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木の杭を40㎝地中に埋める尺貫法で温泉を掘り当てたハナシ

高校入学して間もない春、40名を超えるクラス全員の生徒が担任に花壇の前に呼び出されてこう言われた。

「全員で協力してココの花壇に等間隔でこの杭を4~50㎝地中に打ち込んだら教室に戻れ」

木の杭が10本ほどと、重い金槌が地ベタには寝かせて置いてあった。
どうやら全員で、花を植える前の花壇の整備をしろということらしい。

「4~50㎝てどのくらい?けっこう埋める?」
「等間隔てどれくらい?」

皆が口々に言っていて埒が明かないので誰かが「巻き尺を取りに行くか」と言い出した。するとひとりの男子生徒が「巻き尺なくてもいけるいける」と言う。男子生徒は自分の掌を使い、埋める木の杭を広げた掌の親指から小指までで測り、尺取虫のように親指と小指をウニョとピッタリ合わせてもう一度親指と小指を広げて2回測ったら、こう言った。

「誰かボールペン持っちょらん?」
誰かが持ってたボールペンで目印を付けて彼は言う。
「ココだいたい40㎝」

私はその男子生徒を羨望の眼差しで見て聞いたね。
「なんでわかると?」
「指尺はだいたい20㎝」
「なにそれ?!」
「尺貫法。身体尺」
大工や左官が使っている長さの単位と目安であると言う。
親指から小指までの長さは男性であれば約20㎝で、コレを指尺と言うらしい。彼はバイト先でこの身体尺を棟梁に教えてもらったという。

高校は基本的にアルバイトは禁止していたが、経済的困窮が認められれば働くことは可能だった。彼は母子家庭だったので建築業のアルバイトをしていたのである。

両手を広げた時の指先から指先までの長さの単位は「ひろ」だいたいその人の身長と同じくらい。掌の下から中指の先までが「あた」約18㎝。親指以外の4指を揃えた時の掌の幅は約8㎝この単位が「つか」丈3m、尺30㎝、寸3㎝、分3㎜、貫3.75㎏、厘37.5㎎…日本にもあるんだよ…ポンドやヤードみたいなメートル法にするとよくわかんない中途半端な単位。
メートルで言っちゃうとややこしいんだけど、尺貫法は直感で「あぁ!」てなる感覚のモノやから。カラダが覚えてるみたいなコトやから。身体尺はまさにカラダで覚えてるモノの長さなの。

現在でも引き続き使われてる尺貫法あるで。

真珠なら匁3.75g、日本酒なら合0.18L、醤油なら升1.8L、油や塗料なら斗18L、食パンの1斤なら400g前後。一升瓶とか一斗缶とか聞けば「あぁ!」てなるでしょ?

彼の身体尺を目安にして、私たちは杭を地中にガンガン打ち付けた。
すると地中から勢い良く水が吹き上がった。

彼の尺貫法の知識を持ってしても、花壇の地中に水道管が埋まっていることまでは測れなかったようである。業者が呼ばれ、授業が潰れ、背が高かったのでたまたま木槌を振りかぶっていた男子生徒は、豪快に水道管を破裂させた功績が認められ、しばらくその称号は「オンセン」だった。

「オンセンてさァ…なんでオンセンて呼ばれてんの?」
クラスメイトがオンセンと呼ぶので私も呼んでいたが、その命名がピンと来てなかったのだ私は。
「あぁ…ほら。花壇で。温泉吹上げて掘り当てたじゃん?オレ」
「あったなァ確かに!温泉吹上垂れ流したねぇ~窓割ったら弁償だけど、水道管破裂て弁償すんの?」
「いや?せんでよかったじ?労災?」
「オマエは無事じゃろが」

単位もアダ名も、いろいろあるもんである。

現在の学校教育では、クラスメイトをアダ名で呼んではいけないというルールが存在したり「ちゃん」や「くん」が性別を限定しているという議論までされ「さん付け」に統一して呼び捨て禁止もあるようだが、私の故郷、宮崎ではクラスメイトはおろか親族、自分の親でさえも、全員がアダ名で呼び合っている。

大人になったクラスメイトがメッセージで「鈴木一郎ですが…」とフルネームを名乗っても「え?誰?鈴木一郎て?」となり「アダ名なんやった?」と乞われ「ビンちゃんです」とアダ名を告げた途端、警戒していた奴らが一斉に「ひさしぶりビンちゃ~ん!」「誰かと思った~ビンちゃんか~」「ビンちゃんて鈴木一郎だったんだ~」「ビンちゃん今どこで何してる?」と盛り上がる。表示名をアダ名にしといてくれないかと思うほどアダ名のほうがスムーズに認識できるのだ。

オンセンというアダ名で浮かぶ、色白で背の高い彼の水道管破裂事件。
労災が降りて弁償せずに済んだ彼の笑顔までもがセットで思い出されるが、彼の名前は一切、出て来ない。

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千徒馬丁 サポートをしていただいてもいただかなくても文章のクオリティは変わらない残念なお知らせをしますこと、本当に残念でなりません。 無料の記事しか公開しませんのでいつでもタダで読めます。 この世にはタダより怖いモノはないらしいので記事ジャンルはホラーてことで。