『風の便り』【第四章:曼珠沙華は恋をする】
その日の夜、ユウタは夢の中で祖母が祈っている姿を見た。
朝靄の中、小さなお墓の前に立ち、手を合わせる姿。
その背中の向こうに、赤く揺れる曼殊沙華が咲いていた。
「誰を祈ってるの?」
そう聞いたはずなのに、祖母はただ微笑んで、何も言わなかった。
ただ、口の中で誰かの名を静かに唱えている。
風が吹いて、花が揺れた。
目が覚めたあとも、その光景が胸から離れなかった。
あれは昔、何度も見た祖母の背中だ。
小さな頃、夏休みに毎朝見かけたあの場所。
ずっと忘れていたのに、なぜ今になって思い出したのだろう。
祈るって、きっとそういうことなのかもしれない。
誰かを想い続けること。
たとえ言葉にしなくても、祈りは残る。
曼殊沙華が、まだ胸の中で揺れていた。
(つづく)
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