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[ショートショート] あざとい彼女の正体は - 片想い文芸部

 あざとい女は嫌いだ。スクールカースト上層部の女どもは仮面を被った小悪魔たち。

 仲良しごっこをしているだけ。ニコニコしながらマウントの取り合いだ。気分が悪い。

 特に海藤麗奈かいとう れな。容姿端麗、成績優勝、スポーツ万能、おまけに誰からも好かれる明るい性格…。あんな絵に描いたような優等生がこの世に存在するはずがない。

 女子も男子もあいつのあざとい計算にまんまと乗せられて入学してたった数週間ですっかり信者のようになってしまった。

 俺は騙されないぞ。できすぎている。

 いい子面してるけど、内心では俺みたいに地味で捻くれた性悪男子なんか教室のゴミくらいにしか思ってないんだろう?

「戸越くん」

 ほら来た。何で毎日俺に話しかけてくるんだ。

「ちょっと戸越くん」

 何だよ、“戸越みたいなやつにも普通に話しかける優しい私”ってか?私は見た目では差別はしませんってか? 残念だったな俺は性格もブサイクなんだよ。

「ねえ、戸越くんてば。今日、日直だよ。ゴミ捨て行こうよ」

「…なんだょ。ゴミにゴミ捨ての要求か?…ごにょごにょ」

「え? なに? よく聞こえないの。早く行こう。朝礼の時間になっちゃうよ」

「うるせーな、あっち行ってろよ」

「もう、戸越くんのバカッ」

「お、おい、や、やめ…」

 何を思ったのか海藤麗奈は俺の手を掴むとゴミ袋を持って歩き出した。

「何でお前がゴミ持ってるんだよ」

「だってゴミ捨てないと! ほら、さっさと終わらせよう」

 なんだこいつ。理解不能だ。ゴミなんか俺に押し付けておけばいいのに。まさか、そこまでして好感度上げたいのか!? 恐ろしいやつだ。

「かせよ」

 俺は強引に海藤麗奈からゴミ袋を奪うと足早に焼却炉に向かった。これで奴も大人しく教室に戻るかと思いきや、なんとそのままついてくるではないか。

「何だよ。もう戻れよ」

「いいじゃん。途中まで来たんだし一緒に行こ♡」

 一緒に行こ♡ じゃねぇよ。何なんだこいつは。俺にまで媚を売って何の特になるんだ? まさかクラス全員に好かれてないと気が済まないタイプか? 恐ろしいやつだ。

「つ、ついて来たけりゃ勝手に来れば…」

 俺は諦めて海藤麗奈をつれて焼却炉に行き、ゴミをぶち込んでまた教室に戻った。その間ずっと海藤麗奈は何か楽しそうに喋っていたが一つも頭に入って来なかった。昨日の小テスト難しかったね、とかそういう超絶どうでもいい話だ。

 俺は適当に返事をして何とかやり過ごした。

 マジで何なんだこいつっ!!

 こんな調子で海藤麗奈は誰にでも愛想良く親切で明るく接していた。クラスの中で完全にぼっちになっている俺にまで親切にすることで、いい人判定を期待してるのだろうけど逆効果だぜ海藤麗奈。

 俺は嫌われているからな。俺に話しかけてるとお前まで嫌われちまうぜ。

 そんなこんなでいつものようにクソつまらない午前の授業を終え、コソコソと食事し、午後の授業はウトウトしながら何とかやり過ごし、やっとのことで放課後になった。

 部活をやっている連中はそれぞれの練習場所に向かい、俺のような帰宅部はそそくさと家に帰る。

 海藤麗奈は一年生ながら生徒会で活発に活動しているので放課後は忙しそうだ。いったい何にそんなに忙しくしているのだろうか…。

 いや別に気になるとかではないんだが。

 学校にダラダラ残っているのはリア充たち。俺には関係ない。俺みたいな底辺はとっとと学校から退散だ。

 昇降口からでてそのまま自宅に直行…と見せかけて体育館裏に向かった。

 誰もいないことを確認して植木の中に潜り込む。

 ニャアニャアと甘えたような猫たちの声。

 俺はここで猫たちを繁殖させている。俺にはこれが必要なんだ。

 今は子猫が十匹。親猫はいない。

 俺はカバンから猫の餌を取り出すと子猫たちに食べさせた。

 満腹になると子猫たちはお互いの毛繕いをしながらゴロゴロと喉を鳴らした。

 俺の喉もゴクリと鳴った。

 たまらず子猫のお腹に頬ずりをする。ふわふわのお腹に触発されて思わず吸い付きたくなる。

 だめだ。今日はもうだめ。我慢するんだ。

 そうこうきているうちに、後ろでガサっと音がした。

 振り向くと海藤麗奈がそこに立っていた。

「戸越くん…何をしているの?」

「いや…これは…」

 しまった…変なところを見られてしまった。ってゆうか何でここにいるんだこの女。

「猫?」

 俺の後ろを覗き込んでくる。この動きとかも無駄がない。計算し尽くされた男をドキッとさせる仕草だ。

 俺は慌てた。

「あっと、これはたまたま今見つけて…」

「へぇ…かわいいね…戸越くん…猫とか可愛がるんだ…ちょっと意外…」

「よ、余計なお世話だ…」

「学校で生き物を勝手に飼うのは禁止だよ」

「飼ってたわけじゃねぇし…」

「じゃあその猫缶は何?」

 やばい…もう言い逃れはできない。猫とか可愛がってキモいやつと思うだろう。

 …いやまてよ。どちらかと言うと嫌われた方がいいのでは? 麗奈さまも “生理的にムリ” には抗えないというところを見てやりたい。

「…見られたなら仕方ない。察しの通り、子猫を猫可愛がりしてたんだ」

「やっぱりそうなんだ。戸越くんて、優しいんだね…見直しちゃうな」

 なん、だと? 俺は顔に血が昇っていくのを感じた。

 あろうことか俺は赤面していた。この俺が、あざとさ100%のこんな女に言われたことで、照れている?!

