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[ショートショート] 聖夜のなやみごと #片想い文芸部

 聖夜せいや。こんな名前を俺につけた母親を恨んでいる。

 クリスマスイブの夜に生まれたからってこの名はないだろう。せめて違う漢字!

 これがイケメンだったら様になるんだろけど…、俺だよ。まあ、中の上くらいか…自分で言うのも何だが…。

 おかげでホーリーナイトとかふざけたあだ名が常駐化しているし。何であだ名の方が言いにくいんだよっての。

光代みつしろ、ぼーっとしてないで手を動かせ」

 その声にハッと我に返る。目の前で同級生の守屋志保子が眼鏡の奥からこちらを睨んでいる。

 光代…それが俺の苗字。光代聖夜とかやばいだろう俺の名前。

 だけど守屋だけは俺のことを苗字で呼ぶ。ホーリーナイトとは呼ばないんだ。小さいころは「せいや」「しほちゃん」って呼び合う仲だったのに…。
 守屋は小学校の高学年くらいからすごくきつい性格になってしまった。思春期ってやつ? 思春期って人を変えるよね。

 こうして同じ高校に進学して二年生。また同じクラスなわけだけど、昔みたいに砕けた感じは俺たちの間には一切ないのだ。

 今日だってほら、文字通り師走でクソ忙しいという先生の手伝いで明日の資料のホチキス止めを一緒にやっているのだけど、まったく会話がない。

 たまたま日直だっただけだし、会話があるとしても、今みたいに守屋が怒って何か言うくらいだ。

「私、早く帰りたいんだけど」

「はいはい、ぼーっとしてすみませんね」

 俺が妄想をやめて作業に戻ると、守屋も下を向いてホチキス止めを再開した。

 俺は手を動かしながら、こっそり守屋の眼鏡の奥のまつげを盗み見た。

 認めよう。俺はこの子に惚れている。

 …うーん、小さい頃はそんな意識したことはなかったんだけど。中学に入ったくらいかな。あれ? もうこの子と前みたいに遊べないのかな…って思ったら急に気まずい気持ちになって、何か手の届かないところに行ってしまったような気がして、寂しいって思ったんだ。

 置いて行かれたような。守屋が先に大人になってしまったような。そんな寂しい気持ち。

 高校生になっても俺はガキのまんまだし、ホーリーナイトのままだし。俺…どうしたらいいんだろうな…。

 そんなことを考えながら手を動かしていたら、いつのまにかホチキス止めは終わっていた。

「ごくろうさま。じゃ、私、先生のところに持っていくから。先に帰ってていいよ」

 守屋が立ちあがりながら言った。

「あ、それじゃあ、俺が持っていくよ。重いだろう?」

「重くない」

 そう言ってプリントを抱えると守屋はさっさと教室を出て行ってしまった。

 なんだあいつ…もう少し頼ってくれてもいいのに…。そう思いながら俺は一度学校から出ようとしたが、なんとなくそのへんをウロウロして時間をつぶした。

 もしかしたら守屋が帰るところに遭遇して、一緒に帰る…とかあるかもしれないし。家は近所なのだから。

 いや、でも、一緒に帰るとか…何話せばいいんだ俺??

 俺は複雑な心境で、でもこのまま帰りたくないような気持ちで、学校内をフラフラしていた。

 そして、見てしまったのだ。

 守屋が知らない男子生徒と話をしているところ。

 それはどう見ても、男子生徒が守屋に告白しているシーンに見えた。

 俺は咄嗟に隠れてしまった。隠れる必要あるか? でも俺は隠れて聞き耳をたてた。二人の会話が聞こえて来た。

「守屋先輩。俺…ずっと守屋先輩に憧れてて…俺と付き合ってください!」

 なんだこのベタな告白シーンは。あれは一年か? 勇気あるなあいつ…。

 俺は守屋が何と返事をするのかハラハラしながら見守った。

「ごめんなさい」

 守屋はあっさりと男子生徒の告白を断った。

「そんな…先輩は好きな人いるんですか?」

 おい、こら余計なこと聞くな一年…。

「いるよ」

 がーん。

 告白一年はともかく俺も密かに撃沈したのであった。

「もしかして高田先生ですか? さっき親しそうに話してましたよね」

 高田? え、担任の?

「あなたには関係ないでしょう。もう帰りなさい」

 守屋は一年を軽くあしらってこちらに歩いてきた。

 無念…一年…と思ってちょっと覗き見たが、一年はなんだか嬉しそうな顔をして守屋の背中を見送っていた。
 なんだあいつ…変態なのか?

 そうして一年に気を取られていたら、守屋に見つかってしまった。

「何してるの? 盗み聞き?」

「あ、いや。たまたま遭遇しちゃって」

 俺は高田先生のことを聞いた方がいいのか少し迷った。しかし今聞かないと二度と聞けないと思い、思い切って聞くことにした。でないと一生モンモンしそうだったから。

「も、守屋って高田のこと好きなの?」

 守屋は無表情でこちらを見返した。俺はドキドキして答えをまった。

「さあね」

 守屋はあっさりそう答えると、少し微笑んだように見えた。気のせいかもしれないけれど、微笑んだのだ。その微笑みは俺を深く傷つけた。

 …守屋は高田のことが好きなんだ。あの色欲教師め…。

 高田先生は何も悪くないのに俺は先生を恨んだ。いや…確かに女子生徒に人気のあるイケメン教師だが。…ってゆうか絶対彼女いるだろう、あの先生。

 ハッ!まさか守屋がすでに彼女だとか??

