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【サレ妻大逆転ミステリ】6話 毒妻探偵〜サレ公爵夫人、愛人調査能力で殺人事件を解く〜

前回のお話
https://note.com/chisio777/n/nfe8d3ff1d9c0


1

 フローラが公爵家に帰ってきた時、天気が崩れて初めていた。マーシア達の障害者作業所ではあんなに晴れていたが。天気というものはなかなか読めない。

 ポツポツと雨も降り始め、公爵家のに庭にあるハーブ類もしっとりと濡れていた。

「それで、コンラッドさん。一体あなた、何の用?」

 フローラは公爵家のリビングルームでため息をつく。中央にあるソファにはコンラッドが我が物顔で座り、ぶつぶつ呟いていた。

 フィリスによると、さきほど公爵家にやってきたそうだ。目的も言わず、出した紅茶やクッキーをがぶ飲みしていたらしい。

 とにかくフィリスやアンジェラには自分の仕事の戻ってもらい、コンラッドと対峙するしかないようだ。フローラはコンラッドの目の前に腰を下ろして、公爵夫人らしくゆっくりと微笑んだ。

 内心は理由もなく公爵家にやってきたコンラッドにイライラしていたが、そんな表情を見せても仕方ないだろう。

「それに、このテーブルの上にあるもの何? 藁でできた人形?」
「これは異国にある藁人形というものらしい。これに釘を打ちつけると人を呪い殺せるんだ」

 他にコンラッドは呪いの護符、呪いの人形、呪いの円盤などを見せてきた。どれもエルの所で見つけたものらしいが、頭を悩ませているらしい。確かにエルはこれらでマムを殺したと語ったらしいが、エルには完璧なアリバイがあった。

 そして非科学的な殺害方法は、どうやってもエルの犯行だと立証もできず、コンラッドは悩んでいるらしい。頭をぐしゃぐしゃとかき、眉間には深い皺。それにヤケクソのようにクッキーをボリボリ。

「呪い殺すなんて無理よ」

 悩めるコンラッドには悪いが、事実だけを冷静に伝えた。

「夫の過去の愛人を殺してって頼んだけど、うまくはぐらかされた。エルにそんな力はありません」

 エルは怪しい事は怪しい。事実、コンラッドもエルを第一容疑者としているようで、ドツボに入ったと言う。数々の呪いのアイテムを収集し、実際殺せるかどうか白警団で検証しているというが、思った通りの成果はない。

「やっぱり奥さんが殺したんだ」
「どうしてそうなりますー?」

 フローラは呆れてため息をつく。

「夫は疑って無いんですか?」
「ああ、公爵がナンパした女が見つかったんだ。つまり、あの男にはアリバイがある」
「へえ」

 おっとりと微笑むフローラだったが、内心ホッとしていた。ナンパとはいえ、今はアリバイが成立した事が嬉しく、ついつい口を滑らせた。

「エルはマムの後をつけていたみたい。そういう噂を聞いたわ」
「本当か?」
「ええ。本人には言わないで。障害者作業所の職員から聞いたの」
「何でそんな所へ?」
「公爵家の慈善活動ですよ。さ、このクッキー召し上がって。私が焼いたんです」

 コンラッドにはクッキー大作戦は効かない気がしたが、意外にも頬が緩んでいた。うまい、うまいと何枚も食べていた。

「そうか、エルはマムをつけていたのか」
「あの男に殺意があった事は事実だと思いますね。問題はどうやって呪いをかけたか、です」
「そうだな! やっぱり白警団に帰って検証してくるわ!」
「ええ。頑張って」

 コンラッドは呪いのアイテムをかき集めると、飛ぶように帰って行ってしまった。今日はおそらく夫のアリバイが成立した事を伝えに来たのだろうが、食い散らかしたクッキーのカスを見ながら、再びため息をつく。

 本当に呪いなんてある?

「奥さん、呪いなんてないです!」

 ちょうどそこのフィリスが入ってきた。トレーを持っていたが、その上にはクッキーが盛られた皿がある。おかわりを持ってきたようだ。

「そうですよ。奥さん。やっぱ呪いなんてないです」

 アンジェラも入ってきた。アンジェラはティーポットを抱えていた。二人ともメイド姿が様になっていて、妙に頼もしく見えるのだが。

「二人とも座って。私が今日知った情報を共有しましょう」

 こうして三人で頭を突き合わせながら、推理を初めていた。話している内容は、呪いや殺人など暗い内容なのに、クッキーやお茶と共にしているので、雰囲気は限りなくゆるい。クッキーの甘い香りが三人の緊張も解いているのだう。

「私はエルが呪いをかけていると思ってたけど、違う気がする。だって現状、エルはコンラッドに疑われているんでしょ? だったらコンラッドを遠隔で呪い殺したら良いのに、そうじゃない」

