傘と宮沢賢治 〜雨ニモマケズ〜
傘がすきです。
無駄のない秀逸なフォルム。
開いても閉じててもかわいいなと思います。
デザインやパーツが多様で個性も出ますね。
少し荷物は増えるけれど、お気に入りの傘があれば憂鬱な雨でもちょっと楽しくなりませんか。
私の長傘は赤い傘。
シンプルな無地だけれど、クリスタルのようなカットの持ち手とタッセルが密かなチャームポイントです。

このひとつ前は、紺色の少し厚みのある生地に 赤いステッチが骨をなぞるように施された、ぽってりとした木のハンドルが手によく馴染む傘でした。
買い替える理由もなくて、学生の頃から二十数年使い込み、愛着も思い出もあったお気に入りだったけれど、もうさすがにくたびれて数年前に買い替えました。
物持ちがいいとはいえ、それにしてもよく持ちましたねえ。
雨の日も風の日も たとえ台風であっても耐え忍び 、どこかに忘れてくることも、他へ移ることもなく 最後まで一途に添い遂げたのです。
……なんだか長年連れ添った夫婦のよう。
でもそうね、体を張って雨や嵐から守ってくれたわけだし。
私も、思わぬ突風が吹いたって飛ばされないように、置いてけぼりにしないように、降っても止んでもしっかりと手をつなぎ 離さないでおりましたとも。
そういえば……
雨ニモマケズ
風ニモマケズ
雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ
丈夫ナカラダヲモチ
慾ハナク
決シテ瞋ラズ
イツモシヅカニワラッテヰル
……
宮沢賢治『雨ニモマケズ』より
この詩に初めて触れたのはいつだっただろう。
学校の授業のはずだけど……
小学生?中学生?
もう遠い昔のことで そこは忘れてしまいました。
今でも暗唱できるほど、何度も何度も読みましたね。
それからずっと、今も大切に思っている詩です。
この冒頭を初めて教科書で見たときに、
あ、傘か。傘のことか。と瞬間的に傘の姿が思い浮かんだのでした。
でも そのすぐあとに続く
“ 一日ニ玄米四合ト 味噌ト少シノ野菜ヲ… ” で
あ、食べるのか。 人か、人のことなのか。とわかるのです。
そして、
……
ミンナニデクノボートヨバレ
ホメラレモセズ
クニモサレズ
サウイフモノニ
ワタシハナリタイ
宮沢賢治『雨ニモマケズ』より
この最後で、やっぱり傘でもいいんじゃないのかなという気がしたのです。
『雨ニモマケズ』は 言わずと知れた宮沢賢治の代表作のひとつです。
彼は結核を患い、急性肺炎を起こし、37歳という若さで生涯を閉じます。
この作品は彼が亡くなった後に発表されました。
遺品であるトランクのポケットに入っていた手帳の中に記されていたものでした。
その手帳は “ 雨ニモマケズ手帳 ”と呼ばれているそうです。
漢字が混じったカタカナ書きで、この詩には最後までどこにも主語が明かされていません。
実在の誰かのことなのか、理想の自分のことなのか……
彼はどんなことを思い描いていたのでしょう。
傘みたいな人のことよね。
それは、強くて 優しくて 懐の深いまっすぐな人。そっと守ってくれるような人。
わたしが傘をすきな理由は、宮沢賢治が好きな理由は、そういうところなのかもしれません。
散歩を躊躇う雨の日は、雨音を聞きながら 文学に触れるというのもいいですね。
どうぞよい一日を、よい一週間を。
#26. 『 傘 』
⭐︎ まるっこい矢印みたいに空を指し雨からそっとわれを守りつ
⭐︎ どうしたの、ここへ入っておいでよと サウイフカサニワタシハナリタイ
ー ちる ー