 まてまてまて、立て直すんだ俺。いつもの冷酷非道な俺に戻れっ!!

 なんとか冷静さを取り戻し、猫のことを見逃してもらおうと海藤麗奈の方を見ると、なんと奴は、わざとらしく前屈みになって俺に胸の谷間を見せつけていた。そして、キラキラした目でコチラを見ている。

 …だ、だめだ、可愛すぎる…いや、あざとすぎる…。

「ふふ、照れてる戸越くんもかわいいね。残念だな。意外と好みだったんだけな、戸越くん。猫を下に置きなさい、下級悪魔」

 言いながら海藤麗奈は細長い棒のようなものをポケットから取り出した。それは俺が80年ぶりに見る代物だった。

 抗魔道具…。

 まさか!?

「お、お前、祓魔師か!?」

「気がつくのが遅いっ、てね。無害そうだから手懐けて使い魔にでもしようと思ってたんだけど…猫ちゃんを食べるなんてゲスの極みだわ」

「俺は猫を食べたりはしない」

 くそ。よりによって祓魔師だと? だったら今までのは全部演技だったってわけか。やっぱりおかしいと思ったんだ。こんな俺にカースト最上位の女子が好意を寄せるわけないって。

 俺のバカっ!!

 俺は仕方なく海藤麗奈の生命力を吸わせてもらうことにした。人間の生命力を一定量吸うと記憶を混乱させることができる。

 この肉体に憑依して800年。大した能力もない。子猫の生命力を朝昼晩に少しだけ貰えれば現世に留まっていられる。命を奪うことはしない。というかそこまでできない。

 俺はギリギリのところで現世にしがみついていた。あるひとと再び出会えるまで。俺はまだ魔界に戻る気はない。

 ましてやこんなあざとい祓魔師にやられるわけにはいかないのだ。

 俺は全力で海藤麗奈に飛びかかった。祓魔師ならば手加減無用。相手が女だからって油断するとこちらが祓われる。

 長期戦が予想されると思いきや、海藤麗奈はあっさり俺に押し倒されてしまった。これではまるで普通の女と同じではないか。

 海藤麗奈は自分の弱さを認めたのか諦めたのか、悔しそうな表情で馬乗りになっている俺を見上げていた。涙を滲ませたその表情に俺は少し欲情していたのかもしれない。

 俺は何も考えずに本能的に海藤麗奈に口付けると、そこから生命力を奪った。ちなみに生命力はどこからでも奪える。キスする必要は微塵もないのだ。

 冷静に考えたら、こんなにあっさり決着がつくはずがないとわかったはずだ。しかし俺は海藤麗奈の絶妙な表情に我を忘れていた。あれは男を狂わす視線だった。

 俺は夢中で生命力を貪った。そして気がついた。

 前戯の途中で萎えてしまった男のように俺は海藤麗奈から身体を離した。
 口の中に異様な味が広がった。忌まわしい。唾を吐き口元を拭った。

「お前、人間じゃないな…」

「ほんと、気がつくの遅い」

 舌なめずりをしながら海藤麗奈は俺の首筋にガブリと噛み付いた。

 鋭い痛みと不快感。

 ゴキュゴキュと俺の血を飲んでいる音が聞こえて吐きそうになる。

「や、やめろ…」

 屈辱的なこの状況。逃れようとしても力が入らなかった。俺はもう、こいつに従うしかなかった。

「諦めなさい。光の巫女なんかにうつつを抜かしてる場合じゃないでしょ」

「なぜ…それを…?」

「いやだな戸越くん、この世に聖女なんかいないんだよ。目を覚まして。戸越くんが傷つけられるのをあたし見たくないな。世界最高峰のあたしと一緒に生きなさい」

 海藤麗奈はぐいっと俺の腕を引っ張ると胸を押し付けてきた。アニメとかでよく見るやつ。実戦で使う奴を初めて見た。

「冗談じゃない。だれがお前みたいなアバズレと…」

「誰がアバズレよ」

「どう考えてもお前だろう」

 歩き出した俺にくっついて、海藤麗奈は当たり前のように腕を組んだまま歩き出した。

「えーひどい…こう見えてもあたし処女なんだよ」

「うそつけ」

「戸越くんにならあげてもいいのにな」

「…マジでやめて…そういうの…」

 それから海藤麗奈は教室でも以前にも増して俺に絡んでくるようになり、俺の態度も相まって、クラス中から反感をかった俺は完全に孤立してしまった。

 そんな状況でも俺に隔てなく話しかける麗奈の好感度は爆上がり。取り巻きたちはどんどん増えていった。流石に同級生の血は飲んでいないようだった。

 麗奈は時々飢えたように俺の血を吸い、俺に生命力を吸わせた。

 麗奈は俺に執着している様子だった。手に入らないから。

 それが魔の生き物のさが。粘着質で諦めが悪い。

 俺だってこのまま大人しく麗奈のものになってしまえば楽になれると思うこともあるけれど、あのひととの約束が俺を縛り付けていた。

 あの女に再び会ってこの手で殺すまでは、俺は他者の所有物に成り下がるわけにはいかないのだ。

 それが俺の生きている全ての理由なのだから。

(おしまい)


ナルさんの『片想い文芸部』に参加します。

なんかちょっと長編を書けそうなお話になりました。
お題をありがとうござます☆

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