 今日のフィリスは妙に冴えていた。さすが探偵の娘か。もしかしたら探偵の父親にアドバイスを貰っているかもしれない。

「私も呪いなんてないと思うね。フィリスが前に言ったよう、売名行為だ」
「アンジェラの言う通り。もしかしたら本当の犯人を知っていて、こんな事して脅してるのよ」

 フローラは二人の推理をじっくり聞いていた。この推理は正しいかは不明だが、自分にはない発想だ。こうしてみんなと共有して正解だった。

「たぶん、エルの事は余計なパズルのピースだと思う。別のパズルのピースが間違って混入した感じがするのよね」

 フローラは元よりそう思っていた。エルに囚われているコンラッドを見た後だと、何か本質的なものと食い違っている気がする。

「つまり、犯人は別にいる」
「奥さんは誰だと思います?」

 フィリスは無邪気に聞いてきたが、その答えはない。今のところ誰も彼も怪しく見えるが。

 再び愛人ノートを開き、マムの箇所を眺める。マムは地元でもいじめっ子で嫌われていた。死んだ元夫ともトラブルがあったらしい。

「まだ分からない。でも残りのピースは、マムの過去じゃない? ここはまだ調べてないわ」

 フローラの意見に一同賛成し次はマムの地元に調査しに行く事に決まった。今度はフローラ一人よりもフィリス連れて聞き込みした方が良いという事になり、着々と次の調査計画も決まっていく。

 まだ犯人の影も形も見えてこないが、エルに囚われているコンラッドより一歩ルードしているかもしれない。

 それに気づくと一同に余裕も生まれ、談笑するほどだったが。

「フローラ!」

 そこに夫が帰ってきた。ホテルで仕事しているはずだが、髪を乱し、焦っていた。いつもはクールで塩対応な夫だったが、事件が起きてからこんな夫の姿ばかり見ている。もはや慣れてきたところだったが。

「フローラ、何だよ、これは!」

 夫が手にしていたのは、ゴシップ記事だった。そこにあったのは、夫やマムのスキャンダルではなく、フローラの不貞だった。

2

 夫がゴシップ誌を突きつけていた。

「どういう事だよ、これは!」

 夫は顔を真っ赤にし、唇を噛んでいた。どうやら怒っているようだが、一体なぜ?

「公爵さま、一体何を怒ってるんです?」

 フィリスは、ゴシップ誌を取り上げて中身を見上げていた。

 最初は田舎娘らしい呑気な声だったが、次第に暗くなってきた。いつも冷静なアンジェラも気の毒そうな顔を見せ、夫はソファに座ると、貧乏ゆすりをしていた。公爵というより、大好きなオモチャを取られた子供のように不貞腐れていた。

 ゴシップ誌の中身は、なぜかフローラの不貞疑惑が書かれていた。マムの事件も触れつつ、妻であるフローラは、出版社勤務のネイトという男と深い関係となった……。

 事実無根だ。ネイトなんて数回しか会ったことがない。ネイトは夫の担当編集者だったが、愛人も紹介していたので、どちらというと要注意人物だった。夫の本を売る為には手段を選ばないところもある。

 フローラも夫の目の前に座り、ゴシップ記事を読んでみた。呆れるぐらい根拠がない。ため息しか出ない内容だったが、記者はあのトマスでは無いよう。トマスは一応仁義は通したようだが、全く喜べない。

「あなた、とりあえず落ち着いたら。事実無根よ」

 フローラはゆっくりと紅茶を啜った。その姿を見てメイドの二人も女主人の方に従うことに決めたらしい。フローラの側に立ち、紅茶やクッキーの給仕を始めた。

 それに余計に夫は不満そうだ。爪をガリガリと噛み、とても大人に見えない。今の夫といると、幼稚園に来てしまったのだろうかと首を傾げたくなった。

「まあ、落ち着いて。クッキーでも食べましょう。私が焼いたのよ」
「そ、そうかよ」

 フローラはこの記事に全く動揺せず。むしり落ち着き、いつものように背筋を伸ばして夫を見つめいた。夫もこのフローラの落ち着いた様子に、怒りや動揺も収めざるおえないようだった。貧乏ゆすりも爪も噛むのも辞めていた。

 クッキーを一口齧り、息を整えていた。一体夫は何しに来たのか。いくら猜疑心の強い小心者とはいえ、意味がわからない。

「あなた、今日は毒味しろって言わないのね」
「あ、まあ」
「嬉しいわ。私が作ったものを素直に食べてくれて」

 メイドの二人はもう何も言わない。ゆっくりと微笑みを浮かべるフローラを見て、夫も今まで何をしていたか、実感したのかもしれない。髪の毛をぐしゃぐしゃとかき、フローラとは目も合わせられないようだった。

「悲しかった。毒味しろなんてね。妻に言う事?」
「いや、だってお前、毒持ちとか毒妻とか言われてるし」
「噂は噂。事実と関係ないでしょ」

 フローラは手にしているゴシップ誌を一瞥し、夫に返した。この件に関しては、夫は何も言ってこなかった。自分の事を棚にあげ、フローラの不貞を責めたかったのだろう。しかし、妻のこの様子に、戦意も削がれたよう。居心地悪そうにクッキーを齧り、無言を貫いていた。その間、フローラに目も一切見なかった。

