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[ショートショート] 寡黙  #noteでBL

 ミノルは完璧な美しい青年だった。ヌードの男性モデルを求むという勇気のいる募集にも臆することなく彼はやってきた。

 私はこの募集を美術学校を介して行っていたので勘違いをした輩が引っかかる可能性は少ないとは思っていたが、ミノルのあまりの美しさに少し疑念を抱いてしまうほどだった。

 何かの餌として使われているとか、訳ありではあるまいか…。

 私のような売れないポルノ画家のモデルなどに応募してくるには美しすぎたのだ彼は。

 三十手前にして独身、おまけに少年のヌード専門となると怪しんで近寄ってこないやつの方が多い。

 こちらは金になるならなんでもやるというだけの男なのだが。

 そう、そんなしょうもない男の元に、山郷ミノルはやってきたのだ。

 伝えられた年齢より幼く見えた。年齢を偽っているのか…それとも成長期にちゃんとした栄養を取れなかったのか…。

 面接をした翌日、私はなけなしの金を叩いて探偵に彼の身辺調査を依頼した。その結果、いくつかのことがわかった。

 山郷ミノル。十八歳で年齢に詐称なし。戦争孤児である。数年前に疎遠だった親戚に騙されて多額の借金を抱えている。借金返済のためにいくつかの仕事を掛け持ちしている。モデルの仕事は美術学校の知り合いに紹介してもらったようだ。怪しげなバーにも出入りしているが、通常の接客をしている様子。

 戦後十年も経つというのに、まだその影響が子供達や若者に重くのしかかっているのだと知って私は憤りを感じた。まあ、私もそんな一人ではあるのだけれど。

 ひとまず危険な者ではないと判断し、私は彼をモデルとして採用することにした。

 約束した日。ミノルは予定の時刻にやってきた。私は十五分おきに休憩を挟むことや、軽食や飲み物を用意していることを彼に告げ、服を脱いでベッドに横たわるように指示をした。

「下着は脱がなくていい。少し恥ずかしいかもしれないが、仕事と思って割り切ってやって欲しい」

 ミノルは無表情で言われたとおりにした。

 私は彼をできるだけ安心させようと、お喋りをしながら絵を描いた。黙って絵を描かれては怖いだろうかと思ったのだ。

「君、お小遣いをためているんだろう? 食事はうちでしていくといい。少しは節約になるだろう」

 そんなようなことを私はべらべら喋っていたと思う。何を言ってもミノルは無言でこちらを見つめ返すばかりだった。
 あまりに無反応なので私はちょっと踏み込んでみた。

「噂によると、怪しげなバーにも出入りしているみたいだね。あ、特に調べたわけじゃないよ。たまたま知ってしまってね。もしも危ないことをしているな…ッツ」

 ここまで喋ると、私の頬に痛みが走った。触るとそこが鋭い刃物でやられたようにすっぱりと切れていた。手に血がついた。

 私はミノルの方を見た。彼は変わらない無表情でこちらをじっと見ているだけだった。私は無言で立ち上がり、傷を消毒して絆創膏を貼った。そしてそれ以上ミノルに話しかけるのはやめた。

