阪神ドラ1・立石正広を育てた“見えない力”――丹波の地に繋がる不思議な縁、虎の未来を担う立石正広、そのルーツは丹波にあった、川越透が語る知られざる物語

【ノンフィクション・コラム】
虎のドラ1・立石正広 藤川監督が覆した「投手補強」の掟と、丹波に宿る母の遺伝子
――川越透が語る、球界の裏側と19人の侍たちへの熱きエール
文・ちとく魂
「プロの世界は体が資本。怪我をしない体、そして怪我からどう這い上がるか。それが一流への絶対条件だ」
雨上がりのグラウンドを静かに見つめながら、川越透は力強く語った。プロ野球界の深い人脈を持つ彼が、今、最も熱い視線を注いでいる選手がいる。阪神タイガースの超大物ルーキー・立石正広(たていし まさひろ)だ。
大学野球(創価大)で圧倒的な長打力を示し、世代ナンバーワンの右の大砲として鳴り物入りで入団した立石。すでに一軍の舞台でその片鱗を見せ始めている彼の指名には、球団の基本方針を覆す、藤川球児監督の強い意志が働いていた。

■ 「投手が欲しかった」球団方針を、現場の監督がひっくり返した
「実は球団フロントは、本命として投手の補強を考えていたという話がある」と川越は明かす。
近本光司、大山悠輔、佐藤輝明、森下翔太ら強力な野手陣をすでに擁する阪神。長期政権を見据え、投手王国をさらに盤石にしたいというのが球団の本音だったという。しかし、藤川監督は違った。
「どうしても将来の主軸となる、右の長距離砲が欲しい」——。
現場の指揮官として、周囲の競合を恐れず、単独指名(実際は3球団競合)を敢行した。佐藤輝明の将来的なメジャー挑戦の可能性も視野に入れ、一歩先のチーム像を描いた英断だった。
「藤川監督は、選手として長く戦ってきたからこそ、わかるんだろうね。『今』だけでなく、『5年後、10年後』の阪神に必要なピースを、確信を持って掴んだんだ」と川越は分析する。

■ プロの洗礼と、松中信彦を彷彿とさせる「強すぎる体」
アマチュア時代は怪我知らずの強靭な肉体を誇っていた立石だが、プロの壁は想像以上に厚かった。入団早々の肉離れをはじめ、プロ特有の負荷と重圧が彼を襲う。
「アマとプロでは体の使い方が根本的に違う。ドラ1という期待の重さも、少なからず影響したはずだ」と川越。
かつての同僚、ダイエーで3冠王に輝いた松中信彦のように、爆発的なパワーと筋肉量を併せ持つスラッガーは、時にその「強さ」が仇となる。
「怪我で離脱すれば、すぐに次の選手が埋める。プロは残酷だ。でも立石には、それを乗り越えられる『血』が流れている」——川越の言葉には、確信があった。

■ 山口の神童を支える、丹波・強豪高校バレー部のDNA
そして、立石のルーツには驚くべき縁が隠されていた。
本人は山口県出身、父親はバレーボールのトップ選手だったアスリート。しかし、母親は兵庫県・丹波地方高校の出身。そして、その母親が育った強豪校こそ——現在、川越透が野球部を指導する強豪高校のバレー部だった。
「競技は違えど、本当に素晴らしい巡り合わせだよね。お父さんとお母さん、二人から受け継いだ超一流のアスリート遺伝子が、今、立石の体の中で花開いている。丹波の地と、こんな形で繋がるとは……」と川越は目を細めた。

■ 丹波の山あいから、奇跡を起こす19人の侍たち
原智徳総監督が掲げる「理屈ではなく、感情に火をつける野球」。そして教育実習生たちも感動した、のびのびと才能を発揮できる環境——それが今、高校野球部には確かに根付き始めている。
「立石選手のお母様がこの学校から巣立ち、世界を驚かすスラッガーの母となったように、部員19人の侍たちの中からも、必ず未来のスターが生まれると信じている。この丹波の豊かな環境と、素晴らしい子供たちとともに、日本一熱い野球をここから仕掛けていきたい」
川越透は静かに、しかし力強くうなづいた。
山口で育った一人のスラッガーと、丹波で汗を流す19人の高校球児。その距離は遠いようでいて、一本の見えない糸で結ばれている。
プロ野球のドラフト1位も、地方公立校の補欠選手も、最初から特別だったわけではない。

誰かが可能性を信じ、成長を見守り、挑戦を支え続けたからこそ今がある。
川越透が丹波の地で育てようとしているのは、勝てるチームだけではない。未来へ挑戦する人間そのものなのかもしれない。

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