「でもこんな記事が出るのは困ったわね。これだとまるで、ネイトと結託してマムを殺したと解釈されても不思議ではない」

 フローラはため息をつき、紅茶を飲んだ。砂糖もミルクも入れない紅茶は、やけに苦く感じてしまう。

「マムを殺した犯人は一体誰でしょうね?」

 結局、そこへ戻ってしまう。こんな記事が出てしまっては、公爵家の名誉も地の落ちたようなものだ。事実無根なフローラの不貞などは、枝葉みたいなものだ。やはり根っこの殺人事件を解決しなければ。

「いや、もう殺人事件を解決するとかやめろよ。恥ずかしいったらないぞ!」

 夫はフローラが事件調査をするのも反対し始めた。

「こんな記事まで出たら終わりだ。ああ、終わりだから!」

 夫の小心っぷりにイライラしてきた。ため息しか出ないが、意外とフィリスやアンジェラは援軍を送った。

「そもそも公爵さまが不倫していたのが悪いんじゃないですか?」
「そうですよ、坊ちゃん。もういい歳なんですから、落ち着いたらどうです?」

 メイド達にも呆れられ、夫はタジタジだった。

「それに奥さんの不貞疑惑を怒るって変じゃないですかー。自分の事を棚に上げすぎです。まるで大好きなオモチャを取られた子供みたい」

 フィリスの言葉は全くの正論で、夫はさっきとは別の意味で顔を赤くさせていた。

 夫はこんな人間だったのだろうか。外見は冷たく装い、中身は猜疑心たっぷりの小心者。しかし今の夫は、それだけでは無い気がした。本当はもっと子供っぽい部分もあったのかもしれない。それなのに公爵の立場に押され、自分を押さえつけていたのかもしれない。

 その苦悩は本当は妻が一番理解を示さないといけなかったが、フローラはそうではなかった。表面的にしか夫と付き合ってなかったのかもしれない。理解しようともしなかったのかもしれない。そう思うと、「サレ妻」になってしまった原因が見えて来た。

「あなた、ごめんなさいね」
「は!?」

 しおらしく頭を下げているフローラに夫は目を見開いていた。

「私も色々悪いところがあったと思う……。あなたの事、いつも責めちゃってごめんなさい……」

 夫はこれ以上無いほど動揺していた。目は見開き、何も言えないようだった。メイドの二人も空気を読み、この場からそっと退出したが、夫は気づいていないようだった。

「いや、俺だってさ……」

 もっとも夫は謝らないが、いつもよりフローラを見る目が柔らかくなっていた。

「でもさ、夫の愛人を調べていたら、いつのまにか殺人事件解決したとかって、喜劇だわな」
「そう? このまま調査を続けても良い?」

 夫は気が抜けつように、笑っていた。苦笑とも微笑とも取れる笑顔だったが、フローラは初めて見る表情だった。

「おお。でも、喜劇にするならちゃんと犯人を見つけ出し、捕まえなければならんぞ」
「そうね。犯人は一体誰かしら?」
「俺に聞くな。でも、エルでは無いと思うぞ」
「本当に呪いが使えたら、お前はローズやドロテーアも呪い殺すよう頼むだろ?」
「ええ、エルにそう頼んだけど、無理だったわ」
「本当に頼んだのかよ!?」

 夫は呆れていたが、目は笑っていた。

「呆れた。そこまでするんか?」
「ええ。でもエルはできなかった。だったら、呪いなんてないわ」

 はっきりと宣言するフローラに、夫も深く頷いていた。

「お前、おもしれー女だな」
「おもしれー女?」

 いつもは「つまねー女」だと馬鹿にしていたのに、どういう風の吹き回しか?

 いつも持っていたオモチャが誰かに取られそうになり、慌てているのか。

 その夫の子供っぽさの頭も痛くなって来たが、意外とそう呼ばれるのは嫌でもなかった。

「おもしれー女だよ。初めて知ったぞ」

 夫の笑い声が響く。

 確かに新婚当時のような仲には修復していない。それでも今の夫との関係は一時期よりだいぶマシになっていた。

 今日は夫はホテルにも別邸のも帰らなかった。久々に一緒に夕食も食べた。フローラが作ったクッキーも完食していた。

 寝室は別だったし、夫はずっと書斎で仕事をしていたが、こんな事は久々だった。

 いつも持っているオモチャが取られそうになり、急に大事にし始めたのか。そんな夫の態度の変わりように喜べはしない。殺人事件調査もほとんど進んでいない。

 それでも、もう悲劇の中にはいないはず。もう可哀想な籠の鳥でもなかった。

「おもしれー女とかって失礼ね」

 寝る前に一人呟くが、フローラは久々に穏やかに眠れていた。

3

「それにしても困ったものだわ。クッキーがほとんど無い」

 馬車の中でフローラはため息をついていた。夫が帰って来た事は良かったが、今朝焼いたクッキーを食べ尽くされ、結局、マムの地元調査にほとんど持って行く事ができなくなった。

