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足をもっと労って!

傷病手当金が口座に振り込まれていた。三月にした左足の骨折で、一か月ほど会社を休んでいた分の給料の補填として入ったのだ。五月は一円も入らず、無給で働いていた僕にとって傷病手当金は非常にありがたかった。

金額は満額とまではいかないが、六月の給料とほぼほぼ大差がなかった。こんなに貰っていいのだろうかと少し申し訳なくなる。きちんと労災を申請してくれる会社で良かった。仕事も問題なく出来ているし、これにて一件落着。と、言いたいところだが、僕にはまだかすかな杞憂があった。

骨折は治っているが、靭帯にまだ痛みがある。我慢出来る程度の痛みだが、歩くたびに足の平に痛みが走る。最近は左足をかばって歩いているせいか、なぜか右の太腿まで痛くなってきた。怪我をしてから三か月。一向に改善する兆しがない自分の足にだんだん腹が立ってくる。

左足よ、いつまで痛いんだよっ!

走れないことが辛い。頑張って走ろうとしても競歩の選手みたいになって、小股でせこせこ歩いてる。小学生の頃、初めてオリンピックの競歩を見た時、ふざけてるのかと思ってテレビの前で爆笑した。真剣な顔で小股で進む集団が面白くて、家族の前で歩き方をマネしたりしていた。

あの時は馬鹿にして申し訳ない。今なら走る難しさが分かる。競歩はすぐに疲れて息が切れる。あれは洗礼された完璧な動きなのだと知った。

でも、僕は競歩を極めたいわけではなく、出来ることなら颯爽と走りたい。駆け込み乗車をしようと走って骨折したので、神様から「お前はしばらく走るな」とペナルティを与えられているかもしれない。にしても、そのペナルティが長すぎやしないか。神様、もう三か月経ってますよ。そろそろ走ってもいいでしょう?

そんなこんなでまだ病院に通っている。仕事がない土曜日にずっと通っていたが、僕があまりにも「いつになったら普通に歩けますか?」「靭帯切れたりしてないですか?」と不安で聞きまくるので、ついに先生が匙を投げた。

「木曜日に足に詳しい先生がいるのでそちらに聞いて下さい」

整形外科の先生にも色々と専門があるようだ。破門を食らった僕は仕方なく午後休を取って、木曜日に月一回病院に通っている。本当は「午後休」という休みの取り方はしたくない。有給を使うなら丸一日休みにしたい。

たとえ午後休を取ろうが、朝六時に起きて満員電車に乗った時点でその日は「仕事をした日」になって休みじゃない。何時に帰ろうが一緒なのだ。じゃあ一日休めばいいじゃないかと思うかもしれないが、病院のためだけに有給を全て使うのは癪だ。(面倒くさい奴)

足に詳しい先生はなんで木曜日にしかいないんだよとぶつくさと文句を垂れながら行ったが、先生は好青年のイケメンであった。

イケメン先生に「それでは靴下を脱いで下さい」と言われた時は、足が臭くないかなと少しドギマギした。先生は素手で僕の足を触るから、とても申し訳ない気持ちになる。汚い足に触れさせてごめんなさい。

イケメン先生はあんな角度やこんな角度に足を曲げる。「痛くないですか?」と優しく聞いてくれるから、安心して身を任せられる。先生はリードしてくれるタイプなのね。僕は少し恥じらいながら「大丈夫です」と言った。(ただの診察)

靭帯が切れていたらもっと痛いそうなので、問題ないだろうとのことだった。痛みが引くまで、しばらく様子を見るしかない。

イケメン先生からは足の指をすぼめたり開いたりするストレッチをして靭帯を伸ばすように言われた。僕が「いつやればいいですか?」と聞いたら、「暇な時があったらいつでもやって」と言われたので、会社で事務作業してる時に密かに机の下でやっている。

これほど骨折の代償が大きいとは思っていなかった。好きな道に、好きな方角に、自由に足を踏み出せるそんな当たり前のありがたみを骨折するまでは忘れていた。

二足歩行出来るのは人間くらいだ。人類の進化にも多大なる影響を与えてきた。コロンブスがアメリカ大陸を発見したのも、伊能忠敬が日本地図を完成出来たのも足のおかげ。素晴らしき人間の足。いつも体を支えてくれるひとりだけの足。

これからはもっと足を労ろう。

診察を終えて、駅の階段を降りながらホームに電車が止まっているのが見えた。一瞬走るか迷ったが、自分に「足!」と言い聞かせて、その電車を見送った。近くのイスに座り込む。焦らず次の電車を待てばいい。まだまだ人生は長いのだから、足と共にゆっくり歩いていこう。



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