【短編小説】少し辛いタマゴサンド
推しがおすすめしているタマゴサンドを買ってきた。推しの経済効果か、サンドイッチ専門店には行列もでき、買うのには苦労したが、ようやく手に入った。
帰り道、近所の公園に寄って食べることにしよう。小さな公園だったが、桜は満開だ。子供のはしゃぎ声が響き、春風が吹き抜ける。桜の花びらが踊っていた。
ベンチに腰掛け、タマゴサンドの包みをあける。鮮やかな黄色が目につく。桜の花びらにも負けない鮮やかさ。
まずは一口。だし巻き卵の甘み、けっこう強い。それをやわらかなパンが包んでる。もぐもぐと咀嚼して飲み込むと、舌がピリっとした。カラシが隠し味に使われているらしい。少し辛いタマゴサンド。
わたしは俯きながら、このタマゴサンドを咀嚼していた。もぐもぐ、もぐもぐ。意外とボリュームがあるタマゴサンドはちっとも減っていかない。
「あぁ」
ため息が出た。子供の笑い声にかき消されてしまったが、本当はタマゴサンドを食べている場合でもないんだ。
推しに人生を注ぎすぎていた。大学の勉強も手がつかない。気づくと貯金もすり減り、親に金の無心もして叱られたばかりだった。
友達も引いていた。特に同じ大学の立花水穂は「推しとかほどほどにしなよ」なんて怒っていた。
残りのタマゴサンドを齧りつく。甘いのに、柔らかいのに、なぜか辛さが舌に残って仕方ない。
水穂にはイライラして連絡も経ってしまったが、今思うとなんら間違ったことは言っていなかった。わざわざわたしのために耳の痛いことも言ってくれたと思うと、さらに俯いてしまう。
また春風が吹く。桜の花びらが舞い、子供の笑い声がやけに耳がつく。
残りのタマゴサンドをなんとか咀嚼し、完食した。舌に残った辛さも、今は必要だった気がする。
「もう帰るか……」
顔をあげると、まだ桜の花は全部散っていない。今ならまだ間に合う気がする。
「推し活も今は休もうかな……」
小さな呟きは子供の声にかき消されてしまったが、お腹はいっぱいだった。
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