ホンモノのスピ系は盲目じゃない~オーブや人魂の正体
「おぉウマ、あっこ見てみろホラ」
ジープの助手席に乗る中学生の私に父は、公民館前の地蔵堂を指差した。

祠の横に植えてあるソテツの後ろから煙のような、白っぽい糸状の何かが、2筋ほどプスン・プスンと上に伸びて直ぐ消えた。

「なにあれ?」
「見たか?人魂の正体ぞアレが」
「あんなか細いの?人魂て?想像してたのと違う」
「ウチのご先祖様やったらだいたい貧相やからあんなモンじゃろ」
「ご先祖様見逃すばい」
「この辺はまだ肥料に鶏糞やら豚糞もつこちょんなァ」

35年前、稼業を手伝うのに山に向かっている時の出来事である。
「懐かしいのぉ~久々に見たわリン」
「リン?人魂てそんなカワイイ名前ついてんの?」
「糞の成分がリンよ、今は鶏も豚も飼料が昔とは違うから燃えんじゃろ」
「燃えるの?!」
「燃える…ちゅうか…燻ぶる、じゃな。ケム出るくらいには燃える、火はあがらんけどな。子供の頃に見て『人魂が出た~~~』て言うとばーちゃんが『アレはリンが燃えちょっとじゃが』ちゅうて。そういうことを教える老人もおらんくなったのぉ」
父は養鶏家。
情け容赦無い変人の父は「オマエが一番使える」と言って兄でも弟でもなく女子中学生の私に、養鶏の仕事をよく手伝わせていた。
街中のゲーセンよりも山奥の木登りのほうが私を魅了していたので、私も父親の血を引くソコソコの変人である。
霊がいないとは私は思わない。
化学で説明できない出来事に「虫の知らせ」とか「予知夢」とかがあって、それらを実体験として経験しているから、可能性として「ない」とは言い切れない、とは思う。
ご先祖様の霊に守られて、今日が無事だと思いたい。
しかし、オーブや人魂は霊じゃねぇからな~とは、思ってる。
盲目ではないのよね~ソコまで矢追系じゃないの。
昭和人ならわかるかなァ~矢追のおっちゃん矢追純一UFO界のレジェンド。
あそこまで飛び抜けてエンターテイメント化はしてないし、スピリチュアル系とかゆ~よりはもっと地に足を付けてるっつ~か「単に本能だからな」て思うから、いたって現実的。
私は「本能の民」て呼んでんだけども、高額な金が絡んでなかったらホンモノだよな、て思うタイプ。私にとってはオーブや人魂は「霊じゃない」て言ってる人が、ホンモノ。霊感商法が横行するほどスピ系てニセモノが多いからねぇ。霊よりも人間のほうが信じらんない。
盆踊りの踊り子である私は、毎年のようにオーブ出まくりの心霊写真を撮ってしまう。だって提灯のぼんやりした光量しかない夜の櫓で写真撮れば、まァそうなるよね~てカンジやもん。