 ただの偶然か…それとも私が口を閉じるように彼がやったのか。私はミノルに恐ろしいものを感じながらも、どこか放っておけない気持ちも同時に抱いていた。

 絵を完成させるには日数がいる。ミノルとは無期限の契約をしていた。好きな時にやめていいと言ってあった。

 もしかしたらもう来ないかもしれないと思ったのだが、ミノルは翌日もやって来た。そして服を脱ぐと昨日と同じポーズでベッドに横たわった。

 私も無駄話はやめて黙々と絵を描いた。

 ミノルは毎日、決められた時間に来てはポーズを取り、たまに食事をし、時間になると帰って行った。

 彼は私の絵には少しも興味を持たず、無表情…だが少しの憂いを含んだ表情でこちらを見返すばかりだった。

 一見すると感情が乏しいようにも見えたが、私には彼があきらめきっているように見えた。

 だがそれが、絵にするには最高のモデルとなった。私は彼のおかげでこれまでにない最高傑作を描き上げることができた。

 絵が完成した日、ミノルが初めて私の描いた絵を見てくれた。そしてそっけなく「似てないね」と言った。

「先生、僕はこんな顔をしていないし、乳首だってこんなにピンクじゃない」

「ミノル君…そのまま君を描いたらこの絵を見た人に君だってばれちゃうだろ」

「ああ、そうか」

「それともそのまま描いてほしかった?」

「いや…そういうことならこれでいいや」

 絵が完成してもミノルは喜ぶような表情もしないでいつもどおり帰って行った。

 ミノルの絵はいつもどおりに写真家に綺麗に撮ってもらいいつものポルノ雑誌に載った。
 雑誌が発売されるやいなや、この絵の原画を購入したいとの問い合わせが出版社に殺到した。

 絵は普段の私の絵の倍以上の値段で売れた。

 本当のところミノルの絵は自分の手元に置いておきたかったのだけれど。

 私は絵が売れて手にした金をミノルに全額渡した。ミノルは最初警戒して受け取ってくれなかったが、私は無理やり彼に金を渡した。

 それが原因だったのかわからないが、ミノルは翌日モデルをやめてしまった。やはり軽率に金を渡したのがダメだったのか。

 ミノルの出入りしているバーにも行ってみたが、私は門前払いを食らってしまった。
 どうやらミノルには相当嫌われてしまったようだった。

 出版社からはまた同じモデルで絵を描いてほしいと依頼が来たが、ミノルはもういなかった。

 私は記憶の中のミノルを思い出しながら絵を描いた。

 ミノルの絵はご婦人方に大変な人気となった。何より、ミステリアスな雰囲気がよいのだとのことだった。

 私は妄想の中でミノルに様々なポーズをさせて絵を描き続けた。

 そんなある日、残忍なニュースが巷をにぎわせた。

「あそこのバーで殺人があったらしいよ」

「たくさん死んだって」

 商店街のご婦人たちが噂していた。

「なんでも死体は切り刻まれて血の海だったって」

「生き残りの男の子がひとり見つかったんでしょう?」

「可哀そうにショックで話せないから病院にいるとか」

 私はこの “見つかった男の子” がミノルであると勘ぐった。何しろ現場が例のあのバーなのだ。

 非力な坊やは最初から被害者に仕立て上げられ、彼に疑いの目を向ける者は誰もいなかった。

 だが、私の心の片隅には一抹の不安があった。私の頬を斬ったのは何だったのか…。

 私はまた金を使って彼が入院している病院を調べさせた。病院はすぐ見つかった。そして入院しているのがミノル本人であることもわかった。
 彼の居場所を知って自分がどうしたいのかよくわからなかった。

 とにかくこのままミノルを失いたくないと思った。彼に執着していることを自分でも認めざるを得なかった。

 身内でもなんでもない私が面会できるとは思っていなかったので、受付で名刺を渡し、入院しているミノルに取り次いでもらえないかお願いをした。

 すると、すぐにミノルが私に会いたがっているとの返事が届いた。

 私はミノルが私を避けているわけではないことがわかり嬉しく思った。

 ミノルは頑丈な扉のついた個室でベッドに上半身を起こし窓の外を見ていた。
 私が入って行くと、振り返って私のほうを見た。

 それは前と変わらない感情の見えない、それでいてまっすぐにこちらを貫いてくる視線だった。
 安定剤を投与されていると聞いていていたが、それほどぼーっとしてる感じもない様子だった。