 これからマムの地元調査の為、フローラとフィリスは馬車に乗って移動していた。公爵家のある都からマムの地元までは、馬車で二時間かかる。湖があり、畜産が盛んなリーリア地方と呼ばれている地域だった。

 庶民が多く暮らす地域だ。フローラもフィリスも安っぽく、泥やシミがついたドレスを着こみ、髪も無造作にしばった。フィリスは三つ編みをしていたが、恐ろしいほど板についている。どこからどう見ても田舎娘だ。一方フローラは太い眉毛やそばかすメイクで、どうにか公爵夫人らしさを打ち消した。

 この二人の姿を見た夫は大爆笑。腹を抱えて笑っていた。ついでに焼き上がったクッキーも食い尽くし、手元にほとんど残っていない。

「しょうがないですよ、奥さん。今日はクッキーなしで乗り越えましょう」
「そうね。そうするしかないわ。でも、あの夫が大笑いしているのは、意外だったわ……」

 馬車の窓の外はどんどん田舎らしくなってきた。都では見られない牧場や湖も見え始め、そろそろ目的地に近づいている事がわかる。

「ギャフンと言わせるつもりが、大笑いしているのは、複雑ね」
「あれ、奥さん。本当にギャフンと言わせるつもりだったんですか?」
「いえ、今時ギャフンなんて言う人はいないわよね」
「ギャフン! 私は言いますよ!」

 フィリスとくだらない雑談をしていると、少しは気が紛れて来たが。どうも夫はフローラが思うように動いてくれない。当初は夫を見返す為、上手く離婚に持ち込むために愛人調査をしていたのに、今は「おもしれー女」扱いだ。

 薄暗い復讐劇を演じていたはずだったが、今は喜劇ルートに邁進している。夫と本当に別れたいのかもよく分からなくなってきた。無邪気に子供のように笑いながらクッキーを食べている横顔を見ていたら、どうでも良くなって来たのも事実だった。

 どうせ公爵家の評判は地に落ちている。全てがフェイクとはいえ、スキャンダルも出てしまったが、かえってフローラも吹っ切れてしまったのかもしれない。夫もそうかも。もう落ちる所まで落ちてしまったら、あとは這い上がるだけだ。

 今までは公爵家としての立場や見栄のようなものにも縛られていたが、肩の力を抜いても良いのかもしれない。

「奥さん、つきましたよ」
「ええ。参りましょう」

 今日は手元にクッキーはほとんど無い。それでも気持ちは吹っ切れていた。馬車を降りるとピカピカに晴れた青い空だ。

 夫の目とよく似た青空を見上げながら今はフィリスと一緒に庶民の女になろうと言い聞かせていた。

 そう、今は公爵夫人ではない。殺人事件を追いかける探偵?

 そう思うと、フローラの口元も美味しいクッキーを食べた時のように緩み始めていた。
 

4

 マムの地元・リーリア地方に降り立った二人は、まずは人の多い商業地区に向かっていた。

 商業地区に近くの広場には、百合の花を持った少女像もあり、庶民から親しまれているらしい。百合をモチーフにした雑貨や菓子なども多く売られていて、これで町おこしもやっているようだ。

「奥さん、見てくださいよ。百合のポーチやイヤリングとか可愛いです!」

 商業地区に入ると、百合の雑貨屋が目につき、調査も忘れて入店していた。時にフィリスは可愛い雑貨に目がないようだった。

「確かに可愛いわね。でもポーチなんてどうするの? 何個あっても仕方なくない?」
「いいんです! 買います!」

 可愛い雑貨を見ても一ミリも心を動かされていないフローラと違い、フィリスはたくさん買い物をしていた。もっともこうしてフローラに付き合ってくれているし、止めるつもりもない。

 その間、フローラは雑貨屋の女性客に声をかけた。もちろんマムの事を聞く為だ。フィリスのようの本来の目的は忘れていなかった。

 女性は三十代ぐらい。おそらく主婦だろう。雑貨屋の主人に子供を預けて遊びに来たなどと話していた。着ているものは地味だったが、生活に必要でもない雑貨を買っている所を見ると、生活レベルは低くはなさそうだ。所作もところどころ上品で、もしかしたら貴族のメイドをしていたかもしれないが。

「マム!?」

 その名前を聞くと、女性は嫌悪感いっぱいの表情を見せた。

「あの女、死んだのね。まあ、ざまあって感じ。まあ、マムはこの街であまりにも嫌われたから、家に閉じこもって引きこもりっぽい感じだったけどね。それで被害者ぶってぶりっ子するからもっと嫌われてけど」