いくら盆踊りが先祖供養たって、そんなに先祖の霊が写真を撮る時だけ大集合して寄って来るとは思えないもの。どんだけシャッターチャンスを逃さんのだよご先祖様たち。文明に映える反応を霊がするとは思えないけどな。
性能が良いスマホの動画にだってバリバリ人魂が写り込み、毎年音ズレが発生してる。霊障なんかじゃないよ、カメラだからだよ。音がズレるなんて、スピーカーの位置でいくらでも起こってるよ毎年。
「声が自分の声ではなくなって…」てな現象も電子機器ならあるある、てなもんで。電気信号や精密機械なんてバグだらけやん?心電図なんて健診で引っ掛かってしょっちゅう「要精密検査」とか出るけど、医療機関でやり直すとだいたい機械のほうがおかしくて人間のほうは何の問題もないよね。
不可解なことが何でもかんでも霊の仕業てコトじゃないと思うのよ。
ある条件が揃った時のみの稀な現象が起こってる、てコトが不可解に感じることの大元だと思うんだけども、それを察知できるのが「本能」で、それって「危険」なことが多いんだと思う。本能てね「命の危険」を察知する能力。それが「本能」の機能なんだけども、たまに「本能のおこぼれ」みたいなコトで、本能の民の周りでは稀な条件が重なり易かったり、本能で生きてる動物が集まってきたりするわけよね、本能的に。
本能に長けてる人間のほうが無駄な殺生をしないのを、動物は本能的に知ってるからだよ。だからより安全な本能の民のほうに寄って行くだけ。それを見て他人は「あの人は持ってるね」て言うの。
「持ってる」んじゃない「捨ててない」んだよ。本能を捨ててない。つまり文明を持ってない。文明に慣れずに本能で生きてる、運とカンだけで生きてる人、スマホ持たずに山奥で自給自足してる、そういう人のことだよ。
本能を持ってた方がずっと暮らしやすいからそうしてる人。
私は宮崎から出て関西で暮らして文明を活用する「本能の民」なので、スピ系でやってるパワースポットだらけの宮崎には滅多に帰らない。だって本能で生きると疲れるんだもん。文明のほうがなんぼかラクやで。
だけど私はほんのちょっとのラクでいい。自分都合のラクがあればそれでいい。LINEを速攻で読んで速攻で返すような、そこまでの文明は逆に疲れる。LINEを見ない電話に出ない「持ってるだけ」の状態を怒られる度に「スマホいらんくね?」と思うが、7月と8月の外出時にだけどうしても必要なので解約せずにいる。
このように、限定的な文明しか活用しないので私にはまだ「本能」が残っている。だから運とカンだけで生きている。
父が70歳を超えた頃「そろそろ引退を考えて動く」と言うので、養鶏業の色々な手続きを経るのに一番使える私が関西から呼ばれた。兄も弟も宮崎に居るのに後を継がなかったので信用が無いらしい。
弟は「姉ちゃんが継いでこっちで人雇って社長業やれば?」とか簡単に言っていたが、生き物の飼育を舐めんなよ?24時間体制で鶏のコト考えてなきゃ養鶏なんて成功しねぇぞ?父親を見てみろ、明けても暮れても頭の中ピヨピヨや、イカレとる。
早朝すぎる4時に鶏舎に行く父とは違い、怠け者の私がタラ~と9時や10時に姿を現すと、じんわりと私を眺めて、父が言う。
「オマエはよぉ…相変わらず変人やのぅ」
「どのクチがゆぅとんねんジジィ…自分のコトは棚に上げくさりやがって」
「オマエが帰って来るとヘンな事が起こるわ、はよ帰れ?オマエがおると天変地異が来てのさん」
「フザけんな!ジジィが呼びつけて帰って来とんのんじゃ」
「オマエな?2号の前に行って見て来い、淘汰したからもう死んでると思うけど、珍しい奇形の鶏がさっきまで生きてたぞ?あの状態でウチまで届いて今日まで生きてた、てのは初めてじゃ。たいがいヒヨコで弾かれるからウチまでは来ん。たまに漏れた奇形が来るけどたいがい運搬中に死んどる。長く養鶏してるけど、生きててあれほど完璧な奇形はなかなか出らんぞ?養鶏家なら参考に見とけ」
「養鶏家ちゃうわい、一瞬もやろうとしてねぇわ養鶏」
(貴重な奇形なので画像を載せます。心臓の弱いかたは絶対に見ないでください。何があっても自己責任ですよ)
【閲覧注意:グロ画像】
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ケンタッキーが品種改良した4本足の鶏を使ってるみたいな都市伝説のデマがあったけども、ブロイラーのニワトリてのはねそもそも人工物なんですよ、人間が食べるために作ってます、自然に放っても鶏舎に戻って来るで、家畜化されてるからエサを食べるためにわざわざのこのこ戻って来るんだよ、もともとが野生じゃないから世話する人間がいなかったら死ぬよたぶん、死にたくないから逃げた鶏も養鶏場に戻って来る。
