[創作大賞感想] 鵠更紗さん著『江古田マンション物語』/見知らぬあなたの人生の分岐点に立ち会ったような物語
鵠更紗さんの『江古田マンション物語』を読みました。
第一話はこちらです。
タイトルに惹かれるものがありまして読み始めました。
そしたら、すっかり心を持っていかれてしまったのです。
ネタバレなしでご紹介したいと思います。
普段、SFだのファンタジーだのばっかり言っている私なので、誤解のないように最初にお伝えしておきますが、『江古田マンション物語』はSFでもファンタジーでもありません。
どこかに本当にあるかもしれない日常を切り取ったお話です。
そういうお話も私は好きなんですよ☆
主人公の “私” は40歳を目前にした独身女性で、父母と三人で暮していたところ、父親が亡くなります。
そして彼女は父親が江古田にグランコーポKというマンションを持っていたことを知ります。
持っていた…というのは一棟まるまる所有していたという意味で、つまり大家さんです。
このマンションは昭和ぽい哀愁あるものを私は想像しましたが、それでも遺産としてはびっくりなものですよね。
江古田という場所がまだいいですね。
その昔、西武池袋線沿線に生息してたので、それだけでちょっと親近感です。
この大きな遺産を父親が残してくれたこと知り、主人公の “私” はマンションに移り住んで大家さんをやってみることにするのです。
主人公の “私” 若宮慶は、あまり交友関係も広くなさそうな感じで、過去に恋人に裏切られたこともあったりして、あまり人付き合いは得意ではないタイプの女性です。
そんな彼女が大家さんをやってみようと決断するのは、人生の中でも大きな分岐点なのかと想像します。
若宮慶がこのマンションでどんなことに出会うのだろう…と気になって、いつしか物語にのめり込んでいる私がいました。
40歳も近づくと、両親の死や老いと直面してくる年頃です。それに加えて、人生のパートナーがいないという状況。
急に先の人生を想像してしまう瞬間があるかと思います。
のほほんと実家で暮らしているのもまずいのでは…と思う状況だったのではないかと思います。
主人公の若宮慶は受け継いだマンションの経営を淡々と学び対応をしていきますが、そこには何か少し寂しさがただように思いました。
マンションを手に入れた! よしやるぞ!! ではなくて、残されたマンションに自分が知らなかった父親の姿を見ているというか、そこから自分がどう生きて行くのか探っているようなそんな雰囲気なのです。
人生の中でも親の死という大きな変化と共に残されたマンション。なんだかこの主人公は初めて自分自信と真剣に向き合ったのかな…という気がしました。
自分が初めて独り暮らしをしたときを思い出してしまった。
そんな主人公が遭遇する住民たちとの様々なエピソードがまた面白いのです。
集合住宅に暮らしていると、近隣の私生活が聞こえて来たりしてしまいますね。
そして彼女は気になる人にも出会ってしまいます。
それからはもう、主人公の気持に寄り添い過ぎて、ソワソワしてしまう私。
私はどちらかというと猪突猛進タイプなので、この主人公とはとても違っています。
だから、『江古田マンション物語』を読んでいると、まるで違った人生を覗き見ている気持ちになってやっぱり小説っていいなと思うのです。
普段SFとファンタジーばかりを読んでいる私にとって物語というのは、“驚愕” を与えくれる麻薬みたいなものなのですが、鵠更紗さんの小説を読むと、小説が与えてくれるのはもっと奥深いもので、見知らぬ誰かの人生を疑似体験できるものでもあるんだ…と再確認しました。
このお話は主人公が人生の中で体験する重要な分岐点を語っていますが、何千万人もの人間がひしめく大都会の中では、ありふれたできごとの一つなのかもしれません。
それなのに、どうしてこの物語はこんなにも魅力的なんだろう…と読み返して…その文章のすばらしさに気が付くのでした。
鵠更紗さんの文章がとにかく私は好きみたいです。
マンションの大家さんになった主人公が体験する日常の出来事が、主人公の思考回路を介してスルスルと心の中に入って来るのです。
読後感も心地よい。ああ、人生ってこんなだよね…としみじみしてしまいました。
しとしと雨の降る梅雨の夜に、ゆっくり読むのにおすすめな作品です。
ぜひどうぞ☆
追伸
主人公が作る料理が全部おいしそうです!