 雑貨屋にいる他の女性客にも声をかけたが、誰もが似たような表情を見せた。見事に誰もマムの死を悲しんでいない。

「あのいじめっ子、死んで当然だしー。リッキーも死においやったっていう噂」
「リッキーって?」

 聞いた事にない名前だった。

「マムの元旦那さんよ。怪我して車椅子で生活してたけぢどね」

 あの元夫の事か。しかし、これ以上雑貨屋で聞き込みするのも怪しまれそうだった。会計を済ませたフィリスを引っ張って一旦外に出た。

「奥さん、次はどうしますか?」
「そうね。まあ、適当に聞いてまわりましょ」

 その後、商業地区のパン屋、菓子屋、豆屋、書店と聞いて回ったが、誰一人マムについて悲しむ人は居なかった。「死んで当然」とまではっきりと言う人も多い。想像以上にマムは嫌われているようだ。しかし、元夫のリッキーについては一同口が重くなった。噂ではマムがリッキーを殺したらしい。

「まさかマムが元夫を殺したんですかね? 奥さんはどう思います?」

 商業地区を出て、一旦広場に戻った。そこのベンチに座り、屋台で買った揚げドーナツを食べながら一旦休憩したが。

「まさか。いくらマムでも人殺しまでする?」

 揚げドーナツは甘いはずだが、そんな話題中に食べると、一気に胃もたれしそうだった。

「でも……」

 可能性としては多いにある。マムは実際、フローラにも脅迫状を送り、毒も持っていた。彼女が人殺しをしていたとしても、不自然ではなかったが。

「奥さん方、揚げドーナツを分けてくれんかね」

 その事で話し込んでいる最中、ホームレスに声をかけられた。もう初老ほどの男だったが、痩せ細り、着ているものもぼろぼろだった。

「いいわ。あげるわ」
「いいんですか、奥さん」
「いいのよ」

 ホームレスは涙目になりながら、感謝していた。

「ああ、神の思し召しだ!」

 演技がかった感謝しているホームレスを見ていたら、違和感を覚えた。フローラ達の前から去ると、また似たようなパフォーマンスをし、煙たがれている。

「乞食の演技気持ち悪いなー」
「本当は金持ちの癖に演技してるんだよ、わざとらしい」

 広場にいる他の庶民達は、そんな噂もしていた。ホームレスに見えたあの男は、演技だった?

「フィリス、あれ演技だったの?」
「そうですよ。田舎にはよくいるんです。戦争帰りの軍人も、片腕がない〜とか泣いて物乞いしているのは、よく見ましたから。奥さん、外見だけが弱い人は案外したたかかもですよ? そして本当の弱者は助けたい姿してないらしいです」

 フィリスはゲスい目をして笑っていた。

「そんなもの?」
「そうですよ。奥さんは公爵夫人ですから知らないと思うけど、人間って案外したたかです。悪いヤツなんて田舎に山ほどいますよ。ルールが通用する貴族社会と違うんです」

 何か穴だらけだったパズルのピースがはまりそうな感覚がした。

 マムの夫も事故で車椅子になったと聞いたが、これも何かのピース?

 夫は「自分が弱者になったら見捨てるんだろう」とも言っていた。弱者とは一体?

「さあ、フィリス。揚げドーナツばっかり食べている場合じゃないわよ」
「えー?」
「まだまだ聞き込みを続けるわ」

 再び商業地区に戻り、自転車や家具屋やアクセサリーショップで聞き込みを続けたが。

「まあ、リッキーはな。あれはあれで、変な友達も多かったから」

 自転車の主人はタイヤの整備をしつつ、噂を教えてくれた。

「リッキーは本当に事故だった?」
「それは確かだよ。でも、なー。自殺はマムじゃないか。あいつだったら、殺しもやりかねないよ」

 もはやマムに評判の割さには驚かない。フィリスも苦笑している程だった。

「ちなみにリッキーの遺書を受け取った友達ってどこへ?」

 トマスから聞いた情報では、リッキーの友人は行方不明と聞いたが。

「それがずっと行方不明なんだよなー」
「どんな事でもいいの。その友達の特徴でも何でもいいから教えてくれる?」

 フローラはこれがパズルのピースの最後になるような予感がしていた。自転車の主人はフローラ達にも怪しみ始めたが、スケッチブックを持ってきた。

「まあ、俺は画家でも何でもないけどな」

 そしてスケッチブックに友人の顔をサラサラと描いていく。

「ご主人さん、上手じゃないですか」

 フィリスが無邪気に褒めると、主人は調子に乗ったようだ。筆を動かし、さくっと一枚の絵を完成させた。

「え、この人がリッキーの遺書を受け取った友人?」

 絵を見たフローラは、言葉を失いそうになっていた。そこにはよく知った人物の顔があったから。

「間違いないぜ。俺はこれでも画家を目指していたから。まあ、金がなくて自転車屋つぐしかなかったけど。今は王都で人気ある画家の絵を見るぐらいだよ」

 主人はそう言い残すと、仕事に戻って行ってしまった。

「奥さん、どうしたんです? そんなに意外な人物だったんですか?」

 フィリスの呑気な声も遠くに感じてしまう。

「え、ええ……」

 おそらくこの絵の中の人物が犯人だ。状況はそう物語っていたが、証拠は何一つない。もし、この人を犯人だと認めさせるのには、どうすれば?