3キロ超えたら出荷されて食肉となる、それを全うしているのがブロイラーの鶏なんでね。
こんなコトを養鶏家がクチにすると「人間はムゴい」みたいな意見が出るけどね、食肉として飼育した以上「食肉として無駄にしない」ことが人間の責任じゃねぇのか?「かわいそう」てのは無責任な感情だと思う。
養鶏場から逃げた鶏を見たら専門外の人は「かわいそうだから自然にかえしてあげよう」と言うだろう。
実際にそう言った人に父は「1週間もせんうちに自然から逃げ帰って来るわ、ココにはエサがあるていうコトを自然から学んで賢くなって帰ってくるぞ逃げるほどアホな鶏でも」と教えて、かわいそう目線の人を絶句させていた。逃げた鶏はあっけなく2日で帰って来たよ。
ブロイラー用の人工鶏が「食肉」にならないほうが「かわいそう」なことになる、いろんな意味でね。
人工物の鶏てのは奇形が出る。殆どの個体が死ぬので、鶏にまでブロイラー飼育する養鶏場に奇形のヒヨコが出荷されることは無い。ヒヨコは選別を経て養鶏場に入雛されるんだけども、その時点で奇形は生きていても弾かれる。たまにチェックから漏れた奇形がまぎれてることはあるんだけども、カゴに入れて飲まず食わずで生きた鶏を運搬してる間に、奇形は死んじゃうのよ。普通の鶏だったら飲まず食わずでも余裕で生きてるんだけど、奇形は個体としての生命力が弱いので飲まず食わずではたった1日のストレスにも耐えられない、鳥類はストレスに弱いんだよ。
死ぬとわかっている個体をカウントして運搬したら無駄なコストになるわけ、だからヒヨコの選別の時に弾いてる。
「食肉」だということを頭に置いてるのが、プロの仕事。
専門知識て、無駄を排除するための知識なんだから。
鶏の飼育をする養鶏で、人工的に人間が関与してるのは「生きる」ことじゃない。生きるのは鶏が勝手にやってる。人間は「死」に関与してんだよ。
本能てのは「死を悟る」能力として備わってる。
だから生き物を扱う職業に就いて、それが向いてる人間なら「本能が廃れない」のは当たり前。動物の死をイチ早く悟って対処しないと、仕事にならん。莫大な損害を被ることになるんやから。
養鶏の損害額ていくらだと思います?
「鳥インフル」つってニュースで見るでしょ?食肉用ブロイラーの鶏にも規定がございましてね、出荷停止になった場合、ウチ父親ひとりの個人経営ですから規模としては小さいわけですが、マイナス700万です。
2か月間の生活費ゼロな上に、次の飼育の費用すら借金しなきゃいけないことになりますのでね、養鶏で損失を出してしばらく赤字経営をやると借金額は年内かる~く1000万超えてきます。ハイリスクな業種ですからね、本能を研ぎ澄ませて就かないと、とんでもねぇことになっちまう。
「一旦ウチに帰って昼寝してから夕方に仕事しよか~」
「宮崎は相変わらず昼休憩が長いのぅ~海行って溺れてくるわ~」
先に自分の車で鶏舎を出ると、後ろからついて来ていた父がけたたましくクラクションを鳴らすので急ブレーキをかけた。後ろの父を見るとジェスチャーで「車から出ろ」と大きく腕を振っている。
「何?」
「オマエ気付かんとか?今オマエの車の下に、日本固有種の亀が歩いて入って行ったぞ?絶滅危惧種とかじゃねぇか?その亀たしか」
「えぇ?!なんでそんな亀がこんなトコに?!」
「おることはおるとよ、ただ滅多に姿は見らんからな。ペットショップのヤツが探しに来るけど一日中おっても見つけきらんとぞ?オマエは…目にも入らんのやな?高いぞ?その亀」
「へぇ~宮崎おる間のペットにするか~」

「野生てペットにはならんのやな」
何を与えても野生の亀は食べなかった。
ペットの何が楽しいて、エサ食べさせるトコやんな。
つまらないので山にかえしたよ、エサ食べないと死んじゃうだろうしね。
高く売れたかもしんないけど、こういう本能の引き寄せを金に換えるとロクなことになんないからね。本能が鈍るんだよ、高額換金てのをすると。
それを頭に入れておくと、霊感商法に騙されないで済みますよきっと。
宮崎に帰郷する機会があるから本能を捨てずにいたけども、私はもう本能を捨ててもいい人間である。父親が養鶏を引退したからね。
なのに私は今日も、LINEを見ず電話を取らないので、怒られている本能の民である。
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