「何ぼーっとしてるの? もう完全下校時刻だよ。帰ろう」

 守屋の声で俺は我に返った。完全下校時刻のチャイムがなった。

 俺は守屋と連れ立って駅へ向かった。

 俺は、守屋と一緒に帰っている。どうしよう何か話さないと…と思っているうちに駅についてしまった。

 一緒に電車に乗る。何か話さないと。

「さっきの男子、一年? 守屋ってよく告白されるの?」

 何言ってんだ俺…。だめだろうこの話題…。

 案の定、守屋にギロッと睨まれてしまった。

「ご、ごめん…」

光代みつしろはそういうこと気にしないと思ってたけど」

 無表情で守屋が言う。呆れたのかがっかりしたのか、怒っているのか…その表情からはわからなかった。

「いや…気にするし、普通に…」

 思わず間抜けなことを言ってしまった。それを聞くと守屋はなんと、クスッと笑った。

 は、鼻で笑われたぁ~!!

 くそ、俺はどこまで行ってもダメな男だよ。守屋に好いてもらおうなんて百万年早いのか…。

 ここで守屋の携帯がピロリんとなった。彼女はポケットから携帯を取り出すと、何かをチェックしているようだった。
 彼女の携帯の画面には横から見えないようなスクリーンが貼ってあって俺の位置からは全く何も見えなかった。

 メッセージ見てるのか? 誰とやり取りしてるんだ??

 俺は猛烈に気になってしまった。

 電車が駅につく。俺たちの降りる駅だ。

 改札から出ると、守屋は買い物があるからと言ってあっさり行ってしまった。

 俺はがっかりするやらほっとするやらおかしな気分だった。

 ジングルベルが鳴り響く商店街をとぼとぼ歩いていると、よぼよぼの爺さんに話しかけられた。

 何を言っているのかよくわからないが、郵便局を探しているようだった。
 郵便局なんてもう閉まっている時間だろうと思ったけれど、とりあえず連れて行くことにした。

 フラフラしていて危なっかしかったので、その腕を取ると突然電流のようなものが身体を駆け巡るのを感じた。

 びりびり痺れるような感覚。

 静電気? 何この爺さん、帯電体質??

 俺が焦っていると、爺さんの顔がゆがんで、明確にこう言うのが聞こえた。

「見つけたぞホーリーナイト。今度こそお前を食ってやる」

 どどどど、どうしよう、何かすごくクレイジーな爺さんに捕まってしまった!
 とにかく交番に助けを求めるべきか…。

 俺は爺さんの手を振りほどこうとしたが、よぼよぼのその手は俺の腕をがっしり掴んで離れない。

「光代を放せ! 邪気のクソじじいっ」

 突然後ろから声がして守屋が走ってくるのが見えた。

「ダメだしほちゃん! この人、なんか変だ! 警察に…!」

 そう言う俺を無視して守屋は老人に突進していき、あろうことか飛び蹴りを食らわした。

 老人は顎を蹴られて、後方にものすごい勢いで吹っ飛んで行った。

「だぁーーーダメだよしほちゃん、お年寄りを蹴っちゃ!」

「お前はバカか! あれがただの年寄に見えるのか?」

 守屋の指さす方を見ると、吹っ飛んだ爺さんはのそりと起き上がり、よだれを垂らしながらこちらを睨みつけているではないか…。

「何? 何あいつ…」

「邪気だよ。クソ…おとりを使うとは。こざかしい」

「ちょっとしほちゃん…状況がまるでわからないんだけど」

「お前は下がっていろ。あと私をしほちゃんて呼ぶな」

 俺は口を押えて後ろに下がった。いや、しょうがないでしょう。咄嗟に呼んじゃったし。このさいもう しほちゃんて呼ぼう…と俺はこんな時にも思ってしまった。

「小娘…ただ者ではないな…」

「私は守屋…ホーリーナイトを守護する者だ」

 守屋がそう言うと、彼女の頭から二本の大きな角がメリメリッと生えてきた。

 …ちょっとまて。ナニコレ夢?

 俺はこんな展開など予測できていなかったのでパニくって辺りをきょろきょろ見渡した。

 するとどうだろう。商店街を歩く人たちは全く普段どおりで、老人と女子高生が戦っていることなどまるで見えていないかのように平然と歩いて行くのだった。

 …見えてないのか…。

 ここが何か別の空間になっていることを俺は悟った。

「成敗ッ!!」

 そう叫ぶと守屋は老人へとびかかり、何度もその顔をグーパンチで殴った。ドスッドスッという鈍い音が響き、やがてそれはグチャッ、グチャッというとこに変わった。

 俺は耳を覆ってなるべく聞かないようにした。

 しばらくそうしてうずくまっていると、戻って来た守屋に身体を支えられて俺は立ち上がった。

 見ると老人はいなくなっていた。

「もう大丈夫。祓ったよ」

 守屋がいつもの真顔で言った。頭の角はなくなっていた。

 俺は角が生えてきた場所にそっと触れて「さっきの何なの? し、しほちゃん」と言った。

 それを聞くと守屋はほっぺを膨らまして「しほちゃんて呼ばないで」と言った。

 そのあまりの可愛さに俺の胸と股間がギュッとなってしまった。

「じゃあ、なんて呼べばいいの?」

「守屋って呼べ! ほら帰るよ」

 一瞬かわいかった守屋はまたいつもの守屋に戻ってしまった。だけれど、その守屋の手が俺の手を握ってひっぱっていた。

 もう僕の頭の中は守屋でいっぱいだ。どうしてくれる。

(おしまい)


ナルさんの『片想い文芸部』に参加します。

なんかいつもこういう展開になってしまうなwww

よろしくお願いします。


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