつ変えてくれたことではないかと思います。
先日、幼稚園の同じクラスのママさんから、夏休みは日本へ帰るのかと聞かれました。
今年は一時帰国をしない旨を伝え、そのご家族の予定を聞き返した時でした。
そのママさんがこう言ったのです。
「母国が戦争で帰国するのは怖いんだけど、大好きな兄が亡くなったから、帰ることにしたの。無事に帰って来れるかはわからないけど、行くと決めたわ」
その言葉を聞いた瞬間、胸が締め付けられるような思いと、過去の記憶が瞬時に蘇ってきました。
数年前に私も家族を亡くし、急遽、子どもを連れて、日本へ一時帰国をしたためです。
でも、そこに戦争の二文字はありませんでした。
正直、なんと言葉をかけてよいのか、わかりませんでした。
その場では、お悔やみの言葉を伝えることで精一杯でした。
彼女とは、いつも笑顔で挨拶を交わし、小話をするような仲です。
しかし、あの日の会話以降、幼稚園で顔を合わせる度に、無言で挨拶をするようになりました。
小話はせずにアイコンタクトを取り
〈大丈夫。きっと無事で帰って来れるよ〉
と、応援の気持ちを送っています。
それは、母国到着までの緊張感や喪失感がありながらも、子どもの前では気丈に振る舞おうとする辛さが、少しだけわかるからです。
彼女にも、その気持ちが伝わっているのかもしれません。顔を合わせた時に、口をきゅっと締めながら、小さく頷きます。
〈ありがとう。頑張る〉
と、無言の言葉が伝わってきます。
国も、言葉も、宗教も、考え方も、何もかもが違う環境でも、相手を想う気持ちは変わりません。
世界を変えることはできなくても、目の前にいる一人を大切にすることならできます。
その積み重ねが、未来につながる一歩になると、私は信じています。

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