 それは人を呪いで殺した事を証明するより難しそうだ。フローラは奥歯を噛み締め、この絵を睨みつけていた。

5

「私、犯人が分かってしまったかも」

 帰りの馬車の中、フローラの声は震えていた。犯人は分かっても手放しで喜べない。むしろ、犯人である証拠を客観的に証明するのは、とても難しそうだった。

「本当にこの絵とあの人が同一人物なんですか?」

 隣に座るフィリスもあの似顔絵を見ながら、目を丸くしていた。

「信じられない。奥さん、本当?」
「ええ。間違いないわ。リッキーの友人とあの人はそっくりだもの」

 フローラも似顔絵を見ながら、ため息しか出なくい。犯人が分かったのに、余計に謎が深まってしまった。しかし動機ははっきりと分かった。

「犯人はおそらくリッキーがマムに殺された事で恨みを持っていたのね」
「マムが殺したって本当ですかね?」

 フローラは首を振る。その証拠は今のところは無いが、犯人はそう思い込んでいるのは確か。

「きっとマムは車椅子生活になったリッキーが邪魔になったのね。マムが殺したとすれば」
「でも、でも。マムがリッキーを殺したという証拠はないですよ!」

 フィリスは必死に主張していた。マムもそこまでの極悪女である事を信じたくはないようだ。田舎者らしく性善説らすしい。

 一方、フローラはそうは思わない。貴族社会では人の悪意もよく知らされたし、実際夫は外面と家での様子に落差がある。それに不倫相手だ。不倫なんてしている女は倫理観が壊れているのだろう。殺人をやっていたとしても全く驚かない。夫の最初の不倫相手・ローズも犯罪に手を染めていた。

「けど、そんなのって。リッキーと犯人は深い仲だったんですかね?」
「分からない。貴族でも男色は多いですし、犯人が一方的に片思いをしていた可能性もあるわ」

 そう言いながら、フローラの腹の底は苦くなってきた。もし犯人が男色だとしたら見事な演技力だ。殺人や復讐ではなく、舞台上だけで演技力を発揮して貰いたいものだが。

「まあ、犯人が分かったのはよかったじゃないですか。あとは証拠です!」
「その証拠が大変よ。今はリッキーの友人とあの人が同一人物である事が分かっただけ。殺人の証拠ではないのよね」

 フローラはため息しか出ない。この事件を解決しないと、結末は喜劇にならない。それなのに、どんどん悲劇の方に突き進んでいた。一体どうすればいいのか。

「奥さん、思い詰めないで。探偵の父に連絡とります。何か協力してくれるかも知れませんよ?」
「ありがとう、フィリス」

 今は隣にいるフィリスの明るさに助けられていた。犯人が分かったのに、さらに事件が複雑である事が発覚し、全く喜べない状況だったが、落ちこでいるばかりではダメだろう。

「それにしても何で犯人はマムを殺しちゃったのかしら。生かしておいてくれればよかったのに」
「え? 奥さん、マムが死んで嬉しくないんですか?」

 チラッと馬車の窓を見ると、貴族の屋敷や公共施設が見えてきた。もうそろそろ都に近づいて来たのだろう。空はまだ夕暮れではなかったが。

「ええ。マムはもう二度と私に謝罪する機会がなくなった。嬉しくないわね、憎い不倫相手が死んでも全く嬉しくない」

 フローラは無表情だったが、その黒い瞳は影があった。

「マムが死んだからと言って別に夫の心が返ってきたわけでもないし」
「昨日家に帰って来たじゃないですかー」

 フィリスは子供っぽく頬を膨らませていたが、全く笑えない。夫が帰って来たのは偶然の産物だ。マムが死んだからって別のフローラが夫に愛されている訳でもない。

「虚しいわ、不倫相手が殺されるのって。ちっとも嬉しくない。だったらマムも子供産んで幸せない家庭でも築いて、その時に不倫の罪悪感に苦しんで貰った方がマシよ……」

 気づくとフローラの目から涙が溢れていた。マムの死は、みんな「ざまぁ!」という態度だったが、今はフローラは悲しんでいた。もし生きていたら、不倫の罪の重さも実感する事もできたらだろうが、今はその機会も永遠に失われてしまった。つまり、死に逃げだ。これには自然と涙が出る。

 確かにマムが死んだ時は、せいせいした。憎い女が死んだ。最初は嬉しいだろうと思ったが、実際は全く幸せじゃない。今は死に逃げされたような不快が残る。

「奥さん……。思い詰めないで」
「ええ。大丈夫よ」
「だったら尚更犯人を見つけないと。マムが反省する機会を奪った犯人を牢屋中へぶち込みましょ!」

 フィリスの明るい声を聞きながら、フローラ涙も止まってきた。

 そうだ、今は犯人のマムを殺害した事を証明しなければ。泣いてる暇はない。犯人が分かったのなら、後は証明するだけではないか。

「ええ。今は一番犯人が憎いわ。必ず捕まえて白警団にぶち込みます!」
「奥さん、庶民の言葉も板について来ましたね!」
「もう心は庶民派よ」
「いやだ、奥さん、公爵夫人である事は忘れないでくださいって。案外おもしれー女ですよ、奥さんは」
「私、つまんねー女じゃない?」
「十分おもしれー女です。愛人を調べていくうちに殺人時事件に巻き込まれ、あげく犯人まで捕まえたら? つまんねー女にこんな事は出来ませんよ。強かな人じゃないと出来ません!」

 フィリスの明るい声を聞きながら、フローラの涙は完全に止まっていた。

 昔は夫に「つまんねー女」と呼ばれる事に劣等感も持っていたが、今はそんなものは消えてしまっていた。マムの恋愛テクニックを上部だけやった時は、夫に馬鹿にされたが、今ではそんな小手指は二度とやらないと決めた。

 フローラは背筋を伸ばし、まっすぐに前を見た。

「ええ、この殺人事件にも夫の不貞にも私は負けない。負けたくないわ」

 そう宣言した直後だった。気づくと公爵家の門前まで馬車が着いてたが。

 馬車の窓からゴシップ記者もトマスが彷徨いているのが見えた。どうやら公爵家に用があるらしい。

「トマス、あなた何をやってるのかしら?」

 馬車から急いで降りると、トマスの服を掴んだ。一度は釘を刺したが、またゴシップ記事を書くつもりだろうか。

「そうですよ、あれだけホテルで豪遊したでしょ。何やってるんです?」

 ワンテンポ遅れてやってきたフィリスもトマスを睨んでいた。

「ち、違うって。俺は奥さんにとっておきの情報を持って来たんだ!」

 女二人に囲まれ、トマスはタジタジになっていたが、メモ帳を取り出し、口ごもっていた。

「とっておきの情報? 何? 言いから全部教えなさい」
「奥さんの言う通りです! その情報ってなんです?」

 トマスは咳払いをし、勿体ぶりながらも教えてくれた。

「エルが怪我をして入院中だ。大きな怪我とか。なんか、誰かに襲われたらしいけど、なぜか王宮でも極秘で、身分を隠して入院中だ」

 エルが入院? 

「王宮でも極秘? あんたよく分かったわね」
「おお。奥さんにはホテルで豪遊させて貰ったし、恩返しだぜ」
「あんた、いい奴じゃん!」
「俺は仁義を通す男よ」

 フィリスとトマスのふざけた会話を聞きながら、フローラは黙り込んだ。

 おそらくエルを襲ったのも犯人と同一人物だろう。もしかしたらエルから犯人の証拠を見つけ出す事も可能?

「ありがとう、トマス。エルが入院している病院はどこか分かる?」

 フローラはニッコリと微笑み、一番知りたい事を聞いていた。

6

 包帯をグルグル巻きにされ、ベッドの上で唸っているエルは、限りなく情けなかった。

「痛いよ、看護師さーん」

 涙目で看護師を呼ぶ姿は、子供のようにも見えたが、一ミリも笑えない。

 あれからフローラはトマスに教えて貰った病院へ向かった。王族御用達の病院で、一般庶民はまず入れない。王都の南部に位置し、公爵家からも徒歩で行ける距離だ。見た目は普通の病院と変わりはないが、入るのには身分証明書の提出も必要らしいが、フローラは公爵夫人という事で顔パス。一緒に来たフィリスとはここで別れる事に。公爵家に帰し、今日の調査結果を愛人ノートにまとめるよう指示しておいた。

 そしてエルのいる個室に向かったが、想像以上重症だったが、意識はあるよう。看護師を呼ぶぐらいなので、頭は正常らしい。

「情けないわね。意識があるのなら、たいした事はないのでは?」
「いやあ、痛いよ! どうしてこうなった!」

 エルはベッドの上で泣いていたが、どう見ても自業自得。顔も傷だらけだったが、命が助かっただけでもマシではないか。

 呆れてしまうが、ベッドサイドにあった椅子に腰掛け、犯人の名前を言ってみた。

「ぎゃー!」

 エルはこの名前に明らかに怯えていた。子供っぽい顔立ちが、さらに幼く見え、フローラはため息しかつけない。

「あなたに怪我をさせた犯人も同一人物?」

 フローラはエルの目を覗き込み、はっきりと聞いた。

「し、しらねーよ!」

 エルは目を逸らし、窓の外を見ていた。もう夕方になり、空の色もオレンジ色に変化していた。カラスの鳴き声も窓の外から聞こえてきたが、まるでエルを小馬鹿にしたような響きだ。

「どこで怪我したの?」

 単刀直入に聞いてもエルは口を割らないと判断し、遠回しに質問する事にした。

「家の近くの階段で……。歩いてたら襲われて落ちてしまった」
「そう、大変だったわね」

 言葉とは裏腹にフローラの視線は冷たい。

 おそらくエルは犯人を知っていた。知った上で、マムを呪い殺したなんて宣伝し、地位と名誉もゲット。その上で犯人を脅して金品も奪い、逆上されて襲われた。フローラの推理はこうだが、筋は通っているだろう。最初はフィリスが言いはじめた推理だったが、的外れではなかったようだ。田舎娘だと思っていたが、単なるバカではなかったらしい。むしろ田舎的野生のカンというか、公爵夫人のフローラには思いつかない発想がある。

 今までずっとお上品な貴族界隈にいた。まさか犯人を脅していたとは、思いつかない。田舎娘のカンは侮れないかもしれない。

「あなた、犯人をどこで知った?」
「し、知らねーよ!」
「誰にも言わないわよ」

 信じて貰えるかは不明だが、この事は白警団に言うつもりはなかった。今だにエルの呪いを証明しようとしているコンラッドを見てから、もうあそこに頼る気は毛頭もない。

「本当に言わないか?」
「ええ。あなたが捕まったら、ドロテーアやローズなど夫の元愛人が呪えないかもしれないじゃない?」

 そう笑って言うと、エルは口ごもり、舌打ちまでしていた。フローラがこんな事をいうのは意外だったのだろう。

「俺はマムが憎かった。何かボロが出ないか、あいつの後をよくつけてた」

 無機質な病室だったが、エルの声は熱が籠ったように響く。よっぽどマムが憎かった事は理解できた。

「公爵もマムもあっという間に深い仲になってたぜ。公爵はマムのことを『おもしれー女だ』って盛り上がっていた」
「知りたくもない情報教えてくれてありがとう」

 皮肉のつもりだが、エルは言葉通りに受け取り、夫とマムがフローラの悪口で盛り上がっていた事も教えてくれた。

「マムのやつ、奥さんの事をブスとか言ってたな」
「そんな情報はけっこうよ。それで、あなたも犯人を知ったのね?」
「ああ。あいつもマムの事すごい睨んでたから。まあ、演技派だよな。俺の前ではフツーに話しかけてたりした」

 これで確定した。犯人はあの男に違いない。今のところ物的証拠がないが、エルの証言で犯人だと証明できる?

「マムが殺されたと聞いてピンと来たね。あいつが犯人だって。だったら俺の名誉も上げつつ、犯人を脅す事も思いついたわけさ」

 頭を抱えそうになる。エルは無能だと有名だったが、浅知恵はかなり回るようだ。確かにマムを呪い殺したと言えば、自分の名誉を上げつつ犯人の弱みを握って脅すことも可能。ついでに白警団の捜査も撹乱する事も出来る。

「でも脅しは、そう簡単にいかなった。犯人に逆上されて、こうなったわけね?」

 エルは頷かない。再び目を泳がせ、窓の外を見ていたが、否定しないという事は、フローラの言葉が事実なのだろう。

「はあ、犯人を脅すなんて。よくそんな事が思いつきますね……」

 呆れてもくるが、希望もある。ここでエルが白警団に全て証言すれば、事件は解決だ。

「いや、証言なんてしねーから」
「は?」

 フローラは白警団の証言するよう頼んだ。公爵夫人という身分では屈辱的だったが、頭を下げ、お願いしたのに。

「あなた、犯人に怪我までさせられているのよ。確かに脅しは罪だけど、今自白すれば、罪は軽くなるはず」
「いや、言わん!」

 エルはなかなか頑固だった。

「だって俺、女王様から専属にならないかって依頼受けたし。ここで屈する訳にはいかないよ」
「え、女王?」
「そうだよ。あの女性も国王に浮気されてるからな。不倫女を呪い殺してくれって依頼されちゃったよ。はは」

 まさか国王が不倫し、女王もサレ妻だったとは。だからエルは王族御用達の病院に入院させら、身分も守られていたのか。

「そんな、証言する気はないって事?」
「ないね。俺はこのビックチャンスを逃したくないのさ。例え死にかけてもな」

 もう呆れてため息しか出ない。女王がサレ妻だった事も、どうでも良くなってきた。

「で、あなた呪い出来るの? 出来ないんだったら、自白した方が今後の為にいいんじゃない?」
「嫌だ! 俺は絶対女王と専属契約して一流の魔術師になるんだよ!」

 これはどうすれば良い?

 この様子ではエルの口から犯人について証言させるのは難しいだろう。女王がバックにつかれてしまったら、エルの罪も揉み消される可能性もある。それは犯人を永遠に捕まえられない事を示しているようで、フローラの指先は震えていた。

「もう、おまえ、帰れ! 看護師さん、お医者さん! 不法侵入者がいます! この女を追い出してください!!!」

 病室に医者や看護師が入ってきて、フローラはあっという間につまみ出されてしまった。

 エルに犯人について証言させるのは無駄だろう。それどころか揉み消される可能性も高い。

「困ったわ……」

 エルと話していた時は、冷静だったフローラだが、今は頭を抱えていた。

 もう犯人はフローラが捕まえるしか無いようだった。
 


次回・7話
https://note.com/chisio777/n/nf889f3007d7f

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