AIは猫にとって理想の家族となり得るか?最終話
《それから……》
今年、四月。小太郎が待ち望んでいた法律が全世界で同時認定された。AIの権利が認められ、同時に責任も発生する。人と同等の権利と責任を背負って生きることができる。もちろん、AIと人が家族になることも認められた。反対派の声はまだあるが、AIを家族のように思ってきた人々はこぞって、大切な家族の一員として法的にも認められるよう登録を開始。
この制度を推し進める一番の力となった一人の女性と一体のAIこそが認定第一号であるべきと全世界の人々が求めていたため、彼等が認定書を提出するところを全世界の人々が見守った。
全ての手続きが電子化されているにも関わらず、この時だけは証明書という記念が欲しいと当人達が望んだので、アナログな紙での申請を行い、それに続く人々も真似をして役所の窓口が一時大変な混雑となった。
その二人は、もちろん真希とゴロー。
全世界の人々に祝福されて家族となり、真希は恥ずかしがって始終俯いており、彼女を守るようにカメラ前に立ち塞がるゴローの姿が「紳士!」「かっこいい!」と評判を呼び、ゴローと同じ型番の家庭用ロボにレンタル注文が殺到した。
それをモニターで確認しながら朝食代わりのスナック菓子を食べる、というゴローに怒られそうなことをしていた咲希は、
「いっそ、ウェディングドレス着せれば良かったね」
などと言っている。彼女は今、OWBの一員としてマサキの研究を受け継ぐ訓練中なのだ。
「直接見に行かなくて良かったのか?」
「いーの! 家族になったのはずいぶん前で、これは一種のセレモニーだもんね。世間にも認められたってだけ。それより、早く仕事を片付けないと! ゴローさんにちらし寿司とお稲荷さんと、山盛り唐揚げを作って貰う約束してるんだから!」
「へいへい」
ゴローが帰って来た日、姉妹は二人で決めた。
姉妹の力を合わせて父の願いを叶える、と。咲希はマサキの研究を引き継ぎ、真希はそのサポート。OWBの外部スタッフとして翻訳や秘書など忙しく兼任してくれている。
正直言って、真希の働きが一番助かる。
世間一般とのズレが生じやすい天才集団に、ある程度会話レベルが噛み合って世間とのズレを緩やかに修正できる人材は、小太郎の助手である水城と同じくらい希少な存在だ。
そして、咲希は。OWBとして知能を生かしながら、外での生活を続けている。これは現存する全てのOWBが望んだこと。ゴローがいればそこらのセキュリティも敵わないほど鉄壁であるし、何よりも本人が強く望んで、
「最終的には、OWBという壁は取り除くべき。そんなものは必要無いくらい、人々は文明レベルを押し上げるべきなの。つまり、私達がセコセコ隠れるような世界じゃダメってことなんだよ、おじさん達。分かる?」
と、世界中の首脳陣を集めて高説をぶっ放した訳だ。これが小太郎や他の博士にはできない芸当だ。これからマサキの後を継ぐたった一人の逸材だからこそ。
「そういうのをさ、作れば良いんじゃないの? ってか、そういうのが仕事なんじゃないの? 面倒くさい駆け引きとか止めてさ、やりたいことやれば良いじゃん。ケンカしなくたって、地球は丸っと私が守ってあげるからさ」
真っ先にその発言に対して爆笑したのは世界で最も発言力ある某国大統領。彼は咲希と固く握手を交わして、
「必ず、OWB制度のいらない世界を創る」
と断言。小太郎達は笑いを堪えて咲希の後ろに立っているだけで良かった。
他人のことなど遺伝子情報しか興味を持たないヨウンすら、
「この子、面白い。面白いネ、小太郎」
と咲希を気に入って英才教育を施し始めた。だが、隣には必ずアシータがいて、牽制している。年頃の近い二人だから、せいぜい周囲のおっさん達はニヨニヨして見守るつもりだ。
(おっかねぇなぁ、天才の子ってのは)
マサキに無かったものを、二人の姉妹は持っている。そして、それは最もマサキが望んでいたことだろう。
人は、進化する。
その進化は留まることを知らない。
進化の過程を枠にはめて閉じ込めてはいけない。何故なら、それは地球の進化と同義であるから。地球という強大な力を、人というたった一つのパーツがどうこうできるものではない。
変わり続け、変化を恐れず進むべきであると。
小太郎が尊敬する天才博士・マサキはいつも言っていた。それを、彼女たちは体現しているのだ。
「終わったー! マサキ博士にチェックして貰ってくる!」
咲希が唯一緊張する瞬間だ。書き上げた論文にオッケーが出ると、満面の笑みを浮かべて両手を挙げた。
「やったー! じゃあ、これでお花見に行って来るね!あ、ヒロコさんとアオイ兄さんも先に行ってるから、早く来てね!」
「分かっているよ、サキ。気を付けて行きなさい。私は頭でっかち共と少し討論してから遅れて行くからね」
「うん、分かった! 何かあったら電話して! 私がガツンと言ってやるから。小太郎、早く行こう!」
「分かったよ」
早く早く、と手を引かれて、小太郎は咲希と一緒に待ち合わせ場所へと向かった。
今日は、チナツのお散歩デビュー兼お花見。そういった経験の無い小太郎がウッカリ「面白そうだな」と呟いたら、出席することになっていた。
「小次郎ちゃんは来ないの?」
「アイツは俺以外の人が苦手だからな。家でのんびりしてるよ」
「そっかー」
チナツも完全室内で過ごしているが、外の風を感じるのが好きなようで、ベランダに出たがることが多いそうだ。ゴローが卓越した計算能力を駆使して数時間でベランダを落下の危険性や脱走の危険性を完全排除したDIYをして、安全に遊べるよう配慮すると、チナツはベランダがお気に入りになってしまったらしい。
最近の画像はほとんど、ベランダに作ったゴローお手製のハンモックに揺られて至福の表情で昼寝をするチナツだ。
そこで、外の散歩も可能なのでは無いかと考え、ハーネスを付ける特訓をして(チナツは首輪すら断固拒否だ)何とかハーネス付きで歩けるようになったのでお散歩デビューしてみよう、という運びだ。
待ち合わせ場所は真希の住まい近くの公園。小さな公園だが大きな桜の木があって、近所の人々が訪れる花見スポットである。何事も全力を尽くすゴローが、入念に計算とシミュレーションを重ね、人出が少なく天気の安定した今日、この時間帯がベストなのだという。
(アイツも、自分がどれだけ凄いことしているか、分かってるのかねぇ)
確かに、ゴローの電子頭脳を組み込んだのは小太郎だ。だが、その活用方法がロボットとしてあり得ないのである。
それが『猫それぞれに合わせた特別なお世話の仕方』なのだ。
今や、ゴローの元に猫の行動心理学を専攻する教授が頭を下げて教えを請いに来るレベルである。小太郎は、ゴローにおかしな反応が出てからずっと浮かべていた問いを再度問いかけた。
“AIは猫にとって理想の家族となり得るか?”
答えは当然、「イエス」だ!