 私はベッドの横の椅子に座ってミノルと向き合った。

 彼が何も言わないので私から口を開いた。

「あいつらに何をされていたんだ?」

「僕は…何も知らないよ、先生」

 ミノルはいつもの調子で無表情に答えた。

 私はミノルの耳元にそっと顔を近づけ囁くようにこう言った。

「私にはもう猫をかぶらなくてもいいよ。誰も聞いてない」

 これを聞くとミノルは私から視線をそらさずににやりと笑った。それはまるで別人になったかのような邪悪な笑みだった。

「そんなこと言って、責任とれるのかい先生」

 普段の声とは似つかわしくない低い声でミノルが言った。私は本来のミノルはこれなのだと知りゾクッとした。恐怖と喜びが入り混じった感情が私の中を駆け巡った。
 自分でもこの感情をどう処理したらよいか解らなかった。

「君が何者なのか興味はあるけれどね。君が何であろうと私にとっての最高のモデルだ。逃がしたくない」

「正直な人だな。僕は先生にとって単なる金づるってわけか。やってることはあいつらと変わらない」

 これは挑発だ。ミノルは私を怒らせようとわざと言っている。だったら乗ってやってもいいかと思った。
 私はミノルの胸倉を掴んで静かな声でこう伝えた。

「私をあいつらと一緒にするな。あいつらが何をしたか知らないけれど。私はお前を傷つけない」

「逢ったばかりの人をそんなに簡単には信用できないよ」

 ミノルは私の手を優しく払うとニヤニヤしながら言った。私はずっと値踏みされているような気持ちだった。

「私を害だと思ったら殺してもいい。お前にだったら殺されても本望だ」

「なんだいそれ。こんなひ弱な子供が先生みたいな大人を殺せるわけないだろう」

 言いながらミノルは私の顔を覗き込んできた。瞳には力が宿り、ランランと輝いていた。殺すところを想像して楽しんでいるような目だった。
 私は恐怖で固まった。この青年は本当に私を殺すことができると悟った。それも容易く。

「お前はもう言うほど子供じゃないだろう」

「いいや、僕はまだ子供だよ。ほんの小さな子供だ」

 ミノルの吐く息から独特な香りがした。木が燃えるような、香木のような香り。
 頭の中で何かがチリチリと鳴っていた。

 そうやってしばらく私の顔を覗き込んでから、ミノルはため息をついて、ベッドに横になった。

「疲れた。先生、もう帰って」

 私は立ち上がって彼の病室を出た。出るときに、そっと「待っているよ」と彼に声をかけて出た。

 このままミノルを連れて帰りたい気持ちでいっぱいだったが、私は我慢した。きっとミノルは来てくれる。そう確信もしていた。

 数週間後、ミノルは何事もなかったかのように私のアトリエへやって来た。

「来ると思ったよ」

「余計なことを吹聴されたら困るからね。監視」

 私は内心泣いて喜びたい気持ちを抑えながら、ミノルの服を脱がせてベッドに横たえた。

「先生のためだったらこれも脱いでいいけど」

 ミノルが下着を脱ごうとしたので私はそれをやめさせた。

「そんなことは望んでいない。私はお前の絵を描きたいんだ」

「本当かよ」

 言いながらミノルは私が指示をする前に完璧なポーズを取って見せた。

 私はキャンパスに向かってミノルのふわふわした髪や、すべすべの頬のライン、邪悪で憂いを含んだ瞳、肩の線や嘘のピンクの乳首をなぞるように描いた。

 私はもう、彼から目を離すことができない。捕まってしまったのだ。何か得たいの知れないものに。

(おしまい)




なみさんのお題からBLを書く企画に参加します!
初めて参加します。

『激重感情仄暗不穏』『耽美』なブロマンス〜BL小説ということで、書いてみました。

激重感情仄暗不穏…。重い感情が渦巻くほの暗くて不穏な雰囲気の小説、そしてさらに耽美…ということで、こういう感じです。

どうでしょうか???

よろしくお願いします!



おまけ

BLはこれまでもちょいちょい書いていましたが、本格的に学習したいと思って、このごろブロマンス〜BLアニメをめっちゃ見ています。
勉強の成果は出たかな…。

BL好きな方はぜひこちらの記事も見てください~。

#noteでBL

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