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[ショートショート] 秘密

 その子は毎日夕方になると僕の家の前にやってくる。そんで小さな飴玉をひとつくれる。

 僕は飴玉を口に入れながら彼女の話を聞く。

 最初のころはお母さんと一緒に来ていたけれど、小学生になってから一人で来るようになった。

 彼女は学校でうまくいっていないようで、僕に困ったこととか悲しかったことを話してくれた。

 僕は飴玉をなめながら彼女の話を黙って聞いた。だってたぶん聞いてほしかっただけだから。

 毎日のように彼女は僕のところに来たけれど、別に僕の話を聞きたいわけではないようだった。いつも一方的に喋ってすっきりした顔になって帰っていくから。

 僕は彼女に言葉をかけたいなと思いながらも、彼女の満足した顔を見るだけで充分だと思うようにしていた。

 もしも僕が下手に意見など述べたらきっと嫌われて彼女はもう来なくなってしまう。そしたら飴玉ももらえないじゃん。

 彼女は時々たくさん飴玉をくれたので、僕は夜中にこっそり取り出してなめていた。口の中に広がる甘い味が彼女を思い出させた。

 やがて彼女は中学生になって、僕に制服姿を見せに来てくれた。その時は久しぶりにお母さんも一緒に来た。
 お母さんは最後に見たときから何年も経っていたせいもあってか、とても弱っているように見えた。老けた…って言ったら怒られるかな。なんだか疲れているようだった。

 中学生になると新しい友達もできたのか、彼女はとても明るくなった。僕は嬉しかった。それで調子にのって、彼女の話の合間に「へーそうなんだ」「よかったね」とか言葉を投げるようになった。

 僕が声を出しても彼女は驚きもしないで、普段どおりに話してくれた。

 そうか。別に会話に参加してもよかったんだ。なんか勝手に、僕は黙って聞き役にならないといけないかと思っていたんだ。だって喋ったらバレちゃうんじゃないかと思って。僕の気持ちが…。

 僕は彼女が好きだった。恋…なのかな。よくわからないけれど。最初に会った時から僕は君に夢中だったんだ。一人の人に固執するなんておかしいかな。やっぱり僕はおかしいのかな。

 夜になると彼女のことで頭がいっぱいになった。僕は飴玉を口に含んで彼女のことを思った。できることならこの手で触れてみたかった。

 そんなことをしたら今の関係を壊してしまうようで怖った。

 僕は夢の中で彼女に触れた。

 徐々に大人になっていく彼女の姿を思い浮かべながら、そのさらさらの髪の毛とか、耳に心地よい声とか、僕を癒してくれる雰囲気とか、柔らかそうな唇とか…細い指先とか…。

 ああ、だめだ。彼女のことを思うと、僕はダメになってしまいそうだった。

 僕はそっと見守っているだけでよかったのに。いつからか、僕の胸の中に消化できない感情がうずまきはじめていた。

 そう…これが恋ってやつなのかも…。

 …そういえば、彼女もたまに好きな人ができたって言っていたっけ。僕は今までそれは大切な友達ができたのかと思って喜ばしく思っていたんだけど…。

 彼女も恋をしている…ってことなのかな。

 そう思うと、胸が苦しくなった。息ができない気持ちだった。

 どうして? 彼女に好きな人ができることはいいことじゃないの?

 僕は胸の中にわだかまる感情を処理しきれずに、彼女がいつものように訪ねてきても、まともに彼女の顔を見ることすらできなくなってしまった。

「今日はね、紹介したい人がいて…連れて来たの」

 ある日彼女が言った。顔を上げると、男の子を彼女が連れてきていた。

 …あ、この子知ってる。あっちの曲がり角の先に住んでいる子だ。小さいころはよくこの辺にも来ていたけど…。久しぶりに見たらずいぶん大きくなったな…。それに、なんと言うか、彼から男の香りがした。子供とは違う大人の香り。

「同じクラスのケースケくん。ほら、私がずっと好きだって言ってた子…」

 そして彼女は恥ずかしそうに微笑んだ。隣にいるケースケも照れたような表情をしている。

「え、ずっと僕のこと話してたの?」

 ふふふと笑う彼女。幸せそうな二人。僕は顔を背けた。見てられないや。

「あはは…、それは…よかったね…」

 祝福しなくちゃいけないのに、僕から出た言葉はこんなダサい言葉だった。
 二人は幸せの報告をすると帰って行った。飴玉を置いていくのを忘れて…。

 それから彼女は僕のところに来なくなった。

 そりゃそうだ。彼氏といた方が楽しいもんな。

 俺は一人になった。彼女が来る前はずっと一人だったからそれに戻るだけなのに…。それは元に戻ったのとはまるで別のものだった。

 僕は孤独を感じていた。

 飴玉もなくなってしまった。

 僕は苦しかった。彼氏のことを恨むのはお門違いだとわかってはいた。だから苦しかった。

 このままで気が狂ってしまいそうだと感じて僕は家から外に出た。出たらだめって言われていたけれど、僕はもう言いつけを守る気はなかった。

 どうにでもなれ…という気持ちだった。やっぱり僕には無理だったんだ。

 彼女の話をよく聞いていたからだいたいこの時間にどこにいるのかはわかっていた。たぶん学校から帰ってくるころ。

 僕は交差点のあたりで彼女が来るのを待っていた。

 すると向こうから彼女と彼氏が仲良さそうに歩いてくるのが見えた。

 僕はイライラする気持ちを抑えて彼らから見えないように身を隠した。

 そして見つからないようにこっそり後を付けた。

 すると彼らは公園に入ってベンチに座るとお喋りをしながらいちゃつき始めた。彼が彼女にキスをすると、二人はずっとキスをし続けた。

 それは僕がしたかったやつなのに!!

 僕の心は怒りに支配された。家を出たのもまずかった。僕にはもう遮るものがなくなってしまった。

 怒りの矛先をケースケに向けてしまった。

 僕の怒りが当たったケースケはバタリとその場に倒れてしまった。

 驚いた彼女が彼の名を呼びながら助けを求めて周りを見渡した。

 そして僕の方を見た。目があってしまった…と思った。

 僕は一目散に逃げだした。

 家に帰ると扉をしめて奥の奥の部屋に隠れた。

 それからどれくらい経ったかわからないけれど物音がしたので外出ると、彼女が来ていた。

 飴玉がそっと置かれていた。

 彼女は小さな男の子を連れていた。

 よく見ると、彼女はずいぶんと大人になっているようだった。

「もう、ここには来ないかと思っていたけれど、やっぱり来ちゃった」

 と彼女は言った。

「この子はね、私の息子だよ」

 彼女の後ろからひょっこり顔を出した男の子は彼女の幼いころにそっくりだった。

 ああ、僕はいったいどれほどの時間、部屋の奥に籠っていたのだろうか。彼女に子供が産まれたことすら把握できていなかった。

「ずーーっと前にケースケを連れて来たのを覚えている? あの人、高校生のときに急に倒れて…脳梗塞だったんだけど…それから体に麻痺が残ってしまって、僕なんかといないでって別れてほしいって言われて…」

 彼女は泣き出した。僕は何も言えずに黙って彼女の話を聞いた。

「あんなことがあったのに生きてるなんて、きっと神様が守ってくれたんだよ…って話して…きっとあなたが助けてくれたんだよね…ずっと来れなくてごめんね…」

 …ちがう…僕は…。

「この子はケースケと私の子だよ。私たち結婚して、必死で生きているよ。今日はその報告に来たの。引っ越しちゃったからずっと来れなくてごめん…」

 そういって彼女は帰って行った。彼女は変わらない。自分の言いたいことだけ言って帰っていく。

 彼女の息子が飴玉をくれた。彼は母親に呼ばれるまで僕のことをじっと見ていた。僕は飴を受け取ると部屋の奥へと引っ込んだ。

 いつもの寝床にもぐりこみ僕は泣いた。

 彼女が幸せそうで嬉しいと思う反面、彼女にはもう僕が必要ないのだと思い知らされて絶望的だった。

 僕は彼女を失ってしまった。

「ずいぶんと悲しい歌だね」

 泣きつかれて眠っていると、懐かしい声がした。

 お師匠様だった。

 僕は体を起こすと正座をしてお師匠様に向き合った。

「お師匠様。僕は失敗してしまいました」

「そのようだね。残念ながら君を破門するよ。本来の姿に戻り命を全うするがよい」

・・・

 目を開けると、僕はヒバリの姿に戻っていた。僕が神様になろうとしてからどれくらいの時間がたったのだろうか。

 僕がどういう経緯で神様になろうとしたのかもう忘れてしまった。

 何かを失ったのが辛くて辛くて神様になろうとしたのに、やっぱり僕は失ってしまったのだ。

 大人しくヒバリの命を全うしよう。これもお師匠様の慈悲なのかもしれない。

 僕は恋がしたくてしかたがなかった。

 もう誰も好きになったりしないと思っていたけれど、本能には抗えないのだった。

 僕は春の空へと飛びだった。

 心地よい日差しの中を飛んでいると、一羽の女の子がこちらに向かって飛んできた。

 その美しい姿に一目惚れだった。

 性懲りもなく、僕はまた恋をしてしまったのだ。

 僕は歌った。声をかぎりに。

 僕の声は君の身体をすり抜けずに届いた。

 振り返った君は僕の歌に応えてくれた。

 僕は全身で歌った。

 君が好き! 君が大好きなんだ!!

(おしまい)

☆歌詞をもとに書いたお話しです。



こちらの歌詞は、くえすさん&かのんさん企画で書いたものです。

くえすさんのメロディに私が歌詞を書いてかのんさんが歌ってくださいました。
↑の魔改造の原曲でもあります。

この歌詞をもとに絵または小説をかいてみませんか☆
ゆるく募集しています~。

なんか絵がうまくかけなかったので、絵かいて